今回の質問は、喘息発作に対する経口ステロイドについてです。
外来での幼児の喘息に対する経口ステロイドの適応について迷っています。
処方する場合のステロイドの種類と用量についても、ご教示ください。
喘息発作に対して外来での経口ステロイド
さっそくですが、質問に対する私の答えから。
私の経験ではありますが、幼児の小発作または中発作で、β2刺激薬吸入に反応良好であれば、経口ステロイドで管理できることが多いです。ただし、翌日必ず再診し、状態が改善していることを確認します。
投与量はプレドニゾロン1-2mg/kg/日(分1-3)またはデキサメタゾン・ベタメタゾン0.05-0.1mg/kg/日(分1-2)とガイドラインに記載されています。プレドニゾロンは苦く、服薬拒否が多い薬です。デキサメタゾンエリキシルのほうが、服薬成功率が若干高い印象を持ちます。
我ながら、なかなか端的にまとめたなーと思います。
上記のポイントは、3つあります。
- 何を選ぶか?
- 入院を回避できるか?
- 静注との違いは?
1つずつ見ていきましょう。
喘息発作に対する経口ステロイドは何を選ぶか?
ステロイドの内服といえば、プレドニゾロン。
錠剤で飲むなら、これでいいと思います。
錠剤が飲めない年齢の子どもでは、散剤、すなわち粉で飲むことになります。
これが……すごく複雑な味です。
オブラートに包んで表現しましたが、率直に言って苦くて不味いです。
オブラートに包んで飲みたい薬です。
プレドニゾロンは、アジスロマイシンと並んで、子どもに飲ませるのが難しい薬の代表格です。
経口ステロイドとしては、もう一つ有名なお薬があります。
それはデキサメタゾン。
半減期が長い(効果時間が長い)ので、1日1回投与が可能です。
エリキシルというシロップ剤があり、アルコールが5%含まれるので独特の風味はありますけど、プレドニゾロンよりかはずっとましです(好みはありますが)。
少なくても、プレドニゾロン散が飲めない子どもでも、デキサメタゾンエリキシルなら飲めたということはあります。
プレドニゾロンとデキサメタゾンの効果が同等であるなら、デキサメタゾンを使いたい。
問題は、効果が同等なのかどうか。
ということで、本日最初の論文はこちら。
喘息発作を起こしている2-16 歳児245人を2群に分け、いっぽうに経口デキサメタゾン(0.3mg/kg 単回投与)、もういっぽうにプレドニゾロン(1mg/kg/日、3 日間)を投与します。
第4病日に喘息の重症度(Pediatric Respiratory Assessment Measure)を比較しました。
その結果、デキサメタゾン(0.3mg/kg 単回投与)はプレドニゾロンに劣っていませんでした。
論文中にも触れられていますが、プレドニゾロンの苦味は患児の服薬コンプライアンスを低下させる可能性があります。
デキサメタゾンはプレドニゾロンを飲めない子どもには有用かもしれません。
ただ、日本のガイドラインの量(0.05-0.1g/kg/日、分1-2)は、論文中のデキサメタゾンの量(0.3mg/kg 単回投与)より少ないことに留意しなければなりません。
経口ステロイドで入院が回避できるのか?
前述の論文には「小児喘息の急性増悪において、ステロイドはその後の入院、および気管支拡張薬の必要性を減少させる」とあります。
喘息発作に対してステロイドが有効であることは、もはや事実と言っていいでしょう。
事実と言っていいでしょう……とまで書いておきながら、本当にステロイドで入院が回避できているのでしょうか。
6歳未満の喘息発作に対して、プラセボと比べてステロイド投与で入院が回避ができたかどうかを調べています。
そんなの入院回避率アップで当たり前でしょ。
と思って読んでみたのですが……。
場所が救急外来なら、確かにステロイドで入院回避できています。(RR:0.58[0.37~0.92])
ですが、通常の外来ではむしろ入院率が上がっています。 (RR: 2.15 [1.08-4.29])
ディスカッションを読んでも、その理由については触れられていません。
喘息発作に対してステロイド投与がその後の増悪予防に有効なのかどうかは、さらに議論が必要と締めくくられています。
この論文を受けて、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017でも、「(β2刺激薬吸入などで)一旦発作が治まったと判断できれば、その後の増悪予防を目的とした経口ステロイド薬は不要である」とあります。
こうした事情もあって、「外来において幼児の喘息に経口ステロイドを適応できる状況はきわめて限定的」と私は認識しています。
そうは言っても、上記の論文の通り、救急外来では効いたわけですから……。
そういう想いと、丹波市には夜間の喘息急性増悪に対応できる一次救急施設が市内にないという2点の理由から、私は喘息の小発作または中発作で、β2刺激薬吸入に反応良好であれば、経口ステロイドを処方しています。
ただし、翌日必ず再診してもらい、状態が改善していることを確認します。
これは、ガイドラインの治療より少し過剰ではありますが、地域の特性上やむをえない対応と私は考えています。
経口と静注、どちらが効くのか?
飲み薬と点滴、どちらが効くと思いますか?
「点滴!」と答える人が多いと思います。
血管内に直接薬を投与するほうが、効きそうな気がしますよね。
でも、ステロイドは内服のほうが効果が高いかもしれません。
ステロイドの薬理作用の用量依存性が、最も安定して得られるルートは、経口投与と言われる。
したがって、パルス療法を除き、投与法は、可能な限り経口とする。静注すると大量であるほど、血中から消失する率が増す。
血中蛋白と結合できない遊離ステロイドが増えて、肝代謝される率が増すためと推定される。
したがって、静注投与は治療効果の用量依存性に不確定さをもたらす(理論的にまずい治療法だという意味ではない)。(経口不能又は腸管浮腫のとき)プレドニン®を静注に変えるなら,経口予定量の1.5倍または2倍の水溶性プレドニンを2分割して、one shot静注ではなく30分以上かけて点滴する。
1970年代に東大物療内科を中心にしたリウマチ研究会で、臨床経験に基づいて提案されたと聞いているが、文献的には記されていない。三森明夫:膠原病診療ノート 第4版, 2019, p51 (日本医事新報社)
膠原病診療ノート、本当にいい本です。
内科、小児科、外科、あらゆる医師が読むことをお勧めします。
このボリュームでこのお値段は安いです。
ステロイドに関しては、飲めるのだったらぜひ内服で。
まとめ
- 何を選ぶか?
→プレドニゾロンかデキサメタゾン。効果は同じ。プレドニゾロンは苦いので、難しそうならデキサメタゾンエリキシルを試す。 - 入院を回避できるか?
→回避できないかも。地域によっては試みてもいいと私は思うが、過信しないように。 - 静注との違いは?
→理論上は内服のほうが効く。内服できるのなら内服のほうがいい。