上の写真は、わが子の母子手帳です。
写真の左上をご覧の通り、1か月健診の日付が間違っており、斜線で修正されています。
私が研修医の時、指導医から「母子手帳はその家族にとって大切な宝物。絶対に書き損じのないように。修正液とかボールペンでグチャグチャっとするような変な修飾で汚さないように」と指導されました。
今でも私は母子手帳に記載するとき、必ず心を落ち着けて、細心の注意を払って書くようにしています。
というような「母子手帳の記載ミスは絶対にして欲しくない論」は、今回の本題ではありません。
今回のテーマは、上の写真の右側です。
いわゆる便色カードです。
この便色カード、あなたのお子さんが2012年の秋以降に生まれているのであれば、その母子手帳にも綴じこんであるはずです。
おそらくそのカードはツルツルとしていて、ここだけ質感が違うはずです。
今回は、なぜこの便色カードだけ質感が違うのかについて書きます。
胆道閉鎖症の早期発見に重要な「便の色」
胆道閉鎖症は1万人に1人の割合で発生する稀な疾患です1)。
放置すると胆汁性肝硬変をきたし、2-3歳までに慢性肝不全で死亡します1)。
早期発見および早期の葛西手術により、自己肝生存率が向上し、また本症患児の4.3%に合併する頭蓋内出血が予防されます1)。
胆道閉鎖症の早期発見には、「便の色」に注意することが大切です。
Q9.胆道閉鎖症の患児の便は白色ではないのですか?
A9.多くの育児書には、胆道閉鎖症の患児の便は「白色」あるいは「灰白色」と書かれています。
しかし胆道閉鎖症と診断された患児の保護者は、生後1か月頃の便色を振り返って、うすいクリーム色、メロンパンの色、レモン・イエロー色、うすいウグイス色などと表現します。
色を言葉で表現するのは非常に難しいです。
「うすい黄色」と言っても、イメージする色はそれこそ十人十色です。
そして、上記の引用の通り、胆道閉鎖症の子どもの便色の表現は様々です。
注意すべき便色とそうでない便色が一目で分かるような「色の見本」が必要でした。
質が担保された便色カード
注意すべき便色とそうでない便色が一目で分かるような「色の見本」として母子手帳に綴じこまれたのが、便色カードです。
便色カードは生命に直接影響する「胆道閉鎖症」という病気のスクリーニングに使われるカードです。
その色合いが、印刷物によって異なるようであってはいけません。
そのため、便色カードの作成は厚生労働省の「母子健康手帳における便色カードの作成等の要領について」において定められています。
印刷用紙は、アート紙又はコート紙を用いること。
アート紙もコート紙も平滑で光沢のある用紙です。
母子手帳で便色カードだけ質感が違うのは、アート紙またはコート紙が使われているからです。
便色カードのこだわり
便色カードの色合いは、用紙だけではありません。
このカードは、最新の印刷技術を用いて印刷されています。
「最新の印刷技術」という稚拙な表現で申し訳ありません。
(言い訳ではありませんが、こちらの参考文献1)も同様な記載です)
便色カードの印刷技術や制作に注意した点については、日本印刷技術協会の記事が面白かったです。
私が面白いと感じた箇所を引用します。
- 6分光カメラによる便のデジタル画像撮影。
- 形状に左右されにくい新生児の代表的な便を使用し、その色を分光レタッチして段階的な7色のサンプルを作成。これにより判断が色情報だけに注力できる。
- 人間の視覚特性を考慮して周辺をニュートラルグレイとした。
確かに、7色の便の性状は統一されています。
これが固い、水っぽいなど性状がバラバラだと、色合い以外の情報に左右されて、正しい判断ができなくなる可能性があります。
また、カードの周辺が灰色であることにも意味があることを知りました。
便色カードの注意点
こだわりの詰まった便色カードです。
扱いにはいくつか注意点があります。
便色カードの印刷は、特殊な技術を利用して可能な限り色が変化しないようにしています。
便色カードの紫外線による変色を防ぐため、直射日光のあたる場所での放置は避けてください。
通常の使い方で、便色カードが日光にさらされることはないと思います。
ですが、一応気を付けて保管してください。
また、便色カードをカラーコピーして使うのはやめましょう。
便色カードは実際に便に近づけて使用しますから、汚れる可能性があります。
だからといって、カラーコピーして使おうという考え方は好ましくありません。
カラーコピーでは正しい色合いが表現できません。
このあたりは、【周産期診療べからず集】 【新生児編】退院後[黄疸] 便色カードをカラーコピーして使用するべからず(周産期医学2015年 vol45 増刊 p869-871)にも書かれています。
まとめ
母子手帳の便色カードは胆道閉鎖症をスクリーニングするための非常に重要なカードです。
そのため、その質を担保するため、いくつものこだわりが込められています。
この便色カードだけツルツルとして質感が違うのも、正しい発色のためのこだわりの一つです。
参考文献
1) 胆道閉鎖症早期発見のための便色カード(小児内科2013年 vol45 3号 p580-582)