小児抗菌薬適正使用支援加算に思う不公平感。

最初に断っておきますが、小児抗菌薬適正使用支援加算の導入はとても良いことだと私は感じています。

ただ、私の診療に小児抗菌薬適正使用支援加算が適応されなかったことも事実です。

今回は、小児抗菌薬適正使用支援加算に対しての雑感を書きます。

小児抗菌薬適正使用支援加算とは?

2018年4月に診療報酬が改正されました。
小児科にとってトピックとなる改定は「小児抗菌薬適正使用支援加算」でしょう。

この新しい制度により、「カゼの子どもに対し、抗生剤の必要性がないため、抗生剤を使用しないこと」を親御さんに説明すると、800円の報酬が病院に入ります。

小児抗菌薬適正使用支援加算の目的

小児抗菌薬適正使用支援加算の目的は、薬剤耐性対策です。
抗生剤が不要な状況にも関わらず抗生剤を乱用していると、薬剤耐性菌が増えることが分かっています。

このため、厚生労働省は抗生剤を適切に使用するための対策「アクションプラン」を推進しました。

カゼに抗生剤が効かないことは医療者においては常識ですが、意外にカゼに抗生剤は効果があると考えている親御さんはいます。
これについては、こちらの記事に書きました。

風邪に抗菌薬が効くと考えている親はどれくらいいるか?

2018年3月27日

「カゼの子どもに対し、抗生剤の必要性がないため、抗生剤を使用しないこと」を説明することで、抗生剤の乱用を減らせるかもしれません。

小児抗菌薬適正使用支援加算によって、適切な抗生剤使用が推進されることを期待しています。

小児抗菌薬適正使用支援加算の実際

小児抗菌薬適正使用支援加算によって現場がどう変わったのでしょうか。

これについて書きたかったのですが、私の診療に小児抗菌薬適正使用支援加算は適応されませんでした。

なぜかというと、当科の診療報酬の算定は、いわゆる出来高算定だからです。

小児抗菌薬適正使用支援加算は「小児科外来診療料」または「小児かかりつけ診療料」における加算となっています。

「小児科外来診療料」および「小児かかりつけ診療料」は、言いかえれば小児科外来の包括算定です。
出来高算定を行っている当院では、包括算定にしか加算できない小児抗菌薬適正使用支援加算は適応できません。

出来高算定と包括算定

出来高算定は、患者さんに行った処置、検査の分だけ診療報酬を算定できる仕組みです。

この仕組みはとても合理的に見えます。
ですが、この仕組みを悪用すれば、検査が必要ない患者さんにたくさんの検査を行って、診療報酬を増やすということができてしまいます。

包括算定は、患者さん1人あたりの診療報酬が決まっていて、検査をしても処置をしても報酬は変わらないという仕組みです。

この仕組みだと、病院は無駄な検査をしないようになります。
無駄な検査をすれば、病院が赤字になるためです。
いっぽうで、この仕組みを悪用すれば、必要な検査すらも省略して、黒字を増やそうとする病院も出てきてしまいます。
また、検査がたくさん必要な重症例を診たがらない病院もあらわれる可能性があります。

当科を受診する患者さんは比較的重症なので、当科は出来高算定をしています。
ただの風邪で当科を受診するケースは少なく、多くの子どもでレントゲンや採血、点滴などの治療が必要となります。
これらの検査を行うと、たくさんのコストがかかってしまいます。

そのため包括算定をしていると、必要な診療報酬を受け取れなくなってしまいます。

小児抗菌薬適正使用支援加算に対する雑感

私の診療において、風邪と診断するためには、多くの検査が必要になることがあります。
発熱が長かったり、脱水を認めたりして、ただの風邪というには重症感がある子どもが当科を受診するためです。

そのため、採血、レントゲン、点滴など、多くの処置を伴ったあと、「細菌感染ではなさそうです。お子さんに必要なのは抗生剤ではなく、水分の補給と鼻汁吸引、そして十分な休息でしょう」と説明します。

たくさんの労力をもって、ようやくカゼと診断し、抗生剤を使わないことを説明したにも関わらず、私のこの労力には小児抗菌薬適正使用支援加算はつきません。
なぜなら、当科は出来高算定だからです。

いえ、小児抗菌薬適正使用支援加算を「小児科外来診療料」および「小児かかりつけ診療料」の加算にした理由もなんとなく分かるんです。
もっとも適切に抗生剤を使って欲しいのは、一次救急である開業医の先生であるという意味が込められているのだと思います。

それでも、カゼを診断するのに非常に労力を割いている病院で加算が取れないことに対して、「不公平だな」と思うことくらいは許されると思うんです。

その他の雑感

今回の小児抗菌薬適正使用支援加算の件で、当科も包括診療を行ってみてはどうかと考え、医事科と試算するきっかけになりました。

ただ、この試算が結構大変です。
小児科外来でもっともコストのかかっているパリビズマブ注射は小児科外来診療料から除外できますので、パリビズマブ注射以外の患者さんで試算しなければなりません。

医事課とのディスカッションはとても面白いですし、勉強になります。
医者はお金のことに疎いですが、医事課の人はお金にすごく鋭いです。
お金がないと病院が潰れて、私は子どもを診察できなくなってしまうので、お金は大事です。

あと余談ですが、私は「○○は意味がないです」とか、「××は効かないので処方しません」とか、そういうネガティブな情報を前面に出す説明はあまりしません。

お父さん・お母さんが欲している情報は「意味のある治療法」や「よく効く治療法」であり、「意味のない治療法」や「効かない治療法」ではないと私は感じています。

そのため、私がカゼだと診断した時は「抗生剤は効きませんので、出しません」ではなく、「抗生剤よりも、もっとお子さんによく効く治療法があるんですよ」と説明し、鼻汁吸引の指導をしたり、必要なら去痰薬を出したりしています。

まとめ

カゼと診断された子どもに、抗生剤が不要であることを説明すれば、小児抗菌薬適正使用支援加算が取れます。

ですが、当科は出来高算定であるので、この加算は取れません。

抗生剤を適切に使うために多くの検査をしているのに、加算が取れないことに不公平さを感じつつも、小児抗菌薬適正使用支援加算の意味を考えると仕方がないことだと私は納得しています。

加算が取れようが取れなかろうが、カゼに抗生剤が必要ないことを説明することは大切です。
そして、ではどうやってカゼを治すかということも、同じくらい大切です。

今回の件で、医事科と包括診療の試算をしているところです。
医事課とのディスカッションはとても勉強になります。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。