2018年2月11日、12日に第112回医師国家試験がありました。
以前まで3日間だったのが、今年から2日間の日程になりましたね。
問題数は500問から400問に減ったものの、1日あたりの問題数は多くなりましたから、受験生にとっては今までより一層ハードだったかもしれません。
メディックメディアのホームページで、医師国家試験の割れ問について掲載されています。
私が受験した第103回医師国家試験では、このような試みがなかったので、面白いと感じました。
今回は、第112回医師国家試験の割れ問について考えます。
なお私は小児科医ですので、小児科と産科に関する問題ばかり取りあげると思います。
割れ問の定義
割れ問:多数派の解答の選択率が60%未満かつ、2番目の選択率が20%以上の問題。
メディックメディア
定義について特に意見はありません。
医学生にとって難しい問題か、問題自体が不適切な場合に割れ問となります。
では、さっそく112回国試の割れ問を見ていきましょう。
A1
高アンモニア血症をきたす疾患はどれか。
a. Gaucher病
b. von Gierke病
c. Hurler症候群
d. メープルシロップ尿症
e. オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
最初の問題がこれです。
メディックメディアは内分泌のカテゴリーにしていましたが、個人的には小児科の問題です。
島根大学がオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC欠損症)の新しい分析法を発表したのが、つい最近のトピックスです。
オルニチン回路というフレーズさえ覚えていれば、OTC欠損症を知らなくてもeを選べます。
ただ、von Gierke病→肝不全→アンモニア上昇(いわゆる肝性脳症)ということにならないのか、一瞬頭によぎりました。
糖原病はいろいろな型があって難しいです。
小児科専門医となった今でも。
B30
31歳の1回経産婦。妊娠32週1日。性器出血を主訴に来院した。10日ほど前にも同様の性器出血があり、3日間の自宅安静で軽快したという。本日自宅で夕食作りをしてたとき、突然性器出血があり、慌てて受診した。来院時ナプキンに付着した血液は50mlだった、膣鏡診で計250mlの血液および凝血塊を確認し、子宮口から血液流出が続いているのが観察された。(問題文の一部省略)
エコー所見は全前置胎盤。
対応として正しいのはどれか。a. 帝王切開を行う。
b. 子宮頚管縫縮術を行う。
c. 翌日の受診を指示し帰宅させる。
d. β2刺激薬の点滴静注を開始する。
e. オキシトシンの点滴静注を開始する。
aかdで迷いますよね。
dは塩酸リトドリンとかウテメリンとかいう薬、いわゆるお腹の張りを抑える薬です。
このケースでは迷わずaを選びますが、実際はかなり迷うケースもあるでしょう。
帝王切開すべきか、妊娠継続すべきか。
10日前の警告出血の時点で入院しておけばよかったとか、32週であれば小児科医的には不安はないけれどとか、いろいろ考えてしまいます。
架空の症例ですが、メッセージ性の高い問題ですね。
C4
末梢静脈路から1Lの維持輸液製剤(Na35mEq、K20mEq)を投与する際、この製剤に追加できるカリウムの最大量はどれか。
a. 2
b. 4
c. 20
d. 40
e. 200
カリウムは気をつけてね、というメッセージなんでしょう。
添付文書見れば書いてあることなので、覚えていなくてもいいことのようにも思います。
ちなみに、小児科で「K」といえばビタミンKです。
「K静注します!」
「それカリウム!」
というブラックジョークがあるとか。
C14
正常胎芽・胎児において心拍数がもっとも多い時期はどれか。
a. 妊娠6週
b. 妊娠9週
c. 妊娠16週
d. 妊娠28週
e. 妊娠40週
これは難しいです。
40週より28週のほうが心拍数が多いのは知っています。
ですが、それより小さい週数でどうなるかは知りませんでした。
(答えはbだそうです)
D3
小児期から増悪と寛解を繰り返す耳漏を主訴に来院した患者。耳漏の細菌検査で同定される可能性がもっとも高いのはどれか。
a. 結核菌
b. 肺炎球菌
c. 黄色ブドウ球菌
d. インフルエンザ菌
e. モラキセラカタラーリス
これも難しいです。
中耳炎といえば、肺炎球菌かインフルエンザ菌かモラキセラか。
肺炎球菌ワクチンとHibワクチンのおかげで、これらの中耳炎はずいぶん減ったように感じています。
昔の統計データはあまり役に立ちません。
この患者さんは予防接種歴はどうなんでしょうか。
今は何歳なんでしょうか。
増悪と寛解を繰り返すというのは、どれくらい繰り返したんでしょうか。
慢性化していて、いろいろな抗生剤が試されていると、MRSAを含めた黄色ブドウ球菌が出てくるでしょうね。
ですが、黄色ブドウ球菌と肺炎球菌、どちらが頻度が高いのかは私には分かりません。
慢性中耳炎は黄色ブドウ球菌?
肺炎球菌だって絶対にありえると思いますよ。
もし予防接種をしていないのであれば、なおさら。
実際にこんな患者さんが来たらどうします?
そんなの培養結果待てばいいじゃないですか。
D38
出生直後の新生児。緊急帝王切開で出生した。心拍数60回/分。出生時から自発呼吸がなく、全身にチアノーゼを認める。刺激しても反応がなく、全身がだらりとしている。娩出後30秒の時点で自発呼吸がない。(一部省略)
この時点で開始する処置として適切なのはどれか。a. 胸骨圧迫
b. 静脈路確保
c. 足底および背部刺激
d. バッグバルブマスク換気
e. CPAP
NCPRの問題。
インストラクターとして間違えられません。
「まだ娩出後30秒であり、もっと刺激を加えてみる!」という意見は正解にしたくありませんし、正解でもないでしょう。
迷わずバギングをして欲しい症例です。
なお、有効なバギングとなるために、口・鼻腔内吸引、体位保持は十分に行いましょう。
心拍の情報を与えるのが早いのが気になりますが、気にしないのがいいでしょう。
E3
成長および発達に異常を認めない体重9kgの1歳0か月の男児が1日に必要とするエネルギー量(kcal)はどれか。
a. 600
b. 900
c. 1200
d. 1500
e. 1800
1日に体重(kg)×150mlの母乳・ミルクを飲めば体は成長していく、ということを小児科医は知っています。
3kgなら1日450ml、6kgなら1日900mlの母乳・ミルクを飲めば十分です。
ちなみに、母乳・ミルクは100mlあたり65kcalくらいです。
つまり、乳児は1日に体重(kg)×100kcal必要です。
9kgだから900kcal。
簡単ですね。
E6
筋肉注射に適さないのはどれか。
a. 三角筋
b. 大殿筋
c. 中殿筋
d. 上腕二頭筋
e. 大腿四頭筋(外側広筋)
筋肉注射は小児科の得意分野です!
シナジス筋注の話はこの前しました。
大殿筋が筋注の場所として不適なのは有名です。
ただ、上腕二頭筋ってありなんですかね。
エピペンをお持ちのお母さんは、迷わず外側広筋に打って下さい。
F57
出生直後の新生児。在胎38周3日で常位胎盤早期剥離と診断され、緊急帝王切開で出生した。Apgarスコアは0点(1分値)であり、ただちに蘇生を開始した。
Apgarスコアの項目で最初に1点以上になるのはどれか。a. 呼吸
b. 心拍
c. 皮膚色
d. 筋緊張
e. 刺激に対する反応
またまた新生児蘇生に関する問題。
2問目ですね。
NCPRを受講した人なら迷わずbを選べるはずです。
まとめ
第112回の医師国家試験の「割れ問」のうち、小児科に関連した問題をピックアップしてみました。
今年は新生児蘇生の問題が2問も出題されました。
そして2問とも割れ問になっています。
新生児に関する項目がやはり不慣れな医学生が多いのでしょうね。
兵庫県立柏原病院では新生児蘇生法講習会を年3回行っています。
国家試験対策として受けるには非効率だと思いますが、気分転換がてらであれば学生でも参加できますので、どうぞご連絡ください。