子どもは好奇心旺盛で、よく動き回ります。
何でも口に入れることで、身の回りの世界を探求しています。
そして大人の行動を真似します。
このような特徴のある子どもは、親が飲んでいる薬を誤って飲んでしまうことがあります。
大人でもカフェイン中毒の話題が有名ですが、子どもにも薬物中毒は起きえます。
親が飲んでいる肩こりの薬、睡眠薬などを子どもが間違えて飲んでしまう危険性は十分にあります。
それも大量に。
子どもの薬物中毒への対応として、小児科医は「活性炭投与」を行うかもしれません。
活性炭投与のエビデンスは前回書きました。
今日は活性炭の実際的な投与について考えます。
活性炭とは?
木を燃やしたら、普通は灰になります。
ですが、木を蒸し焼きにしたら、水分が抜け、炭になります。
炭をさらに600~900℃に加熱したものを活性炭といいます。
こうすることで病原菌は消失し、内部には多数の空洞がつくられ,950~1,500m2/gの巨大な表面積を持ちます。
活性炭はその驚異的な表面積のおかげで、いろいろなものを吸着します。
薬物中毒のときに、活性炭を飲ませることで、薬毒物が活性炭に吸着します。
活性炭は腸では吸収されませんので、薬毒物を吸着したまま便と一緒に体外に出ていってくれます。
医療では「薬用炭」という名称で使われています。
メーカーの日医工のサイトに製剤の写真があります。
ご覧の通り、本当に真っ黒です。
活性炭の有効性
活性炭投与は、薬毒物を飲んでしまってから1時間以内に効果が高いとされています。
内服後1時間以内というと胃洗浄のタイミングと同じです。
1時間以上経過すると、薬毒物は胃を超えて、腸まで行ってしまい、そこで吸収されていくからです。
したがって、1時間経過してしまうと胃洗浄の効果は大きく低下します。
いっぽうで、活性炭は1時間以上経過していても効果はあるとされます。
腸まで薬毒物が行ってしまっても、そこで活性炭が吸着できれば吸収を抑えることができるためです。
また、いったん吸収されてしまった薬毒物に対してすらも活性炭は有効だという説があります。
静脈内に投与された薬毒物やすでに吸収された薬毒物でも、種類によっては腸粘膜血管内から腸管腔内へ濃度勾配により拡散分泌する。このため、経口投与した活性炭が腸管内の薬毒物濃度を下げると血中濃度も低下する。この作用を腸管透析という。
小児内科2008 2月号 P446
活性炭には単回投与だけでなく、複数回投与の報告例もありますが、複数回投与が有効であるとする根拠はこの腸管透析を根拠としているのでしょう。
ですが、活性炭投与のエビデンス記事に書いたように、薬物を飲んで4時間経過してからの活性炭投与は死亡率に影響しなかったというランダム化比較試験があります。
私は腸管透析を過度に期待しておらず、「活性炭は早ければ早いほど効果がある」という認識でいます。
活性炭の適応
単回投与での活性炭が特に有効とされている薬剤は以下です。
- アスピリン
- アセトアミノフェン
- フェノバルビタール
- フェニトイン
- テオフィリン
- 三環系・四環系抗うつ薬
ただし、これ以外の薬剤でも効果が期待されます。
ですので、たとえばタバコ誤飲によるニコチン中毒でも、カフェイン中毒でも活性炭は使用されていますし、その有用性を報告する論文もあります。
結局のところ、禁忌でなければ試みてよいというのが活性炭の立ち位置であるというのが私の認識です。
活性炭の禁忌
腸管閉塞、消化管閉塞に活性炭は禁忌です。
誤飲したものが腐食剤(強酸・強アルカリ)や炭化水素(灯油・ガソリン)の場合も禁忌です。
これらの物質は活性炭に吸着しないうえに、活性炭投与による嘔吐で食道損傷、重篤な肺炎を起こす危険性があるためです。
他にも、エタノールやエチレングリコール、鉄、硫酸鉄、リチウム、ヒ素、カリウム、ヨウ素、ホウ酸、フッ化物、臭化物も活性炭に吸着しないので無意味です。
また禁忌ではありませんが、意識障害がある場合や、咽頭反射がない場合(咽頭反射の求心路は舌咽神経ですから、舌の後方1/3を舌圧子で圧迫して、えづくような反射があるかどうかで判定します)は、カフ付きの挿管チューブで気道を確保すべきでしょう。
活性炭の投与量
活性炭は、小児では1g/kgで使います。
これを10倍から20倍の生理食塩水に溶かします。
例えば20kgの子どもであれば、20gの活性炭を200mlの生理食塩水に溶かせます。
活性炭の投与方法
意識がしっかりあって飲めそうであれば、口から飲んでもらいます。
活性炭自体には味はなく、においもないのですが、ザラザラとした独特な舌触りがあってあまりおいしいものではありません。
見た目の色も、正直言って泥水みたいですから、食欲を失わせます。
フタつきの不透明な容器に入れて、ストローで飲むとよいというアイディアがあります。
サクランボフレーバーやフルーツシロップ、チョコレートなどを混ぜるといいという意見もあります。
コーラを混ぜるのも見た目的にはいいかもしれませんが、炭酸で嘔吐したら大変なので、個人的には懐疑的です。
どうしても飲めない時や、意識障害がある場合は、胃管を通して注入します。
胃管は18Fr程度の太いものを日本中毒学会は推奨していますが、16Frでも問題なく投与できます。
あまり細いのを使うと、胃管が活性炭で詰まります。
もし先行して胃洗浄を行っていたら、そのチューブを使って活性炭を投与するといいでしょう。
緩下剤の併用
いわゆる下剤を投与して、活性炭を速やかに体外に排出させようとする考え方があります。
ただ小児では、下剤によって体液電解質に障害が起きやすく、PALSスタディガイドでは推奨されていません。
余談ですが、PALSスタディガイドはAHAのPALSプロバイダーマニュアルよりも値段が安く、内容も盛りだくさんで、写真や練習問題が多く、読み物としても面白いのです。
すべてが実践的だとは思いませんが、小児救急に携わっているのであれば「こういう方法もあるんだ」と一度は読んでおいてもいいでしょう。
意外なところで「へー」と思う箇所があります。(私は薬液の経鼻投与で「へー」と思いました)
合併症
活性炭を投与すると20%に嘔吐を認めるという報告がありますが、活性炭を投与しなくても中毒の多くは嘔吐を伴いますので、どれほどリスクを上げるのかは分かりません。
活性炭投与のエビデンス記事で触れたように、活性炭投与自体は誤嚥性肺炎のリスクにはならなかったと報告されていますが、もし誤嚥してしまったときには死亡例の報告もありますので注意が必要です。
終わりに
今回は活性炭の反復投与についてはあえて書きませんでした。
反復投与に関するエビデンスは単回投与よりもさらに弱いと私は認識しています。
活性炭の単回投与に関しては、レビューでも重要性が再認識されており、薬物中毒時には治療の選択肢として考えるべきだと思っています。
(ただし、4時間以上経過しての活性炭投与は有用なエビデンスを見つけられず、このあたりが時間的線引きなのかなと感じています)