社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例。

小児科専門医のために作られている「JPSオンラインセミナー」がとても面白いです。
その中で医療倫理をテーマとした「未承認薬・適応外の医薬品・医療機器を使用するために知っておきたいこと」を先日視聴しました。

そこでは審査情報提供事例が紹介されていました。
社会保険診療報酬支払基金が保険診療審査上、使用を認めている薬剤について述べられています。

今回は審査情報提供事例について書きます。

保険診療

治験という研究目的の治療を除けば、医者の診療の根幹は「保険診療」です。

保険診療における医薬品の取扱いについては、厚生大臣が承認した効能又は効果、用法及び用量(以下「効能効果等」という。)によることとされているが、有効性及び安全性の確認された医薬品(副作用報告義務期間又は再審査の終了した医薬品をいう。)を薬理作用に基づいて処方した場合の取扱いについては、学術上誤りなきを期し一層の適正化を図ること。

昭和55年9月3日付保発第51号厚生省保険局長通知
「保険診療における医薬品の取扱いについて」

要するに、「添付文書の通りに使わないと基本的には保険診療になりません」ということです。

ですが、添付文書は本当に小児科医泣かせです。
というのは、多くの薬が「小児への安全性は確立していない」と書かれているからです。
子どもへの安全性が確立していない薬は、原則として「保険の適応外」になります

「じゃあ小児科は保険診療をしていないということですか?」

もちろん、小児科医も保険診療をしています。
添付文書では認められていない使用方法でも、保険上は認められることがあるのです。

審査情報提供事例

さきほどの昭和55年ルールには、副作用報告義務期間又は再審査の終了した医薬品は、学術上誤りがなければ、添付文書で認められていない使用も保険診療となりうるとも書かれています。

学術上誤りがないかどうかを決めるのは、学会です。
学会が学術上の誤りなく適正に使用できている事例を社会保険診療報酬支払基金に申請します。
基金が認めれば、「審査情報提供事例」に認められた旨が記載されます。
そうすれば、添付文書では認められていない使用でも、保険診療として認められます。

では、審査情報提供事例で小児科に関係しそうな薬剤をピックアップしてみましょう。

抗生剤・抗ウイルス剤

アモキシシリン水和物

《平成24年3月16日新規》
○ 主な製品名
アモキシシリン細粒、アモリン細粒、サワシリン細粒、パセトシン細粒、ワイドシリン細粒、サワシリン錠、パセトシン錠、アモキシシリンカプセル、アモペニキシンカプセル、アモリンカプセル、サワシリンカプセル、パセトシンカプセル、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「アモキシシリン水和物【内服薬】」を「急性副鼻腔炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010 年度(日本鼻科学会)

スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム

《平成24年3月16日新規》
《平成26年9月22日更新》
○ 主な製品名
ユナシン-S 静注用、ピシリバクタ静注用、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム【注射薬】」を「扁桃周囲膿瘍」、「顎骨周囲の蜂巣炎」、「喉頭膿瘍」、「咽頭膿瘍」、「虫垂炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
嫌気性菌感染症診断・治療ガイドライン2007(日本化学療法学会)

アシクロビル

《平成19年9月21日新規》
○ 主な製品名
ゾビラックス錠、ゾビラックス顆粒、他後発品あり
○ 使用例
原則として、内服用「アシクロビル」を「水痘」、「ヘルペス性歯肉口内炎」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
水痘は帯状疱疹と同じ「水痘帯状疱疹ウイルス」による疾患であり、アシクロビルと薬理作用は同じである。
「ヘルペス性歯肉口内炎」は、単純ヘルペスウイルス感染症である。

バラシクロビル塩酸塩

《平成23年9月26日新規》
《平成28年9月14日更新》
○ 主な製品名
バルトレックス錠、バルトレックス顆粒
○ 使用例
原則として、「バラシクロビル塩酸塩【内服薬】」を「特発性末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

抗アレルギー薬・抗炎症薬

デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
デカドロン錠、デカドロン注射液、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「デキサメタゾン【内服薬】」を「急性閉塞性喉頭炎(クループ症候群)」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

プロカテロール塩酸塩水和物

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
メプチン吸入液
○ 使用例
原則として、「プロカテロール塩酸塩水和物【外用薬】」を「乳児の喘鳴症状」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

クロモグリク酸ナトリウム

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
インタール細粒、他後発品あり、インタールエアロゾル
○ 使用例
原則として、「クロモグリク酸ナトリウム【内服薬】」を「現行の適応症について6か月未満の乳児」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
原則として、「クロモグリク酸ナトリウム【外用薬】」を「現行の適応症について、3歳以下の小児」の症例でスペーサーを用いての使用に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

アドレナリン

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
ボスミン液
○ 使用例
原則として、「アドレナリン【外用薬】」を「クループ症候群」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

プランルカスト水和物

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
オノンカプセル、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「プランルカスト水和物【内服薬】」を「現行の適応症について小児」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

ヘパリン類似物質

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
ヒルドイドクリーム、ヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドローション、他
後発品あり
○ 使用例
原則として、「ヘパリン類似物質【外用薬】」を「アトピー性皮膚炎に伴う乾皮症」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

救急で使用する薬剤

アドレナリン

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
ボスミン注、エピネフリン注射液
○ 使用例
原則として、「アドレナリン【注射薬】」を「現行の適応症について小児」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

ミルリノン

《平成24年9月24日新規》
《平成26年9月22日更新》
○ 主な製品名
ミルリーラ注射液、ミルリーラK注射液、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ミルリノン【注射薬】」を「現行の適応症について小児」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
小児心不全薬物治療ガイドライン2002(日本小児循環器学会)

硫酸マグネシウム水和物・ブドウ糖

《平成24年3月16日新規》
《平成26年9月22日更新》
○ 主な製品名
静注用マグネゾール
○ 使用例
原則として、「硫酸マグネシウム水和物・ブドウ糖【注射薬】」を「心室頻拍」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
不整脈薬物治療に関するガイドライン(日本循環器学会ほか)

ドパミン塩酸塩

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
イノバン注、カコージン注、イノバン注シリンジ、カタボンLow 注、プレドパ注、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ドパミン塩酸塩【注射薬】」を「現行の適応症について小児」に処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

アデノシン三リン酸二ナトリウム

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
アデホス-Lコーワ注、トリノシンS注射液、ATP協和注、ATP注、
他後発品あり
○ 使用例
原則として、「アデノシン三リン酸二ナトリウム【注射薬】」を「心房性(上室性)頻脈」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版

抗けいれん薬

ジアゼパム

《平成19年9月21日新規》
《平成26年9月22日更新》
○ 主な製品名
ホリゾン錠、ホリゾン散、ホリゾン注射液、セルシン錠、セルシン散、セルシン注射液、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ジアゼパム」を「新生児痙攣、鎮静」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

ミダゾラム

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
ドルミカム注射液、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ミダゾラム【注射薬】」を「けいれん重積状態を含むてんかん重積状態」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

リドカイン

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
静注用キシロカイン、オリベス静注用
○ 使用例
原則として、「リドカイン【注射薬】」を「けいれん重積状態を含むてんかん重積状態」、「頻脈性不整脈及び現行の適応症について小児」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
不整脈薬物治療に関するガイドライン

心身症関連

アミトリプチリン塩酸塩

《平成24年9月24日新規》
《平成26年9月22日更新》
○ 主な製品名
トリプタノール錠、ノーマルン錠、アミプリン錠
○ 使用例
原則として、「アミトリプチリン塩酸塩【内服薬】」を「片頭痛」、「緊張型頭痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
慢性頭痛治療ガイドライン2002(日本神経学会)

アメジニウムメチル硫酸塩

《平成19年9月21日新規》
○ 主な製品名
リズミック錠、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「アメジニウムメチル硫酸塩」を「小児の起立性調節障害」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
起立性低血圧と起立性調節障害は、同様の疾患概念であり、薬理作用が同様と推定される。

その他

ジピリダモール

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
ペルサンチン-Lカプセル、ペルサンチン錠、アンギナール錠、アンギナール散、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ジピリダモール【内服薬】」を「川崎病冠動脈後遺症合併症の管理」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。
○ その他参考資料等
川崎病急性期治療のガイドライン

ニフェジピン

《平成23年9月26日新規》
○ 主な製品名
セパミット-Rカプセル、セパミット-R細粒、セパミット細粒、アダラートカプセル、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ニフェジピン【内服薬】」を「小児の高血圧」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

スピロノラクトン

《平成21年9月15日新規》
○ 主な製品名
アルダクトンA細粒、アルダクトンA錠、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「スピロノラクトン【内服薬】」を「現行の適応症について小児」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
薬理作用が同様と推定される。

ファモチジン

《平成19年9月21日新規》
○ 主な製品名
ガスター散、ガスター錠、ガスターD錠、ガスター注射液、他後発品あり
○ 使用例
原則として、「ファモチジン」を「胃食道逆流現象」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
○ 使用例において審査上認める根拠
胃食道逆流現象は、食道粘膜障害を発生し逆流性食道炎、Zollinger-Ellison 症候群と同様であることから、薬理作用が同様と推定される。

まとめ

副鼻腔炎にアモキシシリンを処方する小児科医は多いと思います。
それが保険診療で通るのは、日本鼻科学会が急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010 年度で「学術上誤りがないこと」を示してくれたおかげなのだと思います。

メプチン吸入が喘息性気管支炎で保険が通るのも、クループにデキサメタゾン内服やアドレナリン吸入ができるのも、ミダゾラムをけいれん重積に使えるのも、多くの救急蘇生薬が子どもに使えるのも、審査情報提供事例のおかげです。

なお、添付文書では適応外であるミダゾラムが痙攣重積に保険上は使えることについては、こちらにも書きました。
併せて読んで頂けると嬉しいです。

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2017年5月3日

また、アメリカでは小児の制吐剤として標準的に用いられているオンダンセトロン(商品名ゾフラン)は、日本では添付文書上は胃腸炎に適応がなく、審査情報提供事例にも記載はありません。
ですが、ドンペリドン(商品名ナウゼリン)との比較試験でオンダンセトロンの有用性が明らかにされましたので、社会保険診療報酬支払基金でも認められるようになったらいいなという思いをこちらの記事に書きました。

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ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。