2017年の手足口病の症状を原因ウイルスから予測。

第108回の医師国家試験からの出題です。

2歳の男児。
早朝から発熱を認め、四肢に皮疹が出現したため母親に連れられて来院した。
口腔内に疼痛はあるが、全身状態は良好である。来院時の手の写真を示す。
原因ウイルスはどれか。

a.ライノウイルス
b.アデノウイルス
c.コクサッキーウイルス
d.ヒトパピローマウイルス
e.パラインフルエンザウイルス

写真は手足口病ですので、答えは「c.コクサッキーウイルス」です。
ここまでは医学生レベルの知識です。

小児科医であれば、手足口病の原因ウイルスについて、もう少し知っておかなければなりません。
実は原因ウイルスによって、手足口病の症状は異なります。

今回は手足口病の原因ウイルスについて書きます。
そして今年(2017年)も流行するであろうと予測されるコクサッキーA6による手足口病の特徴についても述べます。

手足口病の原因ウイルス

手足口病の原因ウイルスは、いくつかあります。

手足口病はエンテロウイルスによる、特徴的な発疹症の1つである。
コクサッキーウイルスA16感染によるものが最も多いが、エンテロウイルス71、コクサッキーAウイルス5、7、9、10、およびコクサッキーBウイルス2、5およびいくつかのエコーウイルスが原因となる。

ネルソン小児科学

「あれ、さっきの問題の答えはコクサッキーウイルスだったけど、ネルソン的にはエンテロウイルスなんですか?」

ここがウイルスの分類の非常に難解なところです。
ウイルスは属・群・型で分類されます。
エンテロウイルス属は、5つの群に分かれます。

  1. ポリオウイルス群
  2. コクサッキーウイルスA群
  3. コクサッキーウイルスB群
  4. エコーウイルス群
  5. エンテロウイルス群

手足口病の原因ウイルスとしてネルソン的には最多である「コクサッキーウイルスA16」というのは正確には「エンテロウイルス属、コクサッキーウイルスA群、16型」となります。
ですので、属でいうならエンテロウイルスになります。

エンテロウイルス71は「エンテロウイルス属、エンテロウイルス群、71型」になります。
まるで「ヒト科ヒト属ヒト」みたいですね。
兵庫県立柏原病院でいえば「柏原町柏原」です。

ちなみにこれは血清型別の分類であり、遺伝子型別では異なった分類になります。
こうなってくるとますます混乱してきます。

代表的な手足口病ウイルス

「こんなにたくさんのウイルス、覚えられません!」

そうですよね。
覚えられませんし、そもそも覚える必要もないと思います。

手足口病の原因ウイルスとして、臨床的に重要なものはたった3種類だと私は考えます。

  1. コクサッキーウイルスA16
  2. エンテロウイルス71
  3. コクサッキーウイルスA6

それぞれの特徴について述べます。

コクサッキーウイルスA16

ネルソン小児科学に「手足口病の原因として最多」と書かれた最もメジャーなウイルスです。
「典型的な手足口病だ」と思った時は、コクサッキーA16であることが多いです。

典型的な手足口病の症状とは、次のようなものです。

  • 児は比較的元気。
  • 熱は微熱があったりなかったりする程度。
  • 手と足とお尻と鼠径部に発疹が出るが、それ以外の場所にはあまり出ない。
  • 手の甲(手背)がもっとも発疹が出やすいが、手のひらや足の裏にもできるのが特徴的。
  • 手と足の水疱は通常3-7mmで、年長児であると痛がることがある。
  • 水疱は1週間で消失する。

逆に、高熱であったり、頭痛や嘔吐を伴ったり、手足やお尻以外にも発疹が出たり、逆に発疹があまり目立たなかったりする場合は、コクサッキーA16以外のウイルスの可能性が高いです。

エンテロウイルス71

エンテロウイルス71の最大の特徴は、髄膜炎や脳炎の原因になりえることでしょう。

エンテロウイルス71による手足口病はコクサッキーウイルスA16によるものよりも重症の場合が多く、特に年少児では脳幹脳脊髄炎、神経原性肺水腫、肺出血、ショック、急激な死亡をはじめとする神経疾患および心肺疾患を随伴する率が高い。

ネルソン小児科学

私が姫路赤十字病院にいたときの指導医である濱平先生に「手足口病もヘルパンギーナも夏カゼの一種だが、手足口病はヘルパンギーナとは違って原因がエンテロウイルス71であることがあるから、脳炎や髄膜炎に注意」と指導されたことを思い出します。

コクサッキーウイルスA6

今回の記事の目玉であるウイルスです。
このコクサッキーウイルスA6は、ここ数年の手足口病診療におけるトピックスです。

2009年にコクサッキーA6によるこれまでとは臨床像が異なる手足口病の流行が愛媛県と大分県で報告されました。
以降、2011年、2013年、2015年、2016年にもコクサッキーA6の流行を確認されました。

国立感染症研究所のサイトで、2009年から現在までの手足口病の原因ウイルスのデータを確認できます。
今回の記事を書いた2017年6月27日現在で、2017年6月8日までのデータを確認できるので、ほぼリアルタイムな流行状況を知ることができてとても便利です。

現在までの報告例から、今年もコクサッキーA6は流行しそうに思います。

このコクサッキーA6は、一般的な手足口病とは少し変わった経過を示すことがあります。

コクサッキーウイルスA6による手足口病はエンテロウイルス71よりも罹患年齢が低く、発熱を伴いやすく、発疹は水疱が大きめで、顔面や体幹など四肢以外の広範囲に認めた。
さらに、爪甲脱落など爪の変化も多くみられ、明らかな疫学的臨床的相違を認めた。

日本小児科学会雑誌2015年8号P1219-1225
2013年に流行した手足口病の疫学的・臨床的特徴

他にも、いくつか特徴があります。

  • 水疱は痂疲(かひ:かさぶたのことです)化し、消退までに2週間以上かかる。
  • 高熱出現時には皮疹が見られず、発熱から数日たってから水疱が出てくる。
  • 頬の粘膜よりも、より奥の喉に口内炎ができ、ヘルパンギーナに似ている。
  • 治っても1か月後に爪の表面が剥がれてくる。

普通の手足口病と症状が異なるため、流行した2011年には「新型手足口病」という呼ばれ方もしました。

まとめ

2017年に流行する手足口病は、おそらくコクサッキーウイルスA6によるものになるだろうと予測されます。
これは一般的な手足口病とは臨床像が違うので、診断に注意が必要です。

とはいうものの、コクサッキーウイルスA6は2016年、2015年にも流行したウイルス型であるので、もはや「例年通り」と言うべきなのかもしれません。
「新型手足口病」と言うにはさすがに抵抗があります。
医学は日進月歩であり日々変わっていきますが、病気のほうも移り変わっていきます。
医師はいつも知識をアップデートしていかないと医学にも病気にも取り残されてしまいます。

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    小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。