RSウイルスやインフルエンザの検査。保育園に指示された時の11の対応。

「鼻水が出ているので、RSウイルスの検査をするように保育園に言われました

3歳の男の子のお母さんが、診察室に入るなりこう切り出しました。

男の子は確かに鼻水が出ています。
少し黄色っぽい鼻水です。
元気な表情で、目の輝きはとても良好です。

家の様子を聞くと、食欲は旺盛で、よく眠れ、よく遊ぶようです。

診察をしてみました。
胸の音はきれいです。
これだけ元気だと、あえて口の中を診る気になれません。

現在はRSウイルス流行期です。
おそらくこの子どもはRSウイルスによる上気道炎です。

(困ったな、どうしよう……)

こう思うのは、私だけではないと思います。
実は私の父も小児科医なのですが、この問題には頭を悩ませていました。

RSウイルスに限らず、「兄がインフルエンザになったので、この子も検査をするように保育園に言われました」と熱も咳も出ていない子どもを連れてくるお母さんもいます。

本当にどうしたものか。
考察してみます。

保育園にRSウイルス検査を頼まれたときの7つの対応

まずは、RSウイルスのケースで考えます。
上記の元気で鼻水だけ出ている3歳児を想定しましょう。
私の頭の中に、7つの選択肢が浮かびます。

  1. 「仮にRSウイルスだとしても大丈夫ですよ。安心して保育園に行ってください」
  2. 「検査するまでもありません。絶対にRSウイルスではありませんよ」
  3. 「分かりました、RSウイルスの検査をしましょう」
  4. 「検査はしませんが、RSウイルス陰性という診断書を書いてあげますよ」
  5. 「RSウイルスの保険適応は1歳未満の子どもだけなので、できません」
  6. 「すみません、RSウイルスのキットが品切れで……」
  7. 「検査を命令するとは、どこの保育園ですか?電話してみます」

どれが正しいと思いますか?
1つずつ見ていきましょう。

「仮にRSウイルスだとしても大丈夫ですよ。安心して保育園に行ってください」

「RSウイルスだとしても大丈夫です」という対応は医学的には正しいです。
RSウイルスは2歳までに100%かかっていますので、3歳の子どもはRSウイルスにかかってもすでに免疫を持っています。
喘息素因や慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患がない限り、普通は重症化しません。

しかし、今回のケースは「子どもが大丈夫なのかどうか」はあまり重要ではありません。
親は、子どもが大丈夫であることくらい分かっています。
こんなに元気な子どもが大丈夫でないわけがありません。

今回のケースは「RSウイルスの検査をするように」と保育園に命令されて受診しています。
「RSウイルスの検査をしてもらえるかどうか」だけが大事なのです。
「仮にRSウイルスだとしても大丈夫ですよ」という対応だと、親には「RSウイルスかもしれない」という情報と「検査をしてもらえなかった」という事実だけが残ります。
この対応では、親は満足しないでしょう。

もし親が納得してくれたとしても、保育園は納得してくれないでしょうから、結局子どもは鼻水が止まらない限り保育園に行けなくなってしまいます。

「検査するまでもありません。絶対にRSウイルスではありませんよ」

「絶対にRSウイルスではない」という診断書を持たせれば、保育園は一応の納得をするかもしれません。

しかし、これは医学的には正しくありません。
RSウイルスは何度でもかかります。
ネルソン小児科学にも「流行期の保育所では、1シーズンで60-80%の幼児が再感染する」とあります。
RSウイルスはしつこい鼻汁が特徴ですので、今回のケースは十分にRSウイルス感染が疑われます。
「絶対にRSウイルスではない」という診断は、医学的にはウソをつくことになります。
ウソも方便とは言いますが、やはり気が引けます。

さらに言うなら、やはりRSウイルスの検査をしていないので、保育園が診断書に納得しない可能性もあります。

保育園が「別の病院を受診してください」と親に命令し、親が素直に従って、別の病院でRSウイルス検査をしてしまったなら……。
まず間違いなく、「RSウイルス陽性」の結果が出てしまうでしょう。
これでは、「絶対にRSウイルスではありません」という診断がウソだったとばれてしまいますから、ヤブ医者の烙印を押されてしまいます。

「分かりました、RSウイルスの検査をしましょう」

保育所の命令に素直に従った対応です。
医療はサービス業なのだと割り切ってしまえば、客のニーズに応えていますので、ある意味正解とも思えます。

しかしこの対応には問題があります。

まず、3歳児のRSウイルス検査は、保険診療外の対応です。
RSウイルス検査の保険適応は「1歳未満か、入院しているか」です(正確に言うと、シナジス適応がある場合もRSウイルス検査の保険適応になります)。

3歳で入院もしていない男の子は、RSウイルス検査の保険適応がありません。
適応がない場合は自費診療となりますので、検査料と診察料を合わせて6000円くらいが相場になります。

鼻水が出るたびに、RSウイルスの検査をするのでしょうか。

仮に自費検査を希望されて、結果が陰性だったとします。

この子どもは、晴れて無罪放免、保育園に登園できます。
ですが、1週間後も鼻水が出ていたらどうでしょうか。

「1週間前にRSウイルス検査は陰性でしたが、今も鼻水が続いているので、RSウイルスにかかったかもしれません。病院で検査をしてもらってください」と保育園に言われ、また受診してくるかもしれません。

そうなったら、鼻水が続く限り、毎週6000円の検査をすることになります。

それでも、検査結果が陰性ならまだいいのかもしれません。
保育園に行けますから。

もしRSウイルス検査の結果が陽性だったら、保育園に行けなくなるでしょう。
RSウイルスは登園を禁止する病気ではありませんが、多くの保育園には「RSウイルスは登園禁止」という独自のルールがあります。

そして、登園するためには「RSウイルス検査をして陰性になれば登園許可とします」という独自ルールを持った保育園が多いです。
そういう持論を展開する保育園の園児たちは、RSウイルス検査が陰性になるまで、繰り返し6000円の検査をすることになります。

なお、この独自ルールは、科学的ではありません。
RSウイルス検査が陰性になれば人にうつらないなんてデータはありません。
そもそも、ただの偽陰性でしょう。
何度か測れば、そのうち陰性の結果が出ます。
特に、鼻水を少ししか採取できなかったら、RSウイルス検査は陰性と出ます。
ただそれだけです。

RSウイルスは2-3週間ウイルスを排出されますから、「RSウイルスは3週間はお休み」とするのが医学的には正しいかもしれません。
もしくは、軽症発症者や不顕性感染者を隔離することは不可能であるという考え方から、「休む期間は症状次第であり、RSウイルス検査陽性という理由ではお休みにしなくていい」というのも医学的に正しいかもしれません。

保育園の独自ルールは一種の宗教的な対応です。
ときに厳しくときに優しい神のような対応ですが、「保育園はRSウイルス蔓延防止に全力で取り組んでいます!」というパフォーマンスなのだと考えれば、理解可能です。
当然ですが、保育園は神ではありません。

まとめると、3歳の元気な子どもRSウイルス検査をしてしまうと、検査料が自費で6000円かかり、かつ結果が陽性だと保育園に登園できなくなるという弊害があります。
そして陰性であっても、鼻水が止まらない限り毎週RS検査を受けるということになるのです。

「検査はしませんが、RSウイルス陰性という診断書を書いてあげますよ」

この対応では、検査をしませんから、自費診療の6000円は発生しません。
診断書代は発生しますが、6000円よりも安いです。

そして検査は陰性と書くのですから、保育園にも無事通えます。
うかつに検査して、結果がRSウイルス陽性となって、保育園に行けなくなることを思えば、ある意味でお母さんの気持ちに寄り添った名医の対応にも見えます。

しかし、まあ、ダメですよね。
どうみても偽の診断書です。

「RSウイルスの保険適応は1歳未満の子どもだけなので、できません」

保険適応外の診療というのは、現状の医学では不要とみなされている診療と考えるのが一般的です。
ですから、「保険適応外なので、できません」という対応は間違いではありません。

ですが、「できません」と突っぱねると、親はRSウイルス検査をしてくれる病院が見つかるまでドクターショッピングを繰り返すだけです。

そしてドクターショッピングを繰り返す人は「あの病院は、お願いした検査すらしてくれないヤブ医者だ」という流言を広めます。

正直な対応をしていると、その医院は潰れてしまうかもしれません。

「すみません、RSウイルスのキットが品切れで……」

いわゆる「大人の対応」です。
ドクターショッピングを許容する姿勢になります。

こういえば、患者さんはおとなしく引き下がります。
「品切れで……」と謝罪すれば、流言を広められることもないでしょう。

そして、親はRSウイルス検査をしてくれる別の病院を探し出します。

もし子どもがRSウイルスでなかったとしても、流行期に小児科外来の待合室には、RSウイルスの子どもがいっぱいいますので、ドクターショッピングを繰り返していろいろな小児科を巡っているうちに、本当にRSウイルスになってしまうかもしれません。
しかし、それすらも許容するのが、今回の対応です。

開業医は医者であると同時に、経営者でもあります。
面倒な患者さんはできるだけ診たくないというのは、経営上大切かもしれません。

ですが、これをベストアンサーとすると、私は医者として良心の呵責に苛まれます。

「検査を命令するとは、どこの保育園ですか?電話してみます」

乱暴にも思えますが、今のところ私はこれが正しい対応なのかなと考えています。

「鼻水が出ているのでRSウイルスの検査をしてきてください」という保育園の対応は、正しいとは思えません。
他の園児が、保育園の不適切な対応で、適切な保育をなされないためにも、保育園としっかり話し合うべきでしょう。

電話だけでは医者の意図は正しく伝わらないでしょう。
できれば保育園の先生と直接会って、RSウイルスにどう付き合えばいいのかを話し合いましょう。

保育園の先生が「RSウイルスが園内に流行するのを少しでも食い止めたい」と悩んでいることは、医者にも伝わっています。
しかし、「鼻水の子どもを徹底的にRSウイルス検査し、もし検査陽性になれば検査が陰性になるまで登園を許可しない」とスタンスは、医学的には正しくありません。
余計な混乱を生じさせます。
そもそも保育園の先生は、1歳以上の子どもに対するRSウイルス検査が保険適応外であることさえ知らないかもしれません。

あるいは、「検査しろ!」という風潮は、保育園の先生だけの意向ではないかもしれません。
一部の保護者が「RSウイルスかもしれない園児を登園させないで欲しい!」と強く訴えていて、やむをえず保育園は病院に検査をお願いしているのかもしれません。

そうだとすれば、保育園の先生と話し合うよりも、その保育園の保護者に向けて講演ができるのが望ましいでしょう。

ともあれ、このケースで小児科医の目の前にいるのは、保育園と小児科医の板挟みにあっている親です。
この親は被害者です。
この親に対して「検査は不要!」と怒っても意味がありません。

やはり、保育園に連絡を取るのがもっとも良い対応だと思います。
保育園の先生の気持ちもくみ取りつつ、保護者の気持ちも理解しつつ、よりよい保育ができるようにしてあげたいです。

保育園にインフルエンザの検査を頼まれたときの4つの対応

インフルエンザも保育園に検査を頼まれることがあります。

ある母親は、「5歳のお兄ちゃんがインフルエンザになったと保育園に伝えたら、弟も検査するようにと保育園に言われたんです」と3歳の男の子を小児科外来に連れてきました。

3歳の男の子は、熱も咳も鼻水も出ておらず、元気いっぱいです。

「臨床的にはインフルエンザだとは思えません。検査は必要ないですよ」

こう伝えても、親は納得しないでしょう。

「熱が出ないインフルエンザもあるとインターネットに書いてありました。とにかく検査さえしてくれたらそれでいいんです」

このケースの親は、インフルエンザの検査を受けたくて病院に来ています。
医者の正論が聞きたいわけではありません。
検査をして欲しいだけです。

このケースも、RSウイルスと同じように7つの対応が可能なのですが、RSウイルスのケースと今回のケースとでは違うところが5点あります。

  • インフルエンザの検査自体は保険診療内で可能である
  • この児がインフルエンザである確率はとても低い
  • インフルエンザはRSウイルスと違って治療薬がある
  • インフルエンザが排出される期間はおおむね5日間と短い
  • 3歳児にとってRSウイルスとは異なりインフルエンザは脅威である

以上を考慮すると、とりうる対応は4つに減ります。

  1. 「検査するまでもありません。絶対にインフルエンザではありませんよ」
  2. 「分かりました、インフルエンザの検査をしましょう」
  3. 「すみません、インフルエンザのキットが品切れで……」
  4. 「検査を命令するとは、どこの保育園ですか?電話してみます」

さて、またまた一つずつ見ていきましょう。

「検査するまでもありません。絶対にインフルエンザではありませんよ」

困ったことに、絶対にインフルエンザとは言えないわけではないのです。
偽陽性というのですが、インフルエンザ検査の特異度は100%ではありませんので、インフルエンザじゃなくても「インフルエンザ陽性」の結果が出てしまうことがあるのです。

さらに、インフルエンザのお兄ちゃんとともに暮らしているわけですから、現時点でインフルエンザではなくても、2日後にインフルエンザになっている可能性はあります。
注意深い経過観察が必要です。

親はインフルエンザの検査をして欲しくて病院に来ていますから、検査をしなければやはりドクターショッピングされてしまうでしょう。
経過観察が必要な状況でドクターショッピングをされると、経過観察すらできません。

「分かりました、インフルエンザの検査をしましょう」

インフルエンザの検査は保険適応であるため、もう検査してしまってもよいかもしれません。
親の経済的負担にはなりませんし、保育園も満足します。
みんながハッピーになれます。

ですが、インフルエンザの検査って結構痛いんですよ?
鼻咽頭の粘膜をこすられますから。
子どもがかわいそうって私は思います。

ですので、正確には「子ども以外の大人たちがハッピーになれます」という対応です。
子どもがハッピーになるために頑張っている小児科医にとって、最大の皮肉かもしれません。

「すみません、インフルエンザのキットが品切れで……」

大人の対応ですね。
RSウイルスの時と同じです。

経営者的には良い対応なのかもしれませんが、医者としては不適切です。

「検査を命令するとは、どこの保育園ですか?電話してみます」

RSウイルスのときは、この対応をベストアンサーとしましたが、今回のケースは即断できません。
というのは、親も少なからず「お兄ちゃんがインフルエンザだから、弟もインフルエンザにかかっているかも。できればタミフルが欲しいな」と思っている可能性があるからです。
タミフルを代表とした抗インフルエンザ薬は、発症早期に飲むほど効果が高いことは、インターネットを通じて親も知っています。

検査を指示したのは保育園ですが、親も検査を望んでいるケースがあります。
RSウイルスと違って、インフルエンザは治療薬があるためです。

保育園を問い正す前に、親に説明をしましょう。
熱が出ていない状況でインフルエンザ検査をしても、インフルエンザかどうかは分からないことを説明しましょう。
検査はしかるべき時にしなければ意味がないことを説明しましょう。
その上で、検査を指示した保育園に連絡しましょう。

いっぽうで、保育園への説明も難航するかもしれません。
というのは、3歳児のRSウイルスは多くが鼻水が出るだけの軽症な病気ですが、インフルエンザはそうもいかないからです。
インフルエンザは高熱とともに強い倦怠感があり、かかるとかわいそうです。
RSウイルスのように、かかることを許容できるウイルスではありません。
2-3週間排出されるRSウイルスと違って、約5日間で排出されなくなるインフルエンザは、比較的予防的な隔離が奏功するかもしれません。

保育園側も「インフルエンザはとてもしんどい病気だから、少しでもかかっている可能性がある子どもはしばらく保育園に来ないで欲しい」と言ってくるかもしれません。
保育園と話をまとめることは困難かもしれません。

一例として、まず親に「現時点ではインフルエンザの検査をしても、その結果は正しくない結果が出てしまいます。インフルエンザになるかどうか不安な気持ちは分かります。ですが、そこをぐっとこらえて、もう少しみてみましょう。症状が出始めれば、すぐに検査しましょう」と説明し、「保育園には現時点で行くことは問題ありません。保育園の先生にも私から説明しましょう」と言いましょう。
そして保育園にも「現時点ではインフルエンザとして隔離する必要はありません。ですが、保育園でもし熱が出たらインフルエンザを発症したかもしれません。そういうときはいつでも当院に連絡してください。責任をもって診療させて頂きます」と伝えましょう。

親にも保育園にも、「私が責任をもって診ます」と伝えます。
これによりドクターショッピングは防がれ、子どもは適切な医療を受けられ、保育園も不要な隔離をせずに済みます。
これこそ、みんながハッピーだと私は考えます。

まとめ

繰り返しになりますが、子どもの安全を守るという意味で、親と保育園と小児科医は仲間であるべきです。

保育園の対応に、小児科医が怒ってはいけません。
保育園は保育園で、たくさんの子どもを預かる中で、いかに安全を担保するか悩んでいます。

感染症予防の基本は隔離です。
ですが、隔離を徹底しても防げない病気があります。
RSウイルスは隔離による予防は不可能と考えるべきです。
(もし封じ込めが可能なら、2歳までに100%かかるという現象が起きえません)
いっぽうで、インフルエンザは、隔離による封じ込めが可能かもしれません。

一概にどう対応すればいいとは決められません。
ですが、保育園の先生と小児科医が連絡を取り合うことが良いことであるのは間違いないと思います。

以上の考察をまとめると「RSウイルスやインフルエンザの検査を保育園に指示された時の対応は、保育園と話し合うことがもっとも良い」という回答します。

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ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。