今日は、中学校の先生たちと不登校の子どもについて意見を交わすことができました。
学校の先生が生徒の心の機微をしっかり捉えて、深く考えてくださっていることが分かり、大変心強く思いました。
有意義な面談だったと思います。
不登校への対応は、とても難しいものです。
すべての子どもが元気よく学校に行けるようにすることも、小児科医の使命です。
ですから、不登校に対して、小児科医は積極的に関わらなければいけません。
しかし、2004年度の調査では「不登校の対応に医療機関との連携が有効だった」と答えた学校は、たったの2.3%しかありませんでした。
不登校に対して私も頭を悩ませるのですが、小児科医は不登校に対して上手く関われていないように感じます。
今回は、不登校について書きます。
何らかの原因で「学校に行きたくない」と思っている子どもに対して、どのように接すればよいのでしょうか。
このページの目次です。
不登校の定義
文部科学省では、「病気や経済的理由以外で年間30日以上学校を欠席している児童」を「不登校児童」と定義しています。
しかし、子どもが学校に行きたくないと思うきっかけは、病気や経済的理由であることもあります。
起立性調節障害をクラスメートや先生に理解してもらえず、信頼関係が破綻して学校に行きたくないと感じている子どももいます。
そして、実際に学校を休む子どももいれば、苦しみながらも無理して学校の出席だけは続ける子どももいます。
こういう子どもたちも「不登校」に含めるべきでしょう。
したがって、小児心身医学会ガイドラインでは「学校に行くことがつらいという感情を強く抱いている状態」を不登校と定義します。
不登校の診断
小児科医がもっとも遭遇する不登校は、起立性調節障害です。
起立性調節障害は中学生の約20%が罹患しており、そのうちの約半数は「学校に行くことがつらいという感情を強く抱いている状態」に陥っています。
(実際には学校に行けている子どもも多いですが、彼らは無理をしています)
起立性調節障害については、こちらの記事も参考にしてください。
- 学校を休むと症状が軽減する
- 身体症状が再発・再燃を繰り返す
- 気にかかっていることを言われたりすると症状が増悪する
- 1日のうちでも身体症状の程度が変化する
- 身体的訴えが2つ以上にわたる
- 日によって身体症状が次から次へ変化する
以上のうち、4項目以上がときどき見られれば、心理社会因子があると考えられます。
その心理社会因子が学校に原因があるのであれば、不登校と診断されます。
実際に起立性調節障害の子どもを診れば分かりますが、「気にかかっていることを言われたりすると症状が増悪する」以外の項目はすぐに当てはまります。
起立性調節障害の重症な子どもは、頭痛と嘔気とめまいと腹痛のいずれかが次々と襲いかかってくることが多いです。
他にも、過敏性腸症候群や片頭痛、緊張性頭痛の子どもも、不登校に陥りやすいです。
これらも不登校の要素があるかどうかは、「心身症としての起立性調節障害チェックリスト」が参考になると私は感じています。
起立性調節障害でも、過敏性腸症候群でも、片頭痛でも、緊張性頭痛でもない子どもの不登校ももちろんあります。
学校でのトラブルが原因となっている可能性があります。
ある意味で、純粋な不登校です。
そういう純粋な不登校であっても、そのトラブルをすぐに見つけだすのは困難です。
子どもが心を開くには、時間と信頼が必要です。
信頼関係ができるまでのあいだは、起立性調節障害、過敏性腸症候群、片頭痛、緊張性頭痛などの病名を暫定的につけ「少しずつ治療していこうね」と説明することもあります。
「検査に異常ありません。精神的なものでしょう」と一言で片づけてしまうと、その子どもが小児科医に心を開くことは永遠にありません。
不登校を診察するときは、身体疾患の可能性を残しつつ、時間をかけて心の内側に近づいていきます。
状態に応じた不登校への対応:家庭編
状態に応じて、対応は変わってきます。
ただし、どの状態であっても共通して言えるのは、焦らないことです。
小児科医の焦りは、家族の不安や焦りを強め、子どもを追い詰めてしまいます。
「現状維持は前進である」という視点が重要です。
自室から出られない状態への対応
深刻な不登校です。
まずは、受診できたことを褒めましょう。
「今日はよく来てくれたね。キミのことが心配だったから、会えて嬉しいよ」と笑顔で診察室に迎え入れましょう。
次に、生活リズムをゆっくり改善していきましょう。
ただし、起立性調節障害が背景にあると昼夜逆転してしまいます。
この生活リズムを正しくするのはとても難しいことです。
こういう場合は無理に生活リズムを矯正せず、家族と挨拶することを目標にしましょう。
家族の一員として自然に声をかける程度の関わりを根気よく続けましょう。
もし子どもに好きなことがある場合、その趣味を肯定しましょう。
それがネットゲームであったり、漫画やyou tubeであったりしても、その趣味を否定してはいけません。
自室からは出られるが家からは出られない状態への対応
現状を維持することが大切です。
現状維持は前進であると肝に銘じましょう。
家事手伝いなど、家庭の中での役割分担ができるといいでしょう。
子どもが自分の興味のあることを話してきたときは、しっかり聞いてあげましょう。
子どもの話に興味や関心を示し、時間を共有しながら一緒に楽しむようにしましょう。
感動の共有を続けていると、そのうちドライブや買いものに一緒に行ける日がやってきます。
比較的自由に外出はできるが登校はできない状態への対応
起立性調節障害であれば、夕方には調子が改善している日もあります。
調子がいいときは買いものに誘いましょう。
表情が明るく落ち着いてきて、「退屈だ」という言葉が出てくれば、保健室・相談室登校のチャンスです。
ただし「気が向かない」と言われたら無理強いしてはいけません。
現状を維持することが大切です。
現状維持は前進であると肝に銘じましょう。
1~2か月後にもう一度勧める程度にとどめます。
登校はできないが塾や習い事には行ける状態への対応
ここを一応のゴールと考えてよいでしょう。
起立性調節障害であれば、通信制の高校であれば無理なく進学できます。
起立性調節障害は必ず治りますから、無理せず通信制の高校を卒業し、その後大学や社会人へと成長していくことが十分に見込めます。
家庭における注意点
不登校の子どもに必要なのは、いつも暖かく見守ってくれる存在です。
私はそういう存在を「母親のような存在」と呼んでいます。
家庭では、子どもの気持ちを尊重し、趣味や関心事に興味を持ってあげましょう。
母親はもともと母親ですので、特に指導しなくても優しく子どもを見守ってくれているケースが多いです。
注意すべきなのは、不登校の父親です。
父親は、実は不登校の子どもに対して大きな不安を持っていることがあります。
子どもと関われる時間が少ないので、余計に不安に思うのでしょう。
場合によっては、子どもの趣味である漫画やゲームをすべて捨ててしまうという理不尽な行動を取ってしまうのも父親です。
父親に「母親のような存在」になるように指導するのは難しいことです。
焦らず根気よく、子どもの状態に応じてできることをやっていけば、いつか不登校は治ります。
子どもの趣味を否定せずに、暖かく見守りましょう。
状態に応じた不登校への対応:学校編
不登校に対応するためには、学校との連携は欠かせません。
登校できない子どもへの対応
教師にとって、欠席している子どもも大切なクラスメートです。
教師の定期的な家庭訪問(または電話訪問)をできれば1~2週間に1回のペースで行ってもらい、学校の様子をプリントを添えて伝えてもらえるのが理想です。
登校できる子どもへの対応
学校に来たときは、暖かく迎え入れましょう。
遅刻や早退に対して嫌な顔をしてはいけません。
遅刻してでも学校に来てくれたことを喜びましょう。
学校に来れる日は、親に連絡してもらうようにするといいでしょう。
逆に、学校に来れない日は連絡してもらう必要はありません。
学校における注意点
家庭訪問の際に、隙あらば学校に連れていこうとしてはいけません。
子どもが「会いたくない」と言えば、家族と玄関で会うだけにします。
「先生はキミのことを気にかけているんだよ」という想いが継続的に伝われば十分です。
「出席日数が足りないと卒業できない」とか「欠席が多いと受験できない」という脅迫をもって登校を促しても、あまり上手く行きません。
そんなことを言う先生は、子どもに嫌われるだけです。
不登校の子どもを何人か診てきた程度の少ない経験ですが、おおむね担任の先生は嫌われています。
不登校を減らすには「担任が嫌われないこと」が大事です。
まあ、指導は少なからず嫌われるので、難しいのですけれど……。
少なくても、不登校になってしまった子どもについては、追い詰めず、優しく暖かく見守り、好かれる努力をしてください。
一方で、私たち小児科医への注意点として、学校を「指導」しようという考え方はあらためることです。
学校と小児科は、子どもの「情報共有」を行うパートナーであるべきです。
学校と小児科は対等でなければなりません。
また、学校の先生は、不登校の子どもや家族にへの対応に疲れている場合もあります。
そういった教師の気持ちも理解して、ねぎらうことも大切です。
まとめ
不登校の子どもを対応するには、母親のような態度で接するのが理想です。
優しく見守ってあげましょう。
それは家庭でも、学校でも、病院でも必要な態度です。
子どもが修学旅行だとか、運動会だとか、何でもいいので学校に興味を持ったときは、暖かく迎え入れましょう。
「普段の授業も来てないのに、修学旅行だけ来るなんて、甘えるな!」なんて言わないでください。
「修学旅行、来てくれるの? キミが参加してくれたら、先生はすごく嬉しいよ! 久しぶりの学校だから、不安なこともあるかもしれないけれど、困ったことがあったら先生に何でも言うんだよ? 先生が力になるからね!」くらい言えると、本当にかっこいい先生です。
小児科医は、もし学校で子どもが体調不良となったときは、いつでも相談に乗ることを学校に約束しましょう。
特に起立性調節障害の子どもにおいては、冒頭のアイキャッチ画像にある「学校生活管理指導表」を書くとよいです。
この指導表があると、学校の先生も不登校の児が学校に来たとき、どう接すればいいのか分かります。
とにかく、不登校の子どもには家庭と学校と病院の連携が欠かせません。
お互いに協力して、この大きな問題を乗り越えたいです。