子どもが発熱40℃です。脳への影響は大丈夫ですか?

子どもが風邪をひくことはよくあります。

乳幼児は1年に平均6-8回、風邪をひく。

小児の咳嗽診療ガイドライン2020 p108-109

そうはいっても、子どもの熱が39℃台後半になったら、親は心配になるでしょう。

今回は、脳に影響を及ぼす熱の高さについて考えてみます。

「脳への影響」を心配する親は多い

子どもの熱が、脳にダメージを与えはしないか。
そう心配する親は多いです。

子どもの発熱時に心配な病気・症状として71%の親が「脳への影響」と回答した。

横浜市立市民病院看護部看護研究集録 2009; 4: 19-24.

 

どれくらいの温度で「脳への影響」が出るか

では、「脳への影響」は、どれくらいの発熱で生じるのでしょうか。

まずは動物実験の報告です。

高温曝露モデルラットを用いて、急激な体温上昇が脳幹に及ぼす影響を分子病態学的に検討した。
42℃までは明らかな変化なく、42℃から44℃に上昇するさい有意に脳機能が低下した。

高温曝露に基づく高体温の脳幹への影響. 法医学の実際と研究 2008; 51: 99-103.

動物実験では、42℃まで脳障害が起きず、42℃から脳障害が起きることが分かっています。

人での報告はどうでしょうか。

そこで、今回紹介する論文はこれです。

Beliefs, Practices and Health Care Seeking Behavior of Parents Regarding Fever in Children. Medicina (Kaunas). 2019; 55: 398.

簡単に要約します。

親は子どもの発熱の影響について誤った認識を持っていることが多く、その結果、不適切な投薬や緊急ではない救急外来への受診につながっています。
本研究の目的は、発熱の影響と管理に関する親の考え方を明らかにすることです。

発熱でラトビアの救急外来を受診した子どもの保護者が研究対象です。
発熱に対する考え方、解熱剤の投与、病院を受診する基準、医療従事者とのコミュニケーションに関するデータを質問紙で収集しました。

合計355人の保護者が登録されました。
発熱自体が重症のサインであると考えている保護者は59.2%、子どもが発熱すると危険なレベルまで体温上昇する可能性があると考えている保護者は92.8%でした。
解熱剤の投与は通常38.0℃、危険と思われる体温の中央値は39.7℃で、56.7%の保護者が発熱後24時間以内に病院に連絡していました。
発熱38℃台ですら危険であると考えている保護者は、より早く、時間外に病院に連絡する傾向がありました。
大きい病院の医師のアドバイスのほうが、小さな診療所の医師のアドバイスよりも、親の満足度が高くなりました。
68.2%の保護者は、発熱した子どもが病院で治療を受けたときに安心感を得ていました。

発熱自体が重篤な病気であり、子どもの命に危険を及ぼすと考える保護者が多くいました。
このような誤解は、解熱剤の不適切な投与や、不適切な時間外受診につながっています。
特にプライマリ・ケアにおいては、適切な発熱管理についての保護者教育をより重視すべきでしょう。

要約はここまでです。

面白いと感じたのは、いくつかあります。
たとえば、保護者が「危険だ!」と考える体温の中央値は39.7℃でした。
これは、私が普段たくさんの保護者さんとお話していても感じるラインです。
子どもの熱が39℃台後半になると、すごく心配になる親御さんは多いのではないでしょうか。

もう一つ面白いと思ったのが、次です。

In a child with a healthy nervous system it very rarely rises above 42 °C, a body temperature that is associated with adverse effects.

「健康な子どもでは、体に悪影響があると考えられる42℃まで体温が上がることは滅多にない」とありました。

参考文献を読むと、正直なところ十分な根拠とは言えません。
体温と脳機能の影響について、直接的に研究した論文は見つかりませんでした。

それでも、動物実験との結果を併せて考えれば、現在の科学では「42℃までは脳への影響はない」という結論になると思います。

腋窩温なら41℃が妥当

「42℃までは脳への影響はない」と先ほど書きました。

でも、脳の温度と、通常体温計を用いる腋の温度とは、少し違います。
脳は体の内側にありますが、腋は外側にあるからです。

腋の温度は、直腸温より0.85℃低いという報告があります。
Temperature measured at the axilla compared with rectum in children and young people: systematic review. BMJ. 2000; 320: p1174-8

これを踏まえると、「41℃以下の発熱は脳への影響はありません」という表現のほうが現実的でしょう。

なお、腋の温度は、衣服や掛布やヒーターの影響で、思った以上に高くなることがあります。
一瞬41℃を超えても、適切な環境温調節(薄着にしたり、部屋を涼しくしたり)ですぐに41℃以下に下がるのであれば問題ないと考えます。
(これを「うつ熱」と言います)

まとめ

発熱41℃以下であれば、脳への影響はないと考えられます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。