私の食物アレルギー診療の実際その4「治療」。

私は、診察室の壁に食物負荷試験のステップ表を貼っています。
視覚情報は、説明の分かりやすさにつながるので大切です。
実際、この負荷試験表は非常に好評でして、写真を撮って帰られる親御さんもいますし、子どもも「あ、ちーたん!」と言って探し始めます。
「さて、何匹のちーたんがいるでしょう?」というやりとりを私は食物アレルギー外来でよくしています。

さて、食物アレルギーの実際シリーズも今回で第4回です。
心構え、予防、診断と続き、ついに最終回。
今回は、治療の話です。

食物アレルギーの治療となると、経口免疫療法を連想するかもしれません。
経口免疫療法に関する私の認識は、ここに書きました。

経口免疫療法に対する私の認識。耐性獲得のための食物アレルギー指導。

2017.11.15

私にとっての食物アレルギーの治療とは、結局負荷試験を重ねつつ、必要最小限の除去を続けることです。
これを実践し続けるためのコツを今回は書きます。

まずは一般的な予後を説明

食物アレルギーと診断したら、まずはその一般的な予後を説明することから始めます。
一般的な予後を知ることで、「治療をすればその予後がどう変わるのか」という話ができるようになります。
治療のメリットが明確になると、治療に対するモチベーションが上がります。

とにかく、最初に一般的な予後を示します。
ここが肝心です。

たとえば卵アレルギー寛解率は、3歳30%、5歳59%、6歳73%です。
The natural history of egg allergy in an observational cohort. J Allergy Clin Immunol. 2014; 133: 492-9.

続いて経口負荷試験を提案

一般的な予後を説明した後にすることは、食物経口負荷試験の説明です。

「食物アレルギーと診断されたのに、負荷試験をするの?」と思われるかもしれません。

もちろん、ごく微量の摂取で症状が誘発されたケースであれば、負荷試験をすぐには試みず、しばらく完全除去を続けることもあります。
いっぽうで、食物アレルギーと診断されていても、少量の抗原摂取であれば可能なことがあります。

たとえば、卵アレルギーと診断された児でも、卵白1.5gであれば食べられる可能性が高いという論文があります。
明らかな症状既往のある卵アレルギー児であっても、その83%が卵黄つなぎ負荷試験(卵白1.5g相当)をクリアできました。
Safety and feasibility of heated egg yolk challenge for children with egg allergies. Pediatr Allergy Immunol. 2017; 28: 348-354.

つまり、食物アレルギーと診断されていても、完全除去が必要とならないケースが存在します。

食べられる範囲で摂取を続けることを「必要最小限の除去」といいます。
「必要最小限の除去」は、食物アレルギーを治りやすくするのではないかと私は考えています。

「必要最小限の除去」は本当に食物アレルギーの予後を改善させるのか?

アレルギー外来を定期的に受診し、経口負荷試験を重ねつつ、「必要最小限の除去」を継続すれば、アレルギーの寛解率は少し上がりますと私は説明しています。

この治療は本当に有効なのでしょうか?

実のところ、このクリニカルクエスチョンに対して明確に答えた研究を私は知りません。
ですが、アレルゲンを少量食べ続けることで、その閾値が大きく上がったという報告はあります。

たとえば、卵白1.5gで1年間経口免疫療法を継続した5歳以上の小児21人のうち、7人で大きく閾値が上がった(卵白20gまで食べられるようになった)という報告があります。
Safety and Efficacy of Low-Dose Oral Immunotherapy for Hen’s Egg Allergy in Children. Int Arch Allergy Immunol. 2016; 171: 265-268.

また、牛乳3mlを1年続けた5歳以上の小児12人のうち、4人で大きく閾値が上がった(25mlまで飲めるようになった)という報告もあります。
A Single-Center, Case-Control Study of Low-Dose-Induction Oral Immunotherapy with Cow’s Milk. Int Arch Allergy Immunol. 2015; 168: 131-7.

これらはもちろん経口免疫療法の報告です。
繰り返しますが、私は経口免疫療法を実施していません。

ですが、ごく少量の抗原摂取であっても、それを続ければ閾値が上がったという報告は、大きな希望です。
たとえ経口免疫療法ではなく必要最小限の除去であっても、効果があるのでないかと考えています。

スキンケアも重要

食物アレルギーの治療において、スキンケアも重要です。

スキンケアは食物アレルギーを治すのか、というクリニカルクエスチョンに直接答えた論文を私は知りません。
ですが、アトピー性皮膚炎が軽いほど卵アレルギーが寛解しやすかったという論文であれば、私は知っています。

The natural history of egg allergy in an observational cohort. J Allergy Clin Immunol. 2014; 133: 492-9.

スキンケアで食物アレルギーの自然歴を変えられるかは不明です。
ですが、皮膚はもっともアプローチしやすい臓器です。
私は主にアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎の4つを診療していますが、この中でもっとも治療に対する手ごたえを感じるのはやはりアトピー性皮膚炎です。
とにかく、スキンケアをやっておいて損はありません。

順調に経口負荷試験最終ステップまで到達したら

負荷試験を重ね、少しずつ閾値が上がっていき、最後のステップの負荷試験を終えたとしても、食物アレルギーが寛解したとはまだ言えません。
自宅でいろいろな料理を食べ、やはり大丈夫なことを確認します。

たとえば、当院の卵の負荷試験は、最後のステップは「薄焼き卵1個」です。
この負荷試験が陰性だった、つまり食べても症状が出なかった場合、家でも卵焼きや入り卵を食べます。
これらが大丈夫なら、プリンや茶わん蒸しなどの低加熱料理も食べます。

マヨネーズを使ったポテトサラダも大事な卵料理の一つです。
ほむほむ先生のブログで知りましたが、卵焼き1個が食べられるケースでは、マヨネーズは96%摂取可という論文があります。
(小池 由美 加熱鶏卵1個が摂取可能になった児に対する全卵マヨネーズ負荷試験 日本小児アレルギー学会誌 2016 30巻 4号 2016 年 p562-566.)

上記の報告を根拠に、私はマヨネーズ負荷試験はしていません。
卵の最終ステップが確認できた患者さんに関しては、自宅でマヨネーズを試してもらっています。

またカルボナーラや釜玉うどん、ふわふわとろとろのオムレツ、卵かけごはんなどは、1年以上卵を問題なく食べ続けられた場合に少しずつ家で試してもらっています。
この方法には特にエビデンスがありません。
今後アップデートできればと思います。

食べて治すの注意点

最後に。
食べて治すというのはとても好きな言葉なのですが、注意点が一つあります。

これは、伊藤節子先生がよく警鐘されておられます。
詳しくはこちらの記事に書きました。

食物アレルギー。「除去して治す」と「食べて治す」のエビデンス。

2018.10.09

まとめ

これで私の食物アレルギー外来の実際は終了です。
これまでの心構え、予防、診断についてもリンクを貼っておきます。

私の食物アレルギー診療の実際その1「心構え」。

2019.05.30

私の食物アレルギー診療の実際その2「予防」。

2019.05.31

私の食物アレルギー診療の実際その3「診断」。

2019.06.10
この内容は、第70回 兵庫小児アレルギー・呼吸器懇話会(2019年5月30日)で発表した内容をブログ向けにアレンジしたものです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、アメリカ心臓協会PEARSインストラクター。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。