診察室の壁に抗菌薬のガイドラインを貼るだけで処方率が下がる。

「抗菌薬の使い方」シリーズもついに最終回です。

第1回「抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?」

鼻水が黄色や緑色のときは抗菌薬が効きますか?

2019.03.19

第2回「抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?」

抗菌薬は肺炎や中耳炎の予防に有効ですか?

2019.03.21

第3回「抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?共有意思決定編」

共有意思決定は抗菌薬を減らし、患者の不安を軽くするかもしれない。

2019.03.24

第4回「抗菌薬を減らすための具体的な方法は?血液検査・CRP編」

血液検査のCRPは抗菌薬を減らしますか?

2019.04.02

第5回「抗菌薬を減らすための具体的な方法は?遅延抗菌薬投与編」

「遅延抗菌薬戦略」は抗菌薬処方を減らすか?

2019.04.04

今回は第6回、「抗菌薬を減らすための具体的な方法は?電子的ガイド編」を書きます。

診察室の壁に抗菌薬ガイドラインを貼る

最初にご紹介する論文は、これです。
A Cluster-Randomized Trial of Decision Support Strategies for Reducing Antibiotic Use for Acute Bronchitis.(JAMA Intern Med. 2013 Feb 25; 173(4): 267–273.)

掲示物や電子カルテによるサポートが、急性気管支炎に対する抗菌薬使用を減らすか、という論文です。

この論文では、3つのグループを用意しています。

  1. 特にサポートのない群
  2. 掲示物とパンフレットによるアドバイスがある群
  3. 電子カルテによるアドバイスがある群

2の掲示物によるアドバイスとは、下図のようなものです。

患者さんが咳で受診したとき、医師はこの表をみます。

  • バイタル異常なく、胸の音もきれいなら、抗菌薬不要。
  • バイタル異常、または聴診所見ありなら、レントゲンに所見があれば抗菌薬を考慮。
  • バイタル異常、かつ聴診所見ありなら、抗菌薬を考慮。

とてもシンプルな表です。
これをラミネートして、診察室の壁に貼っておきます。

加えて、咳で受診した患者さんには、診察前に看護師が「風邪には抗菌薬は効きません」というパンフレットを渡しました。
掲示物やパンフレットで、どれほどの効果があるのでしょうか。

なんと、それまで抗菌薬処方率80%だった施設が、この紙を壁に張っただけで68.3%になりました。
(参考までに、特に何もしなかった施設では抗菌薬処方率72.5%から74.3%になっていました)

3の電子カルテによるアドバイスというのは、カルテの主訴の欄に「咳」と入れると、自動的に上の図が画面に出現するという仕組みのようです。
この電子カルテの自動アドバイスも効果があり、抗菌薬処方率74%だった施設が、このシステムで60.7%になりました。

電子カルテシステムによるサポートはとても有用ですが、紙カルテ運用の診療所もありますので、どこでも可能というわけではありません。
ですが、掲示物やパンフレットによるサポートは電子カルテシステムに劣らず抗菌薬を減らしてくれました。

代替案のアドバイス、抗菌薬処方理由書を書かせる、他医と比較する、なども有効

他に抗菌薬を減らす電子的アドバイスとして、面白い報告があります。

Effect of Behavioral Interventions on Inappropriate Antibiotic Prescribing Among Primary Care Practices: A Randomized Clinical Trial.(JAMA. 2016 Feb 9;315(6):562-70)

この論文では3つの電子カルテアドバイスを試してみました。

  1. 抗菌薬を処方しようとすると、抗菌薬を使用しない代替案が提案される。
  2. 抗菌薬を処方しようとすると、その正当性を記入するように求められる。
  3. 抗菌薬を処方しようとすると、優秀な医師がこの状況で抗菌薬を処方する確率が表示される。

論文の結果、代替案では抗菌薬処方率が22.1%から6.1%に減少しました。
抗菌薬の理由を書かせると、23.2%から5.2%に減少しました。
優秀な医師との比較では、19.9%から3.7%に減少しました。

上記3つの中で、もっとも取り入れやすいと個人的に思うのが2です。
なぜ抗菌薬を出すのか、その理由を毎回書くのは面倒ですが、それでも書くべきだと思います。
(ちなみにその理由は「二次感染の可能性が否定できないため」ではダメです。可能性が否定できないのは当然です)

それにしても、優秀な医師との比較ってどうやってしているのでしょうね。

当院で行っていること

カルバペネム系や第4世代セフェム系を処方するとき、当院では「処方理由書」を必ず書くシステムになっています。

加えて、2018年から当院では経口第3世代セフェムや経口ニューキノロンを処方するとき、電子的アドバイスが表示されるようになりました。

この薬剤は、腸管からの吸収率が16%と非常に悪い薬です。
吸収率良好の薬剤は、セフェム系ではセファクロル細粒、ペニシリン系ではパセトシン細粒、クラバモックス小児用配合DSがあります。

外来診察室に「経口第3世代セフェム・経口キノロンの代替薬」と「抗微生物薬適正使用の手引き第一版ダイジェスト版」を配置していますので、ご活用ください。

兵庫県立柏原病院で経口第3世代セフェム・経口キノロンを処方したときに表示される警告

この警告では、抗菌薬の処方率自体は変わらないかもしれません。
ですが、少なくても漫然と広域抗菌薬を処方しにくくなると思います。

この取り組みは当院の薬剤部が率先して行ってくれています。

医師の出した処方箋に 唯一、異議を唱えられる職業 薬剤師。

アンサングシンデレラ第1巻 裏表紙

私が薬剤師に期待することは多いですが、その一つに抗菌薬の適正使用についてもアドバイスして欲しいです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、アメリカ心臓協会PEARSインストラクター。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。