卵アレルギーと診断された子どもに対する、私の治療戦略。

オーストラリアの報告では、食物アレルギーで診断された非加熱卵に対する卵アレルギーの有病率は、1歳時点で8.9%です。
Prevalence of challenge-proven IgE-mediated food allergy using population-based sampling and predetermined challenge criteria in infants.(J Allergy Clin Immunol. 2011 Mar;127:668-76.e1-2.)

私は、ハイリスク児に対する卵アレルギーの予防戦略を立てていますので、実際に丹波市の1歳時点の卵アレルギー有病率は8.9%もないと思います。
ただ、やはり「卵アレルギーは多い」という印象を日々感じています。

卵アレルギーは、①明らかな症状の既往、②食物負荷試験、③IgE抗体等検査結果(血液検査や皮膚検査)の組み合わせで診断されます。

上記は我が国の食物アレルギー疾患生活管理指導票の一部です。
食物アレルギーのお子さんを持つお父さん・お母さんは見たことがあると思います。

この中で、③IgE抗体等検査結果のみで卵アレルギーと診断された子どもの約90%が、卵黄1個つなぎ(少量の卵白を含む)を食べることができます。
そして、①明らかな症状既往で卵アレルギーと診断された子どもの約80%が、卵黄1個つなぎ(少量の卵白を含む)を食べることができます。

つまり、採血検査のみで卵アレルギーと診断された児の90%で完全除去は不要です。
明らかな症状既往があっても、約80%の児で完全除去は不要です。

今回は、上記を報告した論文を紹介するとともに、これが何を意味するのかについて考察します。

卵アレルギーと診断されている児に対する卵黄1個つなぎ食物経口負荷試験の結果

まず、1本目の論文として、相模原病院の柳田先生の論文を紹介します。
Safety and feasibility of heated egg yolk challenge for children with egg allergies.(Pediatr Allergy Immunol. 2017 Jun;28:348-354.)

背景

卵はもっとも頻度の高い食物アレルギーです。
ゆで卵や卵焼きでアレルギー反応が出る子どもは、一般的に卵の完全除去を指導されています。

食物の選択、アレルギーの危険性、予後などの問題があって、卵アレルギーの子どもと保護者のQOLは低くなっています。
もし少量の卵(たとえばパンやクッキー、調味料)を摂取できれば、QOLは改善します。
さらに、間違って少量の卵を摂取しても症状が出ないということが分かっていれば、誤食の不安が軽減されます。

この論文は、卵アレルギーと診断された子どもが安全に加熱卵黄1個つなぎを食べられるかどうか明らかにします。

方法と期間

  • 後方視研究
  • 2008年から2013年までの5年間

参加基準

  • 卵アレルギーと診断されており、卵黄1個つなぎ負荷試験を受ける子ども:2369人

除外基準

  • 負荷試験の6か月以内に卵白、オボムコイド、卵黄のRASTが検査されていない:138人
  • 臨床データに不備がある:77人
  • 以前に卵黄つなぎ負荷試験を受けている(もちろん結果は陽性だった):140人

ゆで卵や卵焼きに対するアレルギー症状の既往がある919人と、既往がない1095人の卵黄1個つなぎ負荷試験の結果を見てみます。

負荷試験食

負荷試験で食べるものは卵黄1個つなぎ食です。
これは、生卵を用手的に卵黄だけ取り出し、それをカボチャと混ぜ、1000W90秒レンジで温めます。
この卵黄1個つなぎカボチャケーキは、全卵1個の1/29相当のたんぱく質を含みます(卵白1.5g相当です)。

負荷試験の手順

抗ヒスタミン薬やLTRAは負荷試験の72時間前から中止します。
卵黄1個つなぎカボチャケーキを1/8→3/8→1/2で30分間隔で食べてもらいます。

負荷試験陰性だった時の指導

卵黄1個つなぎ負荷試験が陰性だったとき、以下の指導をします。

  • 少量の全卵が入った加工品(パンやハンバーガー)を家で食べる。
  • 家でも卵黄つなぎ料理を作って食べる。
  • 卵黄1個つなぎカボチャケーキを食べる。
  • 全卵1/60相当のふりかけを使う。

これらを家で食べることができたかどうか、負荷試験1か月後の外来で確認します。

結果

卵アレルギーの症状の既往がある919人は、平均3.2歳、卵によるアナフィラキシーの既往は20.2%、卵以外の食物によるアナフィラキシー既往は33.5%、アトピーが47.8%、喘息が24%、卵白RAST13.0(クラス3)、卵黄RAST2.7(クラス2)、オボムコイドRAST6.9(クラス3)でした。

卵アレルギーの症状の既往がある919人中、156人(17%)が負荷試験陽性でした。
アナフィラキシーは33人、Grade3は7人、アドレナリンを用いたのは7人でした。

負荷試験陽性に影響を与えた因子として、卵によるアナフィラキシー既往は1.861倍、卵以外のアナフィラキシー既往は1.795倍、喘息は1.822倍、鼻炎は1.99倍、1年年齢があがるごとに1.143倍になりました。
オボムコイドはRAST100であっても負荷試験陽性率は38.3%でした。

負荷試験が陰性だった763人は、家でも卵黄つなぎを続けました。
7人が家での卵黄つなぎで症状が出ましたが、軽度の皮膚症状が4人、嘔吐が2人、下痢が2人で、いずれも軽いものでした。

また、症状の既往がないにも関わらずRAST高値が理由で卵アレルギーと診断されていた1095人の89.8%が、卵黄1個つなぎ負荷試験食を症状なく食べることができました。

Discussion

卵アレルギーと診断されている児であっても、卵黄1個つなぎ経口負荷試験は安全に実行できます。

卵黄つなぎが食べられた子どもは、少量の卵白を含む加工品(クッキー、ドレッシング、パン)を食べることができました。
誤食による重篤な症状の不安が軽減され、QOLが改善されるでしょう。

ほとんどの卵アレルギー児が卵黄つなぎは食べられ、重篤な症状も少ないものでした。
卵黄つなぎ負荷試験が陰性であれば、QOLが改善します。

卵アレルギーのほとんどが卵黄1個つなぎであれば食べられる

明らかな症状既往のある卵アレルギー児の83%が卵黄つなぎ負荷試験をクリアできました。
また、採血検査のみで卵アレルギーと診断されていた児の89.8%が卵黄つなぎ負荷試験をクリアできました。

ただし、アナフィラキシーに至った例や、アドレナリンを要した例もありますので、リスクが高い児では注意して食物経口負荷試験を実施すべきでしょう。

さて今度は、「卵アレルギー児のほとんどが卵黄1個つなぎであれば食べられる」という結果がどのような意味を持つのか、次の論文を紹介します。

少量の卵摂取で卵アレルギーが寛解する可能性がある

Safety and Efficacy of Low-Dose Oral Immunotherapy for Hen’s Egg Allergy in Children.(Int Arch Allergy Immunol. 2016;171:265-268.)

また、相模原病院の柳田先生の論文です。
全卵1/32相当の少量の卵で、1年間経口免疫療法をした21人の子ども(5歳以上)の結果を報告しています。

21人中15人は全卵1/32相当の卵に対して耐性を獲得し、さらに7人は全卵1/2も食べられるようになりました。

もちろん、これは経口免疫療法の成果です。
経口免疫療法は現時点では研究段階の治療であり、一般臨床で行ってはいけません。

ただ、卵黄1個つなぎ(全卵1/29相当なので、上記の論文とほぼ同じ量です)を食べ続けることは、アレルギーの耐性化が進む可能性をこの論文から感じました。

私の卵アレルギー診療の実際

私のもとにやってくる子どもは、卵を食べて症状が出たというケースや、近くの病院で卵アレルギー検査(採血)を受け数値が高くて心配だというケースが多いです。

私は、問診を丁寧に行ったうえで、卵黄1個つなぎ負荷試験を実施します。

上の負荷試験表では、STEP1になります。

明らかな症状既往があっても、83%はSTEP1をクリアできます。
採血検査のみで疑われている場合、90%クリアできます。

そして、この卵黄1個つなぎ(卵白1.5g相当)という量が、卵アレルギー寛解というゴールに一歩踏み出すことを説明します。
すなわち、卵黄1個つなぎを食べていけば、卵アレルギーはどんどんゴールに向かっていくことが多いと説明しています。

もちろん、採血検査のみで疑われている場合では、実際は感作のみで、本当は卵アレルギーではない子どもがたくさん含まれています。
卵黄1個つなぎ負荷試験では、すべての卵アレルギーを見つけることはできません。

ですが、すべての卵アレルギーを見つける目的で、例えば生卵大量負荷試験を行うのはリスクがあります。
明確な診断も大事ですが、それよりも大切なのは「安全でかつ利益が高いこと」です。
卵黄1個つなぎ負荷試験は安全性の高さと、利益の可能性を感じます。

卵黄1個つなぎ負荷試験をクリアした後、リスクが低い児では、1歳以降を目安に、私は早期にSTEP3を確認しています。
リスクが高い児では、半年おきに採血検査の推移を見ながら、徐々にSTEPアップをしていきます。

これが、卵アレルギーと診断されている児に対する、私の治療戦略です。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。