チョコレートで鼻血は出るのかpubmedで調べた結果。

鼻出血を主訴に小児科外来に訪れる患者さんはときどきあります。
私の経験では、6歳から10歳くらいの子どもに多いです。
中にはほぼ毎日鼻血が出て、ふとんを真っ赤に染め上げるケースや、学校で困っているケースもあります。

私の対応は様々で、耳鼻科でキーゼルバッハ部位を確認してもらったあとに経過観察するケースや、アレルギー性鼻炎として治療するケースや、黄連解毒湯という漢方薬を処方するケースなどがあります。

さて、鼻出血の診療をしていると時々相談されるのが「チョコレートは食べないほうがいいですよね?」という質問です。

今回は、チョコレートで鼻血が出るのかという命題を考えてみます。

とりあえずwikipediaで調べてみた

とりあえず調べてみるwikipedia。
便利ですよね。

「チョコレートをたくさん食べると鼻血が出る」と言われるが、医学的な根拠はない。
しかし、鼻の粘膜に傷がある場合は糖分摂取による血圧上昇のために鼻血が出る場合もある。
一方、チョコレートやコーヒーに含まれるカフェインには、体を興奮させる作用があり、血圧上昇などに働き鼻血を引き起こすとも考えられている。

wikipedia

医学的根拠はないという説の参考文献として、以下の記載がありました。

医学的には、チョコレートと鼻血について関係があるという報告は一切ありません。
しかしチョコレートには、血行をよくする物質が含まれていますので、可能性が全くないとはいえません。
食べ過ぎには注意しましょう。

日本チョコレート・ココア協会

聞いたことがない協会からの出典でした。
いや、この業界ではスーパーエキスパートなのかもしれませんけれど、私は知りませんでした。

これは自分でも調べてみる価値があります。

pubmedで調べてみた

医者の能力の一つに、「pubmedを上手く使える」というものがあります。
このpubmed検索能力が究極的に高まると、システマティックレビューが書けるようになるのだと私は信じています。

私にはそこまでの力はありませんが、pubmedでいろいろ調べるのは好きなので、さっそくやってみましょう。

Lifestyle and dietary influences on nosebleed severity in hereditary hemorrhagic telangiectasia.(Laryngoscope. 2013; 123: 1092-9.)

遺伝性出血性末梢血管拡張症、いわゆるオスラー病の患者を対象にした論文です。
鼻血の重症度に及ぼす生活習慣および食事の影響を調べました。

この論文の中に、チョコレートが鼻出血に及ぼす影響が書かれています。

666人の遺伝性出血性末梢血管拡張症患者にアンケートし、上記の食べ物で鼻出血が良くなった場合は「+1」、悪くなった場合は「-1」としています。
良くも悪くもならない場合は無回答だったようです。

上のグラフをみると、チョコレートで鼻出血が悪化したと答えている人は存在します。
これをどう解釈しましょう。

論文の解釈

確かに7人が「チョコレートで鼻出血が悪化した」と述べています。
しかし、私はその結果を過度に解釈すべきではないと考えます。
手法がアンケートである上に、チョコレートに対して回答があったのは1%のみで、残りの99%は無回答という調査結果だからです。

さらに、今回の対象は鼻出血を起こしやすい遺伝性出血性末梢血管拡張症患者を対象にしています。
鼻出血のリスクがない人にとっても、この結果が適応できるかどうか分かりません。

他の論文

チョコレートと鼻出血の論文は、上記一つしか存在しないと思います。
いろいろ検索ワードを変えて頑張ってみたのですが、この論文しか存在しませんでした。
(チョコレート嚢胞関連の論文が邪魔してきて、作業はかなり難航したことを付記します)

ただ、チョコレートの抗血小板作用に関する論文はいくつかあります。

Dark chocolate inhibits platelet aggregation in healthy volunteers.(Platelets. 2003; 14: 325-7.)

Dark chocolate improves endothelial and platelet function.(Heart. 2006; 92: 119–120.)

Dark chocolate improves coronary vasomotion and reduces platelet reactivity.(Circulation 2007; 116: 2376–82.)

抗血小板薬は鼻出血の原因にはなりえます。
ですので、チョコレートは鼻出血の原因となる可能性はあります。

ただ、理論上はそうであっても、実際にそうであるのかどうかが分からないのが食品の世界です。

健常者を対象とし、チョコレート群とプラセボ群に分けて、ダブルブラインドで試験をしてもらわないと、やはり結論はつけられないと思います。
そしてそのような論文はまだありません。

結論

チョコレートと鼻出血について書かれた論文は一つしか見つかりませんでした。
その論文は遺伝性出血性末梢血管拡張症患者を対象にし「チョコレートで鼻出血を悪化したという人が約1%いた」ということを示しました。
しかし、この結果を過度に解釈すべきではないと私は考えます。

この論文を読んだ私の感想を含めて、「チョコレートが鼻出血を悪化させる可能性はあるが、ほとんどの人にとって影響がないと考えて良いだろう」という結論にしました。

余談:鼻出血の他の原因

せっかくなので、チョコレートよりも強い鼻出血原因に挙げられたものを書きます。

  • 暑さ
  • 寒さ
  • 乾燥
  • おそらくスギ花粉症
  • アルコール(特に赤ワイン)
  • スパイス

上記に比べれば、チョコレートの影響は弱いという解釈もできます。
(統計学的にそうであるかどうかは別として)

そのほか、面白かった記載は以下です。

  • 雲南白薬という漢方薬は鼻出血に有効だった。
  • 抗血小板薬、抗凝固薬、非ステロイド系抗炎症薬は鼻出血を悪化させた。
  • アレルギー治療は鼻出血を悪化させた。

アレルギー治療というのはおそらくアレルギー性鼻炎に対する治療なのでしょうが、治療を要するということは鼻炎が悪化しているということなので、治療が悪いのか鼻炎が悪いのかしっかり見極めないといけないと思います。
したがって、アレルギー治療が鼻出血を悪化させたという結果も私は過度に解釈していません。

ともあれ、こういう論文を読んでみるのも、息抜きにはいいなと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、アメリカ心臓協会PEARSインストラクター。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。