2018年4月ヒトメタニューモウイルス検査の保険適応が変わりました。

2018年4月1日から、ヒトメタニューモウイルスの検査をする前に、レントゲン撮影を必ずしも行わなくていいことになりました。

今回は、ヒトメタニューモウイルス検査における保険適応の変更について書きます。

今までのヒトメタニューモウイルス検査

ヒトメタニューモウイルスの検査は鼻汁で行えます。

綿棒を鼻に突っ込んで検査する場合もありますし、細い管を使って鼻水を吸い取って検査する場合もあります。
検査時間は20分前後で、外来でも気軽に行える検査です。

イメージ的にはインフルエンザの迅速検査とほとんど同じだと思ってください。

そんな便利なヒトメタニューモウイルス迅速検査ですが、検査を保険診療で行うには条件があります。

2018年3月31日までは次のように定められていました。

「ヒトメタニューモウイルス抗原定性は、当該ウイルス感染症が疑われる6歳未満の患者であって、画像診断により肺炎が強く疑われる患者を対象として算定する」

2018年3月31日までのヒトメタニューモウイルス検査の保険適応

「画像診断により」という文言の通り、ヒトメタニューモウイルスの検査をするためには、レントゲン検査やCT検査で肺炎と診断する必要がありました。

つまり、レントゲンやCTを撮影することなくヒトメタニューモウイルスだけを測定することは、保険診療上できませんでした。

日本小児感染症学会の要望

日本小児感染症学会は、ヒトメタニューモウイルス検査の保険適応について、次のような要望を提出しました。

ヒトメタニュウーモウイルスは乳幼児の細気管支炎を引き起こすウイ ルスであるが、現在では胸部X線撮影後の検査をという条件がある。これは、すべての施設では不可能な要件なのでこのX線という条件の撤廃を求めている。

内科系学会社会保険連合
診療領域別委員会要旨

ヒトメタニューモウイルスは冬から春にかけて流行する、とてもありふれたウイルスです。
感染した子どもは、まずは開業医の先生を訪れるでしょう。

ですが、開業医の中には、レントゲン撮影ができない診療所もたくさんあります。
そこではヒトメタニューモウイルスの検査ができません。

ありふれた病気であるのに診療所では診断できないという状況は、二次病院の負担増加を招きますから、望ましくありません。

このため、画像診断をしなくてもヒトメタニューモウイルスの検査ができるように保険適応を変更してほしいという要望書が提出されました。

新しくなった保険適応

上記の要望を受けて、2018年4月1日からヒトメタニューモウイルスの検査適応が変わりました。

「ヒトメタニューモウイルス抗原定性は、当該ウイルス感染症が疑われる6歳未満の患者であって、画像診断又は胸部聴診所見により肺炎が強く疑われる患者を対象として測定した場合に算定する」

2018年4月1日からのヒトメタニューモウイルス検査の保険適応

「胸部聴診所見により」という文言が追加されました。

このため、レントゲン検査やCT検査を行わなくても、聴診器で胸の音を聞いて「肺炎かもしれない」と思えばヒトメタニューモウイルス検査をできるようになったのです。

胸部聴診所見で肺炎を疑うためには?

聴診による局所的なcracklesは肺炎を示唆します。
ここでいうcracklesとは、典型的にはcoarse cracklesという、息を吐くときのゴロゴロとした荒い音を指します。
水泡音とも言います。

局所的なcracklesがあれば、肺炎を疑います。

したがって、聴診器で子どもの呼吸の音を聞いて局所的なcracklesがあれば、ヒトメタニューモウイルスの検査ができます。

(他にも肺炎を疑う聴診所見はいくつかあります。上記はヒトメタニューモウイルスの代表的な聴診所見です)

現場はどう変わったか?

今までの私のヒトメタニューモウイルス診療は、次の手順でした。

  1. 熱と咳と鼻水のある子どもを聴診し、局所的なcracklesを確認する。
  2. レントゲンを撮影する。
  3. 肺炎があれば、季節や周囲の流行を考慮しつつ、ヒトメタニューモウイルス検査をする。

これが、新しい保険適応になってから、次のように変化しました。

  1. 熱と咳と鼻水のある子どもを聴診し、局所的なcracklesを確認する。
  2. 季節や周囲の流行を考慮しつつ、ヒトメタニューモウイルス検査をする。
  3. もしヒトメタニューモウイルスが検出されれば、レントゲン検査は省略する。

ヒトメタニューモウイルス感染症は、鼻汁を吸引しつつ、十分に休息すれば、自然に治る病気です。
そのため、ヒトメタニューモウイルス感染症の診断がつけば、あえてレントゲン撮影で本当に肺炎があるのかどうかを確かめる必要はなくなります。
肺炎であってもなくても、ヒトメタニューモウイルス感染症は全身状態さえよければ必ず自然に治ります。

つまり、レントゲン検査の前にヒトメタニューモウイルス検査ができるようになった結果、私がレントゲン検査をオーダーする頻度が減りました。

レントゲン検査は子どもを被爆させますので、その頻度が減ることは喜ばしいことです。

また、今回の保険適応の変更によって、ヒトメタニューモウイルスは検査しやすくなりました。
その結果、ヒトメタニューモウイルス感染症が診断される機会が増えました。
(肺炎を強く疑う症例にのみヒトメタニューモウイルス検査を実施しているつもりですが、レントゲンを撮影していないため、実際にはヒトメタニューモウイルス気管支炎を含んでいるのだと思います)

ヒトメタニューモウイルス感染症の診断機会が増えたことで、レントゲン検査の回避だけではなく、採血検査や抗生剤治療も回避できる可能性が高まりました。
(ただし、ヒトメタニューモウイルス感染症が細菌感染症を合併することはありえるので、採血や抗生剤を完全に回避することはできません)

まとめ

日本小児感染症学会の要望を受けて、ヒトメタニューモウイルスは聴診所見だけでも検査できるようになりました。

この結果、私のレントゲン撮影の頻度が減りました。
また、採血検査や抗生剤治療の機会も減るかもしれません。

したがって、良い変更だったと感じています。

余談ですが、私が先月書いた本では、「ヒトメタニューモウイルス検査にはレントゲンが必須」と書いてしまっています。

出版してまだ1か月なのに、さっそく記載が古くなってしまいました。
すぐに新バージョンに差し替えます。

kindle本のいいところは、古くなった情報を更新できるところですね。
(すでに購入頂いた人も、内容は常に新バージョンに変更されますのでご安心ください)

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。