風邪に抗菌薬が効くと考えている親はどれくらいいるか?

機動戦士ガンダム ©創通・サンライズ

AMRを知っていますか?

Antimicrobial resistance、つまり薬剤耐性菌のことです。
アムロ・レイのことではないです(こういうポスター、好きですが)。

AMR対策とは、適切な抗菌薬を必要な場合に限り、適切な量と期間使用することです。
したがって、「カゼには抗菌薬を出さない!」という姿勢がAMR対策として重要です。

「カゼに抗菌薬を処方すべきではない」という命題を否定する医師はいないでしょう(カゼに抗菌薬を処方すべきだという医師はよっぽどひねくれ者です)。

いっぽうで、保護者はどうでしょうか。
カゼに対する抗菌薬処方にどのように考えているでしょうか。

今回は、子どもがカゼをひいたとき、親が抗菌薬についてどう思っているのかについて書きます。

カゼに抗菌薬を使うデメリット

カゼはウイルス感染であり、ウイルスには抗菌薬は効きません。
したがって、カゼに抗菌薬を使うメリットは一切ありません。

いっぽうで、カゼに抗菌薬を使うデメリットはあります。
効かない抗菌薬を飲んでいると、カゼとは関係なかった常在菌が抗生剤の影響を受けて、AMRにパワーアップする可能性があります。

抗菌薬を不適切に乱用していると、薬剤耐性菌が増えます。
乱用というのは、どんな病気に対してもとりあえず抗菌薬を使うという姿勢もそうですし、治ってきたら十分な期間内服せずに途中で止めてしまうという姿勢もそうです。

ドラゴンボールのサイヤ人は死の淵から蘇るとパワーアップしますが、細菌も同じような性質を持っています(本当は少し違うのですが、分かりやすく説明するためにあえてこう表現します)。
「とりあえず抗菌薬、治ったらすぐやめる」という姿勢は、多種の細菌を死の淵に追いやりつつ、蘇らせるという作業を繰り返させます。
その結果、細菌はパワーアップして、薬剤耐性菌になります。

AMRが増えると、仮に細菌性肺炎になって本当に抗菌薬が必要なときに、耐性菌のせいで抗菌薬療法がうまく行かなくなる可能性があります。

また、カゼに抗菌薬を使うとAMRが増加するというデメリット以外に、抗生剤関連の下痢や、薬剤アレルギーなどの副反応の懸念もあります。

繰り返しますが、「カゼに抗菌薬を処方すべきではない」というのは医師にとって常識です。

カゼに抗菌薬を使うことに対する親の期待

Parents’ Expectations and Experiences of Antibiotics for Acute Respiratory Infections in Primary Care(Ann Fam Med. 2017; 15: 149-154.)

フリーの論文ですので、どなたでも読めます。
オーストラリアの論文です。

目的:急性上気道炎(いわゆるカゼです)の小児がプライマリケア医を受診し抗菌薬が処方されることがよくある。一般的な上気道感染への抗菌薬の効果は限定的で耐性の問題から有害である。親の要求により抗菌薬が処方されることがある。抗菌薬の必要性に対する親の信念、利益への期待がどの程度なのかはっきりさせる。

手法:オーストラリアの1-12歳の子どもを持つ親にランダムで電話し、アンケート調査を行った。

結果:14505件のうち、10340件に電話が通じた。589件が条件に合い、401件にインタビューできた。大部分の親がカゼに対して抗菌薬が有効と考えていた。抗菌薬によってカゼが早く治る、合併症が減ると考えている親が多かった。44%の親が、なぜ抗菌薬を使うのか説明があった。75%の親は抗菌薬の選択に関与したいという希望を持っていた。

結論:カゼに対する抗菌薬の効果を誤解している親がいる。受診時のコミュニケーション改善が必要である。

もう少し詳しく見てみましょう。

カゼによる咳や咽頭痛に抗菌薬は有効か?

「カゼによる咳や咽頭痛に抗菌薬は効くか」という質問に、「はい」「時々」「いいえ」の3つの選択肢で保護者は答えています。

咳に対して「はい」と答えたのは13%、咽頭痛に対して「はい」と答えたのは20%でした。
「時々」も合わせれば、咳に対して55%、咽頭痛に対して70%の保護者が抗菌薬は有効だと考えていました。

ちなみに、この論文では「時々」と答えた人を「カゼに抗菌薬は有効だと考えている群」に含めています。
「時々」という答えをどう解釈するか、私は非常に難しいと思うのです。
そのあたりの想いはこちらの記事に書きました。

近藤誠氏から学ぶ統計学4例。論文を正しく読む方法。

2017.11.10

ただ、「カゼの諸症状に抗菌薬は有効だ」と考えている親は、少なからずいると言えます。

カゼに抗菌薬を使うと合併症は減るか?

「抗菌薬を使えば、カゼがこじれにくくなるのでは?」と考える保護者はいるはずです。

この論文でも、約30%の保護者が「抗菌薬は使えばカゼの合併症は減る」と答えており、「抗菌薬は使えばカゼの合併症は時々減る」と答えた人も合わせれば70%になります。

抗菌薬の使用決定に関与したいか?

93%の保護者が、抗菌薬を使用するかどうかの決定に自分も関与したいと答えました。

いっぽうで、医師から抗菌薬使用について説明がなかったのは56%ありました。
72%が抗菌薬を使用しない理由を聞かされなかったと答えました。

論文のまとめと感想

カゼに対して抗菌薬が有効だと考えている親は少なからずいるようです。
もちろんこれは誤解です。
抗菌薬はカゼの諸症状緩和の効果などありません。
二次感染予防目的での使用も、十分に有効とするエビデンスはありません。

これはオーストラリアの論文ですが、日本人のほうが抗菌薬が大好き(私の体感です)で、「抗生物質もください!」という親とはたくさん遭遇します。
この研究を日本で行えば、もっと多くの数が「カゼに抗菌薬は有効だ」と答えるでしょう。

この論文で指摘されている通り、抗菌薬使用に保護者は強く関わりたいと考えています。
そして保護者は抗菌薬はカゼに有効だと誤解しています。

誤解を説くには医者と保護者との間で十分なコミュニケーションが必要です。
ですが、この論文はコミュニケーション不足も指摘しています。

抗菌薬処方を減らすには、受診時のコミュニケーション改善が必要です。

日本も、AMR対策として抗菌薬処方を減らそうとしています。
そのために、「抗菌薬を使わない理由を保護者にしっかり説明すれば、加算が取れる」という仕組みを設けました。

急性上気道感染症または急性下痢症の患者に対し、「抗菌薬の使用が必要でない説明など療養上必要な指導を行った場合」に、初診に限り算定できる。

小児抗菌薬適正使用支援加算

コミュニケーション改善によるAMR対策、私もこころがけます。