シナジスを正しく筋肉注射できますか?

明日から9月ですね。
兵庫県では、9月からRSウイルス流行期に入るとされています。

RSウイルスの重症化を抑えることが期待されている薬として、シナジスがあります。
早産(在胎35周6日以下)や心疾患などRSウイルス感染による重症化リスクを持っているベビーのところには、病院からシナジス注射を案内されていると思います。

シナジスは筋肉注射をする薬です。
今回は正しい筋肉注射について考えてみます。

正しい筋肉注射(メーカー編)

「シナジスの正しい打ち方だったら、シナジスのメーカーのホームページを見れば載ってるんじゃないですか?」

そうですね。
シナジスのメーカーである「アッヴィ」さんが、シナジスの打ち方を動画で公開しています。
このビデオライブラリの一番下にシナジスの注射方法の動画があります。

動画そのもののリンク先:http://abbvie-channel.com/contents/pages/synagis_movie_08.aspx

動画開始11秒で、およそ新生児の体格である児の右大腿部外側をつまんで、針をかなり寝かせた状態(ほぼ水平に注射してます)で注射しています。
針はおそらく26G、16mmのものでしょう。

3分58秒のところでも、30度ほどの角度で注射しています。
薬液注入前に、逆血がないか確認しています。
そして注射後は注射部位を揉んでいます。

この方法で、本当に筋肉に注射できているのでしょうか。

正しい筋肉注射(日本小児科学会編)

日本小児科学会の考え方・提言・見解等というページの2016年のところに、「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂版)について」という項目があります。

このページはシナジスについて記載しているわけではありません。
ワクチンの筋肉注射の方法について書いてあります。

シナジスはワクチンではありません。
ワクチンというのは、わざと病原体を体内に接種し、体に免疫応答を起こさせ、その病原体に対して強くさせるというものです。

シナジスはRSウイルスに対する抗体そのものを注射するというものです。
ですからシナジスはワクチンではなく、接種という言葉も使いません。

話がそれました。
シナジスはワクチンではありませんが、筋肉注射であるという意味でこの小児科学会が推奨する筋肉内接種法は参考になります。

大事なところを引用します。

標準的な接種部位

①1歳未満
大腿前外側部に接種する。
筋肉は外側広筋で、中央1/3がその接種部位である。

②1歳以上、2歳未満
1歳未満児と同様、大腿前外側部または、上腕三角筋中央部に接種する。

③2歳以上
上腕三角筋中央部に接種する。

 

接種年齢別の部位と標準的な針の長さ

新生児 大腿外側部 25G 16mm
乳児(1歳未満) 大腿外側部 25G 16-25mm
幼児-年長児 大腿外側部なら23-25Gで25-32mm、三角筋部なら23-25Gで16-25mm

最近報告された国内の乳児(生後2か月から6か月、n=154)の皮膚厚データでは、乳児の大腿前外側部において皮膚から筋肉に到達し骨までの長さは、25mmより短い児がいること、また、皮膚から筋膜までの長さは、全例16mm以上であることが報告された。
したがって、 この月齢における針の長さは、筋肉内接種の方法によって個々に検討されなくてはいけない(皮膚を伸展して接種する場合には、16mmの針を使用するなど)。

 

注射器を持たない手の親指と人差しで接種部位の筋肉をつまみ、針を接種部位に対して、垂直(90度)の角度で針全体を挿入する
一方、世界保健機関は親指と人差しで接種部位を伸展してから、接種する方法を推奨している。
なお、推奨接種部位に大きな血管は存在しないため、あえて内筒を引いて、血液の逆流のないことを確認する必要はない
そのまま、 薬液を注入する。
接種後、部位をもむ必要はなくガーゼや綿球で数秒軽くおさえる。

こうしてみると、アッヴィが公開しているシナジス注射の方法と異なる点がいくつかあります。

  • 90度の角度で刺す。
  • 注射前に逆血確認は不要。
  • 注射後に揉まなくていい。

実際のシナジスの注射方法

生後1か月以上の児にシナジスを注射するのであれば、16mmを90度で刺してギリギリ外側広筋に届くというイメージでしょう。
筋肉をつまみあげては、筋肉まで針が届かないかもしれません。
皮膚を伸ばした状態で16mmの針を90度で注射するのがよいでしょう。

アッヴィの動画に出てくる児は修正月齢で1か月未満だと思います。
この場合は、筋肉をつまみあげてうつのがよいでしょう。
ですが、角度を浅くしすぎると皮下注射になってしまいます。

多くの人が思っているよりも深く刺さないと、筋肉注射になりません。

また、シナジス注射のあと、揉む必要はありません。
海外の筋肉注射をみても、揉まないか、揉んでも数回だけです。
このことはこちらの記事にも書きました。

予防接種のあとは、揉まないほうがよい?科学的根拠。

2017.01.22

また、逆血確認は痛いことがあります
ただでさえシナジス注射は流行期に毎月注射する必要があり、しかも体重が6.6kgを超えれば2回に分けて注射しなければなりません。
逆血確認をせず、手早く終えてあげるのが優しさでしょう。

2歳以上の子どもにシナジスを注射することもあります。
ダウン症や心疾患、慢性肺疾患や免疫不全のあるお子さんは、RSウイルス感冒時期に2歳1か月になる前日までに注射すれば、そのシーズンは注射できます。

つまり、ダウン症や心疾患、慢性肺疾患や免疫不全のあるお子さんが2015年8月2日生まれであれば、2017年9月1日にシナジスを保険で注射することが可能であり、その日に注射していれば、2018年4月30日(2歳8か月)までシナジス注射をすることができます。
2歳8か月にもなれば、体重が13.3kgを超えることもあるでしょう。
体重が13.3kgを超えれば、3か所に分けて注射しなければなりません。

3か所に筋肉注射をする場合、三角筋を使うべきかもしれません。
ですが、シナジスの添付文書には「好ましくは大腿前外側部に注射する」と記載されています。

アッヴィのMRさんと先日お会いして、やはり外側広筋に3か所打った方がいいのか確認しましたが、添付文書の通りだということでした。
小児科学会の提言にも「もし同一筋肉に注射をする場合は、2.5cm以上空けること」とありますので、2.5cm空けて注射することになります。

まとめ

今回は筋肉注射について書きました。
いずれ予防接種も、筋肉注射がメジャーになるかもしれません。
というのも、海外での予防接種は筋肉注射が主流だからです。

日本では1970年代に大腿四頭筋拘縮症の報告があって以来、筋肉注射は敬遠されてきました。
あれから注射薬のpHなどが検討され、現在の筋肉注射は安全とされています。

ですが、そういう歴史もあって、日本の予防接種と言えば皮下注射です。
日本の小児科医は皮下注射には慣れています。

いっぽうで、皮下注射以外の注射については不慣れな小児科医もいます。

健診業務で生後10か月や1歳半の子どもを見ていると、時々びっくりするような場所にBCGの痕があることがあります。
思わず「このBCG、誰にされたの?」と聞いてしまいそうになります。

9月から4月いっぱいまで、毎週たくさんのシナジスを打つようになりますが、「筋肉注射は苦手……」などと言わず、正しい方法で注射していきたいと思います。
BCGと違ってシナジスは痕が残りませんから、「このシナジス、誰にされたの?」と思われることはないでしょう。
ですが、正しい注射をもって初めて正しい効果と安全性となるわけです。