キプレスは小児の喘息性気管支炎に効きますか?

子どもが風邪をひいたとき、キプレスやシングレア、オノンを処方されたことはありませんか?

RSウイルスやヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルスなどにかかった子どもは、たとえ喘息でなくても「ぜーぜー」とした呼吸をすることがあります。(ちなみに後者2つは迅速検査キットがないので通常診断されません)
こういうケースを「喘息性気管支炎」と呼ぶことがあります。
咳はひどく、子どもはしんどそうです。

咳やぜーぜー(喘鳴)をなんとか和らげてあげたくて、キプレスやシングレア、オノンを処方する小児科医は少なからずいると思います。

今回は、ウイルス感染時の喘鳴に対するオノンやキプレスの効果について書きます。

ロイコトリエン受容体拮抗薬

キプレスやシングレア(ともにモンテルカスト)、オノン(プランルカスト)はともに「ロイコトリエン受容体拮抗薬」と呼ばれます。

炎症の流れであるアラキドン酸カスケードにおいて、ロイコトリエンは気管支平滑筋収縮や粘液腺分泌亢進などの作用をもちます。
「ロイコトリエン受容体拮抗薬」はロイコトリエンの作用を抑えてくれますので、結果として気管支平滑筋をゆるめ、気道の粘液を少なくしてくれます。

喘息予防・管理ガイドライン2015にもロイコトリエン受容体拮抗薬はあります。

ロイコトリエン受容体拮抗薬は気管支拡張作用と気道炎症抑制作用を有し、喘息症状、呼吸機能、吸入β2刺激薬の吸入頻用回数、気道炎症、気道過敏性、吸入ステロイド薬使用量、喘息増悪回数および患者のQOLを有意に改善させる(エビデンスA)。

喘息予防・管理ガイドライン2015

この作用機序をみると、喘息ではない子どもであっても、風邪に伴ってぜーぜーしている場合に対して、キプレスやオノンは有効であるように思えます。

キプレスはウイルス性の喘鳴に有効か?

コクランレビューを紹介します。

Leukotriene receptor antagonists as maintenance and intermittent therapy for episodic viral wheeze in children

「ロイコトリエン受容体拮抗薬の維持投与または間欠投与はウイルス性の一過性の喘鳴に有効か?」という論文です。
すごく長い論文ですので、大事なところだけをまとめます。

風邪をひいたときにぜーぜーいうことは、よくあります。
約1/3の子どもが5歳までにぜーぜーすることがあるようです。
喘息ではない子どもが「風邪をひいたときに一時的にぜーぜーすること」を一過性ウイルス性喘鳴(EVW)といいます。(日本ではEVWというよりも、「喘息性気管支炎」という言葉のほうが一般的かもしれません)

EVWは、アトピー型の気管支喘息(いわゆるアレルギーとしての喘息)とは別のものだと考えられています。
喘息の子どもが風邪をひいたときにぜーぜーした場合は「感染を契機とした気管支喘息発作」と判断されます。
繰り返しますが、EVWとは「喘息ではない子どもが感染を契機に喘鳴を起こしたもの」です。(喘息性気管支炎も明確な定義はないものの、EVWと同じと考えられます)

この論文ではEVWに対してロイコトリエン受容体拮抗薬が有効かどうかを調べています。

対象は1-6歳の子どもで、EVWを1回以上経験した児です。
可能な限り、気管支喘息のない子どものみを対象をとしています。
アレルギー素因を持っている児は除外されています。

維持療法は、ロイコトリエン受容体拮抗薬を2か月以上飲ませる治療です。
間欠療法とは、喘鳴発作があるときにロイコトリエン受容体拮抗薬を14日未満飲ませる治療です。

どちらもプラセボに対してどうであったかを比較検討しています。

維持療法として2か月以上ロイコトリエン受容体拮抗薬を飲ませた場合、残念ながら次の喘鳴発作を防ぐことはできませんでした。
ただ、発作時の呼吸のしんどさにはわずかな軽減がありました。

間欠療法として14日未満のロイコトリエン受容体拮抗薬を飲ませた場合も、発作の持続期間を短くすることはありませんでした。(モンテルカスト群で平均6.5日、プラセボ群で平均7.0日)
ただ、発作時のしんどさについてはわずかな改善を認めました。

結論として、気管支喘息の要素がない子どものウイルス性の喘鳴に対して、長期にまたは短期にキプレスやシングレアを使っても、次の発作は予防できないし、発作の持続時間を短くすることはできないと考えられます。
発作の重症度を少し和らげるかもしれませんが、効果はわずかだということです。

このコクランレビューを受けて、風邪でぜーぜーとしてしんどそうになっている子どもにキプレスやシングレア、オノンなどのロイコトリエン受容体拮抗薬を飲ませるのは間違いだと言えるでしょうか?

ロイコトリエン受容体拮抗薬が有効なケース

上記のコクランレビューの参考文献の一つ、Bacharierの研究では、喘息予測インデックス(API)が陽性である子どもには、モンテルカストがよく効いたと報告しています。

2000年にCastro-Rodriguezらが発表したAPIは以下です。

大症状

  • 親の喘息
  • アトピー性皮膚炎

小症状

  • アレルギー性鼻炎
  • 感冒時以外の喘鳴
  • 好酸球増多(4%以上)

大症状1つ以上か、小症状2つ以上で、喘息の可能性が大きく増えます。
少なくても1回の喘鳴があれば59%、2回以上の喘鳴があれば76%で喘息を発症します。

APIが陽性、すなわちアレルギー性の喘息の可能性が高い場合は、キプレスやオノンなどのロイコトリエン受容体拮抗薬は喘鳴に有効かもしれません。 

小児科診療2011年12号にも、気管支喘息の子どもが風邪に伴ってぜーぜーするのを防ぐために、モンテルカストを長期内服させた研究を紹介しています。

2-5歳の間欠型の喘息児589名を対象に、喘息増悪をエンドポイントとして1年間にわたって投与された試験では、モンテルカスト群はプラセボ群より増悪の頻度を約30%減少させた。(中略)ウイルス感染で増悪しやすい喘息児にはロイコトリエン受容体拮抗薬を予防的に投与することが有用である可能性は高い。

小児科診療2011年12号

つまり、喘息の児や、喘息が疑われている児に対して、ロイコトリエン受容体拮抗薬を長期に投与しておくことは、喘鳴を予防できるかもしれません。

ロイコトリエン受容体拮抗薬が効きにくいケース

コクランレビューで示した通り、アレルギー素因のない子どもが風邪をひいてぜーぜーしているときにキプレスやオノンを処方することは、わずかに重症度を改善させる効果しかないかもしれません。

また、コクランレビューが対象としているのは1-6歳の児です。
生後12か月未満の児は、急性細気管支炎の可能性があります。

細気管支炎にロイコトリエン受容体拮抗薬は無効だと思います
というのは、アラキドン酸カスケードを強力にブロックするステロイドですら、急性細気管支炎への有効性が認められていないからです。

急性細気管支炎に対してステロイドの有効性は認められない。

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017

ステロイドはアラキドン酸カスケードの発端となるホスホリパーゼA2を抑制することで、抗炎症効果を持ちます。
それより下流で効果を発揮するロイコトリエン受容体拮抗が急性細気管支炎に有効とはなかなか考えにくいです。

また、たとえアレルギー要素をもった喘息の子どもであっても、急性期症状に対してはロイコトリエン受容体拮抗薬を投与することは効果がないかもしれません。
Wattsらによる別のコクランレビューでは、喘息の急性発作時におけるロイコトリエン受容体拮抗薬の効果は確立していません。
小児科診療2011年12号にも、同様の記載があります。

成人では静注、経口ともに重症発作を含めて、急性発作の標準治療にモンテルカストを追加することは有効と考えてよいだろう。小児では成人より成績は否定的であるが、症例数も少なく、まだ十分なデータとはいえない。

小児科診療2011年12号

私の場合

私は、RSウイルス肺炎にともなって、すごくぜーぜーして苦しそうだった子ども(いわゆる喘息性気管支炎)にキプレスを処方し、喘鳴の期間を短縮できた(と思った)経験をしたことがあります。
その経験があるため、ウイルス感染でぜーぜーした子どもを診るときは、よくキプレスを1週間から2週間投与していました。
いわゆるコクランレビューにおける「間欠投与」としての使用です。
それで症状が軽くなり、早く治っていると思っていました。

また、風邪をひくたびにぜーぜーしてしまい、保育園をたびたび休まなければならない子どもに対して「ぜーぜーの予防のため」としてキプレスを2か月以上内服させたこともあります。
これはコクランレビューにおける「維持投与」になります。
これで感冒時の喘鳴を予防しているつもりになっていました。

コクランレビューの結果から考えると、私の感覚は錯覚であったのでしょうか?

実際の手ごたえとしては、喘息性気管支炎に対してキプレスやシングレア、オノンがとても効いているように感じることはよくあります。

私が「キプレスがよく効いた」と感じた症例は、アレルギー素因の持った子どもだったのかもしれません。
確かに、私がキプレスを内服させて喘鳴が改善した子どもの一部は、強いアトピー性皮膚炎も持っていました。
アレルギー素因の強い子どもでした。

ただし、アレルギー素因のある子どもであれば、風邪をひいたときの喘鳴にキプレスやシングレア、オノンが効くと断言することはできません。
前述した通り、喘息の子どもには維持投与で感冒時の喘鳴の予防効果がありました。
しかし、アレルギー素因のある子どもであっても、急性発作の症状を改善する目的でのロイコトリエン受容体拮抗薬の効果は、明らかにされていません。(大人ではエビデンスがあります)

喘鳴に対してロイコトリエン受容体拮抗薬が有効なサブグループについて、さらなる検討が必要でしょう。

少なくても私は、このコクランレビューを読んで、アレルギー素因のない子どもの喘息性気管支炎に対して、キプレスやシングレア、オノンを処方することを控えています。
気管支喘息と診断したケースや、APIが陽性で喘息と疑われるケースについては、感染時の喘鳴にキプレスやオノンを考慮します。
処方する場合も、明確なエビデンスがないと承知の上で出すようにしています。

いっぽうで、喘息と診断した児に予防的にロイコトリエン受容体拮抗薬を処方することは、喘鳴予防のエビデンスがあると判断しています。

注意点:キプレスやシングレア、オノンの保険適応について

さて、ここで「そもそも」な話です。

ウイルス性の喘鳴に対して、キプレスやシングレア、オノンを処方できるのでしょうか?
保険適応はあるのでしょうか?

キプレス細粒の保険適応は気管支喘息だけです。
キプレスチュアブル錠になるとアレルギー性鼻炎にも使えます。
シングレアについても全く同じです。

オノンも気管支喘息とアレルギー性鼻炎だけです。

ウイルスによる一時的な喘鳴は、気管支喘息とは異なるものですから、保険適応がありません。
審査情報提供事例を確認しましたが、喘鳴に対するキプレス、シングレア、オノンの適応は確認できませんでした。

審査情報提供事例についてはこの記事で書きました。

社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例。

2017年6月10日

保険適応を遵守しようと思えば、キプレス、シングレア、オノンを「風邪をひいてぜーぜーしている子ども」に対して処方することはできません。
処方するためには「気管支喘息」の診断が必要です。

小児喘息治療・管理ガイドライン2012では、喘息を広義に考えて、「2歳未満で、気道感染の有無にかかわらず、明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返し、エピソード間に無症状期間が1週間以上あること」としています。
なお、治療開始時に3エピソード以上あることは必須とされていません。

API陽性であれば、暫定的に気管支喘息と診断して治療をするというのは許容されると私は考えます。
幼いためにピークフロー検査ができない子どもの喘息を診断をする際には、やむを得ないと思っています。
そして診断があれば、キプレスやオノンは保険適応になります。

まとめ

コクランレビューや喘息のガイドラインを参考に、ウイルス感染時の喘鳴に対するロイコトリエン受容体拮抗薬の適応を考えてみました。

喘息の要素がない場合ににキプレスやシングレア、オノンを処方しても、明らかな効果はありません。
キプレスやシングレア、オノンの保険適応から考えても、アレルギー素因を持った、喘息の要素のある子どもに限定して処方するという使い方が望ましいと私は考えます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。