減感作療法がアレルギー性鼻炎の運命を変える!根治につながる治療薬。

2018年2月加筆:減感作療法にシダキュアが新たに加わりました。またミティキュアの適応年齢が12歳から5歳に引き下げられました。

3月になりました。
スギ花粉が飛んでいますね。

スギ花粉は1月から5月が飛散期で、特に2月から3月にはたくさんのスギ花粉が飛びます。
スギ花粉症の人は、とても辛いのではないでしょうか。

医療の世界でも「花粉症」という言葉は普通に通じますが、一般的には「季節性アレルギー性鼻炎」という表現のほうがしっくりきます。
いっぽうで、ハウスダストやダニによる鼻炎は「通年性アレルギー性鼻炎」といいます。

季節性であれ、通年性であれ、アレルギー性鼻炎の基本は、アレルギーの原因となる「アレルゲン」をできるだけ回避することです。

スギ花粉アレルギーであるのなら、花粉情報に注意し、花粉が多い日はマスクとメガネをし、表面が毛羽立ったコートは着ないようにし、帰宅時は衣服や髪をよく払って洗顔・うがい・鼻かみをし、窓は開けず、洗濯物は部屋干しし、掃除を頑張ります。

ハウスダスト・ダニアレルギーであるなら、布団を干したり、布団クリーナーを使ったり、防ダニのシーツを使ったり、エアコンのフィルタをこまめに掃除したり、織物のソファ・カーペット・畳をできるだけやめたりします。

アレルゲンをできるだけ回避した上で、次にするのは薬物療法です。
抗ヒスタミン薬や、鼻噴霧用ステロイド薬などを使います。
鼻水を止めるための、いわゆる対症療法です。

アレルゲンを回避し、対症療法をすることはとても大切です。

しかし、これらはアレルギー性鼻炎を根本的に治しているわけではありません。
あえて悪い言い方をすれば、アレルゲンから逃げ回り、捕まったら誤魔化しているだけです。
(ちなみに、逃げることは悪いことではありません。無駄な戦いをするほうが下策であり、36計逃げるにしかずとも言います。それを承知した上で、あえて悪い言い方で煽ってみました)

そんなアレルギー性鼻炎に、根治につながるかもしれない治療が登場しました。
それは「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」です。
アレルゲン免疫療法は、アレルギー性鼻炎の運命を変えることができる治療として期待されています。

今日は、アレルゲン免疫療法について書きます。

アレルゲン免疫療法(減感作療法)の歴史

1911年にNoonがLancetに報告したのが、アレルゲン免疫療法の歴史です。
それは、花粉から抽出したエキスを皮下に注射することで、アレルギーを弱めるという治療です。
アレルゲン免疫療法は、実は100年以上の歴史があるのです。

いわゆる皮下免疫療法と呼ばれる治療で、現在も行われています。
ただし、注射する量の調節が難しく、実施するのが難しい治療です。

もっと気軽にできる免疫療法として、舌下免疫療法が期待されています。
これはスギのエキスやダニのエキスを口の粘膜から吸収させ、アレルギーを弱めます。
注射をしなくていいので、自宅で続けることができます。

日本ではスギ花粉エキスとしてシダトレンが2014年に保険で使用できるようになりました。
そして2015年にはダニアレルゲンエキスとして、ミティキュアが販売されています。
そして2018年にはシダトレンが改良され、シダキュアという薬が販売されます。

皮下免疫療法は難しくて実施できないような私にも、舌下免疫療法なら安全に導入できるので、とても助かっています。

アレルゲン免疫療法(減感作療法)の作用機序

アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因となるアレルゲンを少量から投与していくことで、からだをアレルゲンに慣らしていくという治療法です。

いや、そんなので慣れていくのなら、花粉を浴びて、ダニを吸いこんでいるうちに、鼻炎なんて治りそうなものです。

正直なところ、アレルゲン免疫療法がなぜ有効なのかは分かっていません。
アレルゲンを口の粘膜や皮下から吸収すると、制御性T細胞やTh1細胞がなぜか増えて、アレルギー反応を促すTh2細胞を抑制したり、IgE抗体がアレルゲンと結合するのを妨げたりすると言われています。

アレルゲン免疫療法(減感作療法)の適応

  • アレルギー性鼻炎であること。
  • 重症の気管支喘息ではないこと。
  • 5歳以上であること。(舌下免疫療法は12歳以上から適応だった時代がありました。2018年以降はシダキュアの登場、ミティキュアの適応拡大により5歳以上から使用可能です)

アレルギー総合ガイドライン2013によると、アレルギー性鼻炎の診断は、①プリックテストまたは特異的IgE抗体検査、②鼻誘発試験、③鼻汁好酸球検査の3つのうち2つ以上が陽性であれば確定診断できます。
ただし、鼻誘発テストは小児科医で行うことはできないでしょう。
鼻汁好酸球も、スギ花粉が飛んでいない時にはスギ花粉症の鼻水には好酸球がいないことが多く、診断するのは難しいです。(ダニアレルギーであれば、一年中検査できますが)

同ガイドラインによると、プリックテストまたは特異的IgE抗体検査が中等度以上陽性で、典型的な鼻の痒み・くしゃみ・鼻漏・鼻閉がある場合も、アレルギー性鼻炎としてよいです。
(中等度陽性の定義が不明です。特異的IgEがクラス1でも、症状が典型的であればアレルギー性鼻炎と診断してよいと指導を受けたこともありますが……。なお、特異的IgEが陰性の場合は、好酸球増多性鼻炎や血管運動性鼻炎を念頭におきつつ、他の抗原検索を行います)

重症の気管支喘息は、免疫療法で発作を誘発する危険性があるので、使えません。
ただ、アレルゲン免疫療法は喘息にも有効であることが知られていますので、今後適応が拡大するかもしれません。

なお、皮下免疫療法ではスギ・ハウスダスト・ブタクサ・アカマツ・そば粉・キヌア・綿・真菌のエキスがあります。
舌下免疫療法はスギとダニだけです。

これ以外のアレルゲンで鼻炎になっている場合は、現時点ではアレルゲン免疫療法はできません。

アレルゲン免疫療法(減感作療法)の問題点

  • 3年以上の長い治療期間が必要。
  • 即効性はなく、効果発現まで2~3か月かかる。
  • 舌下免疫なら毎日内服しなければならない。皮下免疫なら月に1回注射が必要。
  • 効果が出ない患者さんもいる。
  • 重篤なアレルギー反応が出ることがある。皮下免疫療法では200万~500万回に1回、舌下免疫療法では1億回に1回。
  • 舌下免疫療法の処方は、e-learningを受けた医師にしかできない。

スギアレルギーだったり、ダニアレルギーだったりする人に、スギやダニのエキスを摂取させるわけですから、アレルギー反応が出ることは十分予測されます。
舌下免疫療法の処方にあたって、e-learning受講が条件になっているのは、副作用の心配の高い薬だからでしょう。

一番の問題点は、患者さんが続けられるかどうかです。
即効性のない治療なので、患者さんが薬をやめてしまうことがあります。
このとき「アレルギー性鼻炎の運命を変えられる唯一の治療法だから!3年飲めば、10年いやそれ以上に鼻炎が和らぐかもしれないよ」というと、がんばれる子どもが多いです。
(ただ、残念ながら効かないケースもあることはきちんと説明してください)

実際に飲んでみた

舌下免疫療法であるミティキュアを実際に飲んでみました。
ミティキュアはダニアレルゲンエキスです。
mite(ダニ)をcure(治癒)するから、ミティキュアなんでしょうね。

ちなみに私はダニアレルギーではありません。
この前自分の腕にプリックテストしてみましたが、陰性でした。

薬をシートから取り出します。
このとき、手が湿っていると、薬があっという間に指の上で溶けてしまいますので、手はしっかり拭いてからにします。

薬を取り出したら、舌の下に置きます。
このとき、水は飲みません。
薬だけを置きます。

あっというまに、口の中で溶けます。
味は全くしません。
そのまま1分間待ちます。

1分経ったら、ごくんと飲みます。

その後5分間は、食べたり飲んだりしてはいけません。

食後に飲む方がよさそうですね。
朝起きたてで口の中が渇いているときは、異物感が強く出そうです。

ちなみに、薬の説明をするとき、この記事のアイキャッチ画像のようなダニのイラストは、見せないほうがいいと思います。
私はちょっと心理的な嫌悪感が出ました。

次に、ダニのアレルギー性鼻炎患者さんにも飲んでもらいました。

口の中が痒いと言っていました。
口の痒みはもっとも出現率の高い副作用です。
しばらく続けているうちにこうした副作用は出なくなることも多いです。
どうしても症状が続くときは、増量せずに少ない量のままで様子をみるのもよいようです。

まとめ

鼻アレルギー診療ガイドライン2016によると、10歳代の通年性アレルギー性鼻炎は36.6%、スギ花粉症は31.4%に見られ、子どもにとってもアレルギー性鼻炎は深刻な問題です。

学校の勉強も、塾の宿題も、アレルギー性鼻炎のためにぼーっとして集中できず、成績が下がるかもしれません。

鼻炎は死ぬ病気ではありませんが、しっかり治してあげられると子どものためになります。

アレルゲン免疫療法は、対症療法とは異なり、アレルギー性鼻炎を根本から治せる可能性を持っています。

「患者の運命は俺が変える!」と仮面ライダーエグゼイドは言っていますが、まさに「アレルギー性鼻炎の運命はアレルゲン免疫療法が変える!」と言える熱い治療法です。

小児科医は子どものの運命を変えられるのか、という命題だけで一つの記事ができてしまうくらい、熱いテーマです。
なんでこんな記事を書いてしまったのか分からないですけど、せっかく書いたのでここに紹介しておきます。

患者の運命は俺が変える!予定運命説と小児科専門医の姿勢。

2017年3月1日

10歳から20歳台は、中学受験、高校受験、大学受験、就職活動と大事な時期が続く時期です。
アレルゲン免疫療法には即効性がありません。
大事な時期がやってきてから始めても、間に合わないでしょう。
12歳になったら鼻炎の子どもにはできるだけ早期に始めてあげると、その後の人生が、そして運命が大きく変わるかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。