起立性調節障害とアレルギーに共通する意外な7項目。

起立性調節障害は、どのお医者さんに診てもらえばよいのでしょうか。

  • 普通の小児科。
  • 循環器専門医。
  • 神経専門医。
  • 心身症認定医。
  • 精神科・心療内科。

起立性調節障害は循環器の病気だともいえますし、神経の病気ともいえますし、心の病気だともいえます。
そして中学生から高校生に多い病気ですので、普通の内科よりは小児科のほうが起立性調節障害をたくさん診ています。
したがって、上記の5つは、どれも正解です。

私は、上記の中では「普通の小児科」に該当します。
ただし、私が好きなのはアレルギー疾患で、2019年にはアレルギー専門医になるのを目指して勉強中です。

ですが、私は起立性調節障害の子どもは比較的たくさん診ているように思います。
起立性調節障害は、アレルギーとは関係ありませんが、不思議とアレルギー疾患と似たところを感じます。

起立性調節障害とアレルギーの共通点

両疾患をよく診ていると自称する私が、共通点を7つ列挙します。

不適切な介入で二次障害をきたす

起立性調節障害は、脳血流が低下するという循環器の病気です。
この疾患の厄介な点は、病気のことを周囲に理解してもらえないことです。
「怠け者」や「根性なし」と誤解され、学校の友達や先生との信頼関係が破綻し、不登校になってしまうという点がこの病気の大きな問題です。
起立性調節障害の約半数が不登校を伴いますし、逆に不登校の3~4割に起立性調節障害を伴います。

この「循環器の病気なのに、周囲に理解されないために、精神的に追い詰められて不登校になる」という現象を「二次障害」と言います。

起立性調節障害は2~3年もすれば必ず治りますが、二次障害は一生治らないかもしれません。
学校の先生に「怠け者」と呼ばれ、友達に「根性なし」と言われ、深く傷ついた子どもは、将来働きもせず、勉強もせず、家に引きこもって一生を過ごすかもしれないのです。

これは、食物アレルギーと似ています。

2000年のアメリカでは、アレルギーの素因が高い子どもには、5歳までピーナッツを食べないように推奨されました。
その結果、ピーナッツアレルギーが増えました。
この傾向は、卵にも見られます。
「食べさせるのが怖いから」という親や小児科医の誤った対応のせいで、本来食物アレルギーではなかった子どもがアレルギーになってしまったのです。

今の食物アレルギーガイドラインは、「除去は必要最低限」となっています。
「ピーナッツは危ないからとりあえず除去しておきましょう」というスタンスは、ピーナッツアレルギーのリスクを増やしています。

「起立性調節障害は怠け病で、根性がない子どもがなるんだ」という考えは誤解です。
「子どもの安全のために、アレルギーかもしれない食べ物はできるだけ除去したほうがいい」という考えは誤解です。
そして、この誤解が、病気をさらに悪くするのです。

間違った指導によって、状態がさらに深刻になっててしまうのは、何も起立性調節障害やアレルギーだけではありません。
発達障害や、2型糖尿病などの生活習慣病にもそういう要素があります。
ですが、誤解のされやすさから、正しい知識を身につけるために丁寧な教育が必要になるのは、起立性調節障害とアレルギーの特徴だと思います。
これが、第一の類似点です。

幅広い臨床能力が求められる

起立性調節障害は循環器の病気ですが、失神するような子どもであれば、てんかんや脳腫瘍の除外も必要になります。
また、一部に心身症の要素を含みます。
心身症とは、心の反応が体の反応につながることです。
たとえば学校を休むと症状が軽くなったり、気にかかっていることを言われると症状が増悪したりします。
こういう心理社会的な関与がある場合は、学校への指導や、友達や家庭の環境調整、心理カウンセリングなどが必要となってきます。
この調整が上手く行かないと、二次障害を起こし、たとえ病気がよくなっても、子どもは学校に行けなくなってしまいます。

起立性調節障害の治療には、幅広い臨床能力を求められます。

幅広い臨床能力、という点では、アレルギーも同じです。
アレルギー専門医は「Total Allergist」を目指しています。
内科、小児科、耳鼻咽喉科、皮膚科、眼科が「アレルギー」という分野で繋がっています。
喘息も食物アレルギーもアトピー性皮膚炎も鼻炎も結膜炎も、全部診られるのがアレルギー専門医です。

患者さんの一部分にとらわれず、全部を診てあげる。
これが起立性調節障害とアレルギーの第二の類似点です。

すぐには治らない

喘息も食物アレルギーもアトピー性皮膚炎もなかなか治りません。
起立性調節障害も治るのに2~3年かかります。

この難治という点が、類似点です。
なかなか治らないと、子どもや親は治療をあきらめてしまうかもしれません。
治らないのは自分の努力が足りないからだと自己嫌悪し、自信をなくしてしまう子どもや親もいます。
また、治らないのは医者のせいだと考えて、信頼が破綻し、病院に来てくれなくなる子どもや親もいます。

治りにくい病気を上手くフォローするには、コツがあります。

まず、子どもと親の声を聞きましょう。
人は、雄弁に語る医者より、よく聞いてくれる医者のほうに心を開いてくれます。

次に、子どもや親ががんばってることを褒めましょう。
起立性調節障害なら、まず病院に来てくれたことを褒めましょう。
「来てくれて嬉しいよ」と笑顔で迎えましょう。
薬が飲めていることを褒めましょう。
前向きな行動や発言を一緒に喜びましょう。
アトピー性皮膚炎であれば、保湿薬を塗る手間を労いましょう。
皮膚のいいところを見つけて、「ここは綺麗ですね!」と褒めましょう。
「外用薬を毎日塗るのは大変ですが、お母さんは本当によく頑張ってますよ!」と励ましましょう。

治りにくい病気を継続して治療するのは、親も子どもも本当に大変です。
モチベーションを高めてあげるのが医者の仕事です。

そして、いつか治ることを目指せるのも起立性調節障害とアレルギーで似ています。
どちらも完治することがゴールです。
「完治するその日まで、一緒に頑張ってきましょうね!」と、途中で絶対に見捨てないことを保証します。

風評が多い

アレルギーの世界でもっとも風評が多いのは、ステロイド外用薬です。
アトピー性皮膚炎の患者さんは多いので、なんとか食い物にしたいと思ってる人たちがたくさんいます。
彼らはアトピー性皮膚炎をターゲットにしたビジネスチャンスを狙っています。
いわゆる「アトピービジネス」です。

アトピービジネスは、患者さんを精神的に追い込み、「このままでは治らない」「画期的な治療がある」と言葉巧みに偽医療に引き込みます。

このとき、100%間違いなく使われる手口が「ステロイドを悪者に仕立てる」という戦略です。
ステロイドを塗ると皮膚が萎縮するとか、薄くなるとか、副作用ばかりを強くアピールします。
ステロイド併用を認めるアトピービジネスは見たことがありません。

アトピー性皮膚炎の治療をするために重要なのは、まずはステロイド外用薬の風評被害をしっかり説明することです。

これは、怠け病と勘違いされやすい起立性調節障害とよく似ています。
起立性調節障害が誤解されやすい理由については、こちらの記事を参照ください。

誰も理解してくれない!起立性調節障害に潜む4つの闇。

2017年2月9日
二次障害を防ぐために、まず起立性調節障害の誤解を解かなければなりません。

風評と戦うという点が、第四の類似点です。

みんなの協力が必要

起立性調節障害もアレルギーも、スーパー外科医がミラクルな手術をしてハッピーエンドという病気ではありません。
これさえ飲めばもう大丈夫という薬もありません。

この病気は、医者が治すのではありません。
子どもとその親が治すのです。
医者にできるのは、子どもと親を支えることだけです。
医者だけががんばっても、ただの空回りです。

みんなの協力があって、初めて完治というゴールに走りだします。

命の危険性がない

起立性調節障害も、アレルギーも、生活の質に大きく関わる病気です。
ですが、死ぬことがありません。(アナフィラキシーショックや喘息死を除く)
死ぬことがないという点が、病気を軽んじられたり、また偽医療に誘導されたりしやすい原因なのかもしれません。

外来診療で時間がかかる

丁寧な面接、指導が必要になります。
1人診るのに20分とか30分とかかかることもあります。
3時間で8人しか診られないと、赤字です。
これでは、丁寧に診てくれる先生がどんどん減ってしまいます。

この残念な特徴も、起立性調節障害とアレルギーの共通点です。

まとめ

起立性調節障害とアレルギーの共通点を7つ書いてみました。

7つというと多いですが、要するに丁寧な指導が大切ということです。
起立性調節障害は思春期に多く、アレルギーは乳幼児に多いという点は異なっていますが、指導の大切さや注意点は同じです。

全然違う分野に見えて、根本が似ているという点は、とても面白いです。
これからも、できるだけたくさんの起立性調節障害の子どもも診ていきたいと思ってます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。