当院小児科では、研修医の先生にもできるだけ小児科外来を経験して欲しいと考え、その機会を提供しています。
研修医の先生が診察している様子を指導医がそっと見守るという方針です。
その中で、こんなやりとりがありました。
研修医「ウイルス性の上気道炎だと思います」
私「その根拠を教えてください」
研修医「咳嗽や鼻汁など上気道症状が目立ち、咽頭発赤を認めます。いっぽうで聴診所見に問題なく、下気道炎はありません。全身状態は比較的良いので、深部感染症とは思えません」
私「なるほど。溶連菌についてはどうですか?」
研修医「咳が出ているので溶連菌らしくはないと思います」
私「咳が出ていたら溶連菌は否定されますか?」
研修医「いえ、咳症状はcentor criteriaの一項目にしか過ぎません。熱は高いですし、年齢も4歳ですから、年齢補正すればこの児は2点あります。溶連菌検査したほうがいいでしょうか」
私「では、今日は小児科におけるcentor criteriaについて勉強しましょう」
というわけで、今回のテーマは小児におけるcentor criteriaについてです。
このページの目次です。
最初の溶連菌感染症の診断スコア
1981年にCentor医師によって提唱された溶連菌感染症の診断ツールがあります。
The diagnosis of strep throat in adults in the emergency room. Med Decis Making. 1981;1(3):239-46.
対象は咽頭痛をもつ成人です。
次の4つの症状のうち、いくつ認めるかで溶連菌感染症の確率が分かります。
- 発熱(原文では華氏101度で、摂氏38.3度に相当する) 1点
- 滲出性扁桃炎(扁桃白苔) 1点
- 前頚部リンパ節の柔らかい腫脹 1点
- 咳がない 1点
溶連菌感染症である確率は、4点で56%、3点で32%、2点で15%、1点で6.5%、0点で2.5%でした。
現在でも溶連菌診療でよく用いられる4つの特徴は、Centor criteriaとしてとても有名です。
センタークライテリアと発音します。
センターは人の名前ですので、中央という意味はありません(それはcenterです)。
注意点としては、このCentor criteriaは咽頭痛があることが前提です。
たとえば熱があって、咳がなければ、Centor criteria 2点ですが、喉の痛みがないのであればCentor criteriaは使えませんので、溶連菌の確率は15%と言えません。
年齢による補正
溶連菌感染症は、小児では多く、逆に45歳以上では少ないという特徴があります。
この年齢による修正を加えたのが、McIsaac criteriaです。
A clinical score to reduce unnecessary antibiotic use in patients with sore throat. CMAJ. 1998 Jan 13;158(1):75-83.
マクアイザッククライテリアと私は読んでいますが、「年齢補正されたセンタークライテリア」と読んでもらっても全く問題ありません。
McIsaac criteriaは次の通りです。
- 発熱(38度以上) 1点
- 滲出性扁桃炎(扁桃白苔)または扁桃腫大 1点
- 前頚部リンパ節の柔らかい腫脹 1点
- 咳がない 1点
- 3-14歳 1点
- 15-44歳 0点
- 45歳以上 -1点
大きな変更点は、やはり年齢による補正です。
小さな変更点としては、発熱の定義が少し変わったのと、扁桃に関して白苔だけではなく腫大所見も考慮してよいことになりました。
「McIsaac criteriaだと合計が-1点から5点までありえますね!」と感じるかもしれません。
ですが、論文中にある通り、合計が-1点になるときは0点とします。
また、合計が5点になるときは4点とします。
つまり、McIsaac criteriaもCentor criteriaもその合計は0-4の範囲です。
では、McIsaac criteriaの結果を見てみましょう。
大事なのは赤丸で囲ったところです。
3-14歳において、溶連菌感染症である確率は、4点で51.3%、3点で29.2%、2点で21.0%、1点で12.5%でした。
年齢で1点必ず増えるので、0点は存在しません。
McIsaac criteria 2点以上を陽性、2点未満を陰性とするならば、小児でのMcIsaac criteriaの感度は96.9%もあります。
いっぽうで特異度はたった13.7%です。
陽性尤度比は1.12、陰性尤度比は0.23です
ちなみに、15歳以上において、溶連菌感染症である確率は、4点で57.1%、3点で26.7%、2点で8.9%、1点で4.6%、0点で2.5%でした。
McIsaac criteriaの注意点としては、3歳未満では適応できません。
上記の論文では、3歳未満の児は除外されています。
また、Centor criteriaのときと同様に、咽頭痛があることが前提です。
喉の痛みがなかったり、はっきりしなかったりする場合は、McIsaac criteriaは使えません。
McIsaac criteriaをどう解釈するか?
15歳以上においてMcIsaac criteriaは優秀です。
溶連菌感染の確率は、1点で4.6%、0点で2.5%ですから。
McIsaac criteria1点以下では検査前確率5%未満であり、溶連菌検査をする意義は低いと感じられると思います。
(溶連菌は保菌の問題があり、検査前確率が低いときの検査は疑陽性に悩まされます)
では、小児ではどうでしょうか。
McIsaac criteria 1点で溶連菌感染の確率は12.5%でした。
感度96.9%、陰性尤度比は0.23でした。
これをどう評価するかは医師によって、または状況によって異なるでしょう。
仮にMcIsaac criteria1点であっても、咽頭痛における小児の溶連菌感染症は検査前確率が35.6%と高いため、陰性尤度比0.23ごときの検査では、検査後確率が12.5%も残ってしまいます。
あえて「ごとき」と書いたのは、やはり陰性尤度比0.2未満は欲しいからです。
これでは、溶連菌感染症の否定はできないと感じられます。
別の論文では、McIsaac criteriaの感度94%、特異度54%と評価しています。
これなら陰性尤度比は0.11です。
ちなみに陽性尤度比は2.04で、たいしたことありません。
Selective testing strategies for diagnosing group A streptococcal infection in children with pharyngitis: a systematic review and prospective multicentre external validation study. CMAJ. 2015 Jan 6; 187(1): 23–32.
ですが、McIsaac criteriaが1点になる小児というのは、極めて稀です。
年齢ですでに1点ありますから。
咽頭痛はあるけれど、熱は38度未満で、扁桃所見がなく、前頚部のリンパ節腫脹はなく、咳はあるという子どもは、上記の論文では90人中8人(8.9%)しかいませんでした。
もしMcIsaac criteria 2点以上で溶連菌検査をするなら、咽頭痛を認める子どもの91.1%で溶連菌検査をすることになります。
つまりMcIsaac criteriaで溶連菌感染症の可能性が高い児を絞り込むのは難しいと私は感じます。
これは、「McIsaac criteriaの元となったCentor criteriaが、小児には向いてなかったのでは?」という仮説に行きつきます。
小児に対するCentor criteriaの追試1
2歳から15歳までの小児に対してCentor criteriaを用いた追試があります。
ベルギーの論文です。
Centor criteria in children in a paediatric emergency department: for what it is worth. BMJ Open. 2013; 3(4): e002712.
研究参加者は、以下の全てを満たします。
- UZ Brussel病院救急部を受診した2歳から15歳までの児
- 咽頭痛がある
- 呼吸器、循環器、血液に慢性疾患がない
- まだ抗菌薬投与を受けていない
- 溶連菌検査を受けた
以上をすべて満たす441人(2-4歳が286人、5-15歳が155人)が対象となりました。
この441人のCentor criteriaと、溶連菌検査の結果をまとめます。
これが何を意味するのか、すぐには分からないかもしれません。
ですが、これは驚くべき結果です。
まず2歳以上5歳未満において、溶連菌陽性の子どもよりも陰性の子どものほうが高熱で、リンパ節腫大があり、扁桃白苔があり、咳がない傾向があったのです。
これは、5歳未満の児においてCentor criteriaが全く無意味であることを意味します。
陽性尤度比が1を下回っていますね。
逆に陰性尤度比が1を超えています。
仮説と真逆である結果を臨床に使うことはできません。
どうしてこのような結果になってしまったのでしょうか。
論文の筆者らによると、5歳未満では保菌の問題が強く出たという点と、EBウイルス感染症のような熱があって扁桃白苔があって、リンパ節腫大があって、咳がないような病気の可能性が上がってしまった点を指摘していました。
溶連菌の保菌については、こちらにも書きました。
つまり、小児科においてCentor criteria高値は、溶連菌以外の感染症の可能性が上がってしまうという推察です。
ちなみに、5歳以上では、Centor criteriaは一定の意味があります。
一応、一部の項目で陽性尤度比が1を超え、陰性尤度比が1を下回りました。
ですが、筆者らの結論は「15歳以下にCentor criteriaは有用ではない」でした。
小児に対するCentor criteriaの追試2
3-14歳をまとめて評価した追試があります。
Large-Scale Validation of the Centor and McIsaac Scores to Predict Group A Streptococcal Pharyngitis. Arch Intern Med. 2012 Jun 11; 172(11): 847–852.
咽頭痛があり、溶連菌検査を受けた3-14歳の小児64789人について書かれています。
とても大きな研究です。
- Centor criteria 0点は4009人いて、そのうち670人(17%)が溶連菌陽性でした。
- 1点は16683人いて、そのうち3816人(23%)が溶連菌陽性でした。
- 2点は22811人いて、そのうち7866人(34%)が溶連菌陽性でした。
- 3点は16122人いて、そのうち8079人(50%)が溶連菌陽性でした。
- 4点は5164人いて、そのうち3528人(68%)が溶連菌陽性でした。
もしこれをMcIsaac criteriaに変換すれば、1点、2点、3点はCentor criteriaの0点、1点、2点に該当します。
そしてMcIsaac criteria 4点は21286人いて、そのうち11607人(54.5%)が溶連菌陽性となります。
これをみると、確かにCentor criteriaやMcIsaac criteriaが高いほど溶連菌感染症の可能性は上がります。
ですが、Centor criteria 0点(McIsaac criteria 1点)であっても17%が溶連菌感染症という事実は、「Centor criteriaが低いから溶連菌を除外する」という方向性に結びつきません。
これは、咽頭痛小児の溶連菌感染症率が37.0%もあり、検査前確率が高いためとも言えます。
また、64789人中、Centor criteria 0点は4009人しかいません。
Centor criteria 1点以上で溶連菌検査をするという戦略をとっても、咽頭痛患者の94%で溶連菌検査をすることになってしまいます。
小児にはCentor criteria もMcIsaac criteriaも使えないのか?
結局、Centor criteria やMcIsaac criteriaに対し、小児科ではどのように向かい合えばいいのでしょうか。
今まで紹介してきた論文をまとめます。
- Centor criteria やMcIsaac criteriaは咽頭痛があることが前提である。
- 咽頭痛を認める小児の35.6-37.0%が溶連菌感染症である(ただし保菌も含まれていると考えられる)。
- McIsaac criteria 1点であれば陰性尤度比0.11-0.23という報告がある。ただし、McIsaac criteria 1点でも12.5-17%が溶連菌感染症である。また、McIsaac criteria 1点となるような咽頭痛患者は6-9%しかいない。
- McIsaac criteria 2点以上であっても陽性尤度比1.12-2.04しかなく、McIsaac criteria 4点であっても溶連菌感染症の確率は51.3-68%である。診断確定には使えない。
- 5歳未満ではCentor criteriaもMcIsaac criteriaも当てにならない。
- EBウイルス感染症でもCentor criteriaやMcIsaac criteriaが高値となる。
以上をふまえ、私は小児ではCentor criteriaもMcIsaac criteriaも使えないと判断しました。
McIsaac criteria 1点であれば否定に使えるという意見はあってもいいと思います。
ですが、McIsaac criteria 1点は6-9%であり、稀です。
そして、McIsaac criteria 2点以上なら検査をすべきだというわけでもありません。
であるなら、McIsaac criteriaをつけるメリットは私は低いと判断しました。
私が溶連菌検査をするときは、次です。
- 2歳以上で、38度以上の発熱があり、咽頭発赤または扁桃白苔がある。
もちろん軟口蓋に点状出血があれば「絶対に溶連菌だ」と思いますが、なくても否定できません。
私は2歳未満に対しては、基本的に溶連菌検査をしません。
ただし2歳未満であっても、38度以上の発熱があり、咽頭発赤または扁桃白苔があることが前提条件で、周囲に溶連菌感染の流行がある場合や、CRP4以上で咽頭・扁桃所見以外に熱源が見つからない場合には、溶連菌検査を行っています。
こうして書いてみて、あらためて溶連菌診療の難しさを感じました。
溶連菌診療の難しさについては、こちらの記事も参照ください。