血液検査のCRPは抗菌薬を減らしますか?

「どうしたら抗菌薬処方を減らせるのだろう」

という薬剤師さんたちの願いで、始めた「抗菌薬の使い方」シリーズ。
今回が4回目です。

  • 抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?
  • 抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?
  • 抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?

第1回「抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?」はこちらに書きました。

鼻水が黄色や緑色のときは抗菌薬が効きますか?

2019年3月19日

第2回「抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?」はこちらです。

抗菌薬は肺炎や中耳炎の予防に有効ですか?

2019年3月21日

第3回「抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?共有意思決定編」はこちらです。

共有意思決定は抗菌薬を減らし、患者の不安を軽くするかもしれない。

2019年3月24日

今回はシリーズ第4回です。
「抗菌薬を減らすための具体的な方法は?血液検査・CRP編」について書きます。

血液検査でCRPを測定することで抗菌薬は減るか?

血液検査でいわゆる「炎症反応」として使われているのが、CRPと白血球数とプロカルシトニンです。
一般的にはこれらの炎症反応が高ければ抗菌薬が必要な細菌感染症、炎症反応が低ければ抗菌薬が不要な細菌感染症と考えられています。

CRPを測定することで、抗菌薬の使用を減らすことができるか検討したコクランレビューを紹介します。

Biomarkers as point‐of‐care tests to guide prescription of antibiotics in patients with acute respiratory infections in primary care.(Cochrane Database Syst Rev. 2014 Nov 6;(11):CD010130.)

主として大人を対象とした研究です(平均46歳)。
6つのランダム化比較試験を検討しました。

検討した論文は、CRPが5mg/dL以上で速やかに抗菌薬を処方するという論文や、CRPが10mg/dL以上では速やかに抗菌薬を処方するがCRPが2~10mg/dLの場合は待機的に抗菌薬を使うという論文が含まれました。

結果、CRPを測定して抗菌薬を使用するか決めると、CRPを測定せずに抗菌薬を処方するよりも、使用数が78%になりました(95%信頼区間66-92%)。

抗菌薬の使用が減ったことで、有害な事象(死亡率の増加など)は増えませんでした。
ただし、1つの論文で入院率の増加がみられました。
Effects of internet-based training on antibiotic prescribing rates for acute respiratory-tract infections: a multinational, cluster, randomised, factorial, controlled trial.Lancet. 2013 Oct 5;382(9899):1175-82.

結論として、CRPを測定することで抗菌薬を減らすことができますが、費用対効果は不明で、かつ入院の増加が懸念されます。

私の感想

私は抗菌薬を処方するとき、基本的に血液検査を行っておくことが前提だと感じています。
(中等症以上の副鼻腔炎や中耳炎など、血液検査をしないで抗菌薬を処方することもありますが)

CRPの価値は医師によって、施設によっていろいろですが、複数のプライマリケア医が複雑に絡み合いつつ地域の診療が成立しているケースでは、CRPはやはり客観的なマーカーとなりえます。
治療効果判定、経過の推移はCRPをグラフで書くことで可視化されます(このグラフの信頼性はもちろん議論があります)。

CRPの基準は、コクランレビューでは5mg/dLとしているものが多かったです。
私の基準は4mg/dLです。
このカットオフ値を採用した経緯は、この本にも書きました。

血液検査は痛みを伴います。
子どもを抑えつけて、針を刺すという行為は、私を含めすべての小児科医が「できればしたくない」と考えていると思います。

いっぽうで、抗菌薬を処方するという行為は痛みがないので、一見子どもにとって無害なように思えるかもしれません。
ですが、耐性菌の問題、抗菌薬の副作用を考えると、抗菌薬も「できればしたくない」処方です。

不要な抗菌薬を減らすために、採血は一定の必要性があると感じています。
上記で紹介した「小児科ファーストタッチ」では血液検査をする基準も記載しています。
それは不要な抗菌薬を減らすために必要な検査だというつもりで記載しています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。