胃腸炎の下痢に下痢止めを使ってはいけないことを知っている人は多いと思います。
私は「下痢を止めてしまうと、胃腸炎のウイルスが体にたまってしまうかもしれません」とよく説明しています。
では、下痢に対して何かできることはないでしょうか。
適切な水分はもちろん大切です。
経口補水療法の方法、種類はこちらに書きました。
いっぽう、子どもが下痢をしたとき、ラックビーやビオフェルミン、ミヤBM、ビオスリーなどを処方された経験はありませんか?
下痢をマイルドに和らげる可能性があるとして、乳酸菌(整腸剤)が期待されています。
今回は、胃腸炎の下痢に対して乳酸菌(整腸剤)が有効かどうかについて書きます。
乳酸菌は小児の急性胃腸炎に有効か?
なお論文中ではプロバイオティクスという言葉が使われています。
プロバイオティクスとは「生きて腸に到達する腸内細菌製剤」のことですが、この記事では分かりやすく「乳酸菌」という言葉で表現します。
背景
- 急性胃腸炎は、世界では5歳以下の小児の2番目に多い死因です。
- 乳酸菌は免疫を調節し、胃腸炎症状を改善すると報告されています。しかしこれらの研究はサンプルサイズが小さかったり、乳酸菌の品質に問題があったり、研究手法が不明瞭だったりします。
- 乳酸菌がどれほどの効果があるかは不明瞭にもかかわらず、アメリカではたくさんの乳酸菌製剤が胃腸炎に対して使われています。
- そのため、本当に乳酸菌が胃腸炎に効くのか、二重盲検ランダム化比較試験で調べてみました。
方法
- アメリカの10か所の救急病院で研究されました。
- 生後3か月から4歳までの急性胃腸炎患児をランダムに次の2群に分けました。
⇒Lactobacillus rhamnosus GG群(1010コロニー形成単位を1日2回、5日間投与)
⇒プラセボ群 - 急性胃腸炎とは、1日3回以上の水様下痢があり、7日以内に改善するものとします。嘔吐の有無は問いません。
- 免疫不全患者や中心静脈ルートのある児、心疾患、早産で生後6か月未満、炎症性腸疾患、膵炎、胆汁性嘔吐、血便合併などの症例は除外されました。
- もし薬を飲んで15分以内に嘔吐した場合は内服しなおしました。
- 保護者に日記を毎日書いてもらい、少なくても最初の5日間は毎日メールか電話で情報を集めました。
主要評価項目
- 修正Vesikariスコア9点以上の2群間比較。
修正Vesikariスコア:20点満点
0点 | 1点 | 2点 | 3点 | |
下痢の期間 | 0時間 | 1-96時間 | 97-120時間 | 121時間以上 |
1日の最大下痢回数 | 0回 | 1-3回 | 4-5回 | 6回以上 |
嘔吐の期間 | 0時間 | 1-24時間 | 25-48時間 | 49時間以上 |
1日の最大嘔吐回数 | 0回 | 1回 | 2-4回 | 5回以上 |
最高直腸温 | 37.0℃未満 | 37.1-38.4℃ | 38.5-38.9℃ | 39℃以上 |
予定外受診 | なし | 診療所 | 救急病院 | |
治療 | なし | 点滴 | 入院 |
腋窩温の場合、1.1℃足します。つまりワキで36.5℃だったら、直腸温は37.6℃と思って評価します。上の図では1点になります。
二次評価項目
- 下痢・嘔吐の頻度と持続期間
- 児がデイケアを休んだ日数
- 保護者が仕事を休んだ日数
- 家庭内伝播率
- Vesikariスコアの平均値
結果
- Lactobacillus rhamnosus GG群:468人
- プラセボ群:475人
- 登録時点での重症度に差はありませんでした。
- 薬をきちんと飲めた率(10回中7回以上内服できた率)は、両群とも87%。
- 95%以上がきちんとフォローアップできました。
- 主要評価項目:修正Vesikariスコア9点以上の割合
⇒Lactobacillus rhamnosus GG群11.8%
⇒プラセボ群12.6%
⇒有意差なし(p=0.83) - 二次評価項目
⇒下痢・嘔吐の頻度と持続期間:有意差なし
⇒児がデイケアを休んだ日数:有意差なし
⇒保護者が仕事を休んだ日数:有意差なし
⇒家庭内伝播率:有意差なし
⇒Vesikariスコアの平均値:有意差なし - 有害事象はありませんでした。
ディスカッション
- Lactobacillus rhamnosus GGに、胃腸炎症状を軽症までに抑える効果は確認できませんでした。
- 今回の研究では、Lactobacillus rhamnosus GGの品質管理を厳密にできています。サンプルサイズも大きいです。
- プロバイオティクスの反応性は個人の生来の腸内細菌叢や遺伝子発現様式に関係し、多様性があることが報告されています。
結論
- Lactobacillus rhamnosus GGによって、中等度から重度の胃腸炎症状の割合は少なくならず、嘔吐や下痢の期間の頻度、家庭内伝播率、デイケアや仕事の欠席期間に関しても有効性は確認できませんでした。
感想
ここからは私の感想です。
主要評価項目である修正Vesikariスコアで乳酸菌の効果をみるのは難しいように感じました。
乳酸菌を飲ませても熱が下がるとは思えません。
最大の下痢回数や嘔吐回数についても、乳酸菌に即効性があるとは思えないので、修正Vesikariスコアに反映されることはないでしょう。
即効性がないので、輸液回避、入院回避につながるとも思えません。
おそらく多くの医師が、そこまで乳酸菌に期待していません。
ただ、下痢の期間は約1日短くなると思っていました。
ですから、二次評価項目の「下痢・嘔吐の頻度と持続期間」に差が出なかったのは複雑な気持ちです。
「やはり出ないか」という気持ちと「出て欲しかった」という気持ちとで、ざわざわしています。
同時期に、886人の小児の胃腸炎患者を2群に分け、片群にLactobacillus rhamnosus R0011とL. helveticus R0052 を配合したプロバイオティクス製剤を投与した試験があります。
こちらも、乳酸菌製剤の効果を確認できませんでした。
Multicenter Trial of a Combination Probiotic for Children with Gastroenteritis.(N Engl J Med. 2018 Nov 22; 379: 2015-2026)
私は、下痢症状主体の胃腸炎には、乳酸菌製剤を処方しています。
その理由は、コクランレビューの結果に重きを置いているからです。
Probiotics for treating acute infectious diarrhoea.(Cochrane Database Syst Rev. 2010 Nov 10; CD003048)
コクランレビューでは8014人(63試験、そのうち56試験は小児の研究)に対する乳酸菌製剤治療のまとめが書かれています。
下痢の期間を平均24.8時間短縮し、4日以上の下痢持続の割合を0.41倍にし、発症2日目の便の回数を平均0.8回減少させました。
経口補水療法と併用した乳酸菌製剤は安全で、胃腸炎の下痢を改善させ、明確で有益な効果があると考えられています。
今回読んだ論文をもって、「もう胃腸炎には乳酸菌を出さない!」とは私は考えません。
ですが、コクランの記載も2010年のものであり、おそらく本試験の結果はコクランレビューに取り入れられ、新しい記述に変わるでしょう。
コクランレビューの結果がどのように変更されるかどうか、注目しています。