シンプルなカゼに抗生剤は必要ありません。
しかし、抗生剤が必要となる病気はあります。
腎盂腎炎は細菌性肺炎に次いで、抗生剤が必要となる子どもの病気です。
細菌性肺炎に対する抗生剤の投与経路や期間については日本でもガイドラインがあります。
いっぽう、腎盂腎炎についてはどのようなガイドラインがあるのでしょうか。
今回は、腎盂腎炎のガイドラインについて書きます。
日本の腎盂腎炎ガイドライン
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―(日本感染症学会・日本化学療法学会)に小児の腎盂腎炎についても指針が書かれています。(小児についてはP17から書かれています)
腎盂腎炎症例で治療期間が1-3日であった場合は再燃の可能性があり、乳幼児における発熱を伴う尿路感染症の治療期間は7-14日行うべきである(Urinary tract infection: clinical practice guideline for the diagnosis and management of the initial UTI in febrile infants and children 2 to 24 months. Pediatrics. 2011; 128: 595-610)。7-14日の間における比較検討は行われておらず、各医師や施設の裁量において期間を設定する。
発熱を伴う尿路感染症に対して欧米では、経口抗菌薬の有効性は静注薬と同等であるとし(Oral versus initial intravenous therapy for urinary tract infections in young febrile children.Pediatrics. 1999; 104: 79-86、Antibiotics for acute pyelonephritis in children.Cochrane Database Syst Rev)、経口抗菌薬の投与を推奨している。一方で本邦においては十分な検討がなく、医療体制や対象となる患者層が異なる可能性があり、一般的には点滴静注薬による初期治療を行うべきと考える。
腎盂腎炎に対して抗生剤治療を3日というのは、強い戒めのメッセージだと感じます。
「子どもが発熱し来院。原因不明。とりあえず抗生剤3日間内服。解熱したので投薬を終了。……というようなことを絶対にしないでね!」という意味と私は認識しています。
治療期間の7-14日については、おそらく多くの医師が症状の推移、尿検査の推移、血液検査の推移、基礎疾患の有無などを考慮して決定しているはずです。
いっぽうで、経口スイッチするタイミングについては、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015には書かれていません。
最初は点滴で抗生剤を投与せよと書いてありますが、いつから飲み薬にしていいのかが不明です。
ネルソン小児科学による腎盂腎炎治療
小児科医のバイブル、ネルソン小児科学にはどのように書かれているでしょうか。
腎盂腎炎では、腎組織内有効濃度に到達する広域スペクトルの抗菌薬を10-14日間投与することが望ましい。
脱水、嘔吐、飲水困難、生後1か月以下、尿路性敗血症のおそれがある児には、抗菌薬の静脈投与を受ける必要がある。
腎盂腎炎の小児に対して、初回はセフトリアキソンを筋注し、その後第三世代セフェムを内服で用いると効果的なことがある。
ネルソン小児科学 第19版 p2122-2127
ネルソンでは、生後1か月以下や敗血症(おそらく血液培養が陽性という意味だと思います)では、静脈投与が必須だけれど、それ以外では飲み薬でもなんとかなるよ、という意味にとれます。
こちらも静脈投与から経口薬にスイッチするタイミングについては書かれていませんでした。
ヨーロッパの腎盂腎炎ガイドライン
Eur Urol. 2015; 67: p546-558を参考に、ヨーロッパの腎盂腎炎の指針を述べます。
EAUでは解熱するまでは経静脈的抗生剤投与を行っています。
そして合計治療期間は7-14日間を推奨されています。
つまり最短のケースを想定すると、抗生剤を点滴で開始し、1日で解熱したら、あと6日間は飲み薬の抗生剤でいいということです。
解熱をもって点滴薬から飲み薬にスイッチするという考え方は、とても臨床的でステキだと感じます。
Lancet Infect Dis誌による腎盂腎炎治療
面白い論文を知りました。
(見つけたのは当院の初期研修医です)
コクランレビューにおいて、小児の腎盂腎炎に対して10-14日間の抗生剤治療を行いました。
- 全期間を経静脈的投与にした場合。
- 3日間経静脈的投与後に経口投与した場合。
- 全期間を経口投与した場合。
以上の3つのケースでそれぞれ発熱期間・腎損傷の率に差はありませんでした。
尿路感染症に伴う菌血症の乳児についての大規模後ろ向き研究では、中央値7.8日の経静脈的抗生剤投与で再発は起きませんでした。
この論文に結論はありません。
菌血症でなければ、腎盂腎炎は飲み薬で十分治せますという結論は書かれていません。
ただ、アドバイスとして生後28日以上で敗血症を示唆する所見がなければ、抗生剤内服は治療選択肢になることを書かれています。
(生後28日未満では吸収率が様々なのでおすすめできません)
まとめ
腎盂腎炎に関する抗生剤の投与経路と期間、そして飲み薬にスイッチするタイミングについて調べてみました。
投与期間の合計は最低7日です。
点滴がいいとか内服でもいいとかは結論は出ていません。
生後1か月以上で、敗血症を示唆する症状がなければ、内服抗生剤は十分治療選択肢になります。
EAUでは解熱するまで点滴で、解熱したら内服にスイッチしています。
私は腎盂腎炎においてはEAUの指針がもっとも自分に合っていると感じています。
そのため、この本にはEAUの指針を紹介しました。
本書ではEAUの基準に加え、CRP低下傾向、尿所見正常化まで経静脈的抗生剤投与を行っていると書きました。
ただ、尿所見はなかなか正常化しない場合もあり、状況によっては尿中白血球陽性が続いても内服スイッチすることがあるということを付記します。
なお、今回検討したのは腎盂腎炎です。
発熱を伴う尿路感染症では、AFBNや腎膿瘍という病態もあります。
AFBNについてはこちらの記事に書きました。