兵庫県立柏原病院は、教育を大切にしている病院です。
そのおかげで、とてもたくさんの研修医が柏原病院に集まっています。
小児科にも研修医が勉強にきています。
今日も研修医の先生に子どもの診察をさせてみましたが、子どもが途中で泣き出してしまいました。
研修医の先生は、泣いている子どもに聴診器を当てながら「上手く聴診できません!」と助けを求めてきます。
小児科研修あるあるです。
今回は、どうすれば子どもを上手に聴診できるのかについて書いてみます。
このページの目次です。
子どもの啼泣
子どもが泣いていいことなど一つもありません。
丁寧な聴診が必要な子どもというのは、何らかの呼吸器症状を持っています。
泣くと気道内に乱流が発生し、気道抵抗が10倍になることはPALSプロバイダーであれば知っています。
(PALSプロバイダーマニュアル2015 p119参照)
子どもは泣いたら、呼吸がしんどくなるのです。
さらに、子どもの泣き声は呼気音とかぶり、吸気は短くなり、呼吸音を聞くことは非常に困難となります。
繰り返しますが、子どもが泣いていいことなど一つもありません。
小児科の診察は、子どもを泣かせない工夫が必要です。
子どもを泣かせない工夫
子どもを泣かせないために、私が気を付けていることを列挙してみます。
笑顔で挨拶する
挨拶は子どもにとっても大事です。
優しく声をかけて、小児科医が子どもの味方であることを伝えます。
そして笑顔は子どもを安心させます。
デモンストレーション
いきなり服を脱がせて、聴診器を当てられたら、子どもはびっくりしてしまいます。
小児科外来に人形はありませんか?
できれば服を着ている人形がいいですね。
「今から説明するね」と人形でデモンストレーションをしてみましょう。
他に待っている患者さんが多くなければ、子どもに聴診器を貸して、お医者さんごっこをさせ、「じゃあ交代ね」と声をかけてから子どもの聴診を行ってもよいでしょう。
場合によっては服を脱がさない
「服を脱がせると泣く気がする」と直感的に感じるときがあります。
服を着たままの聴診は、低音域が聞こえにくいという弱点はあるものの、啼泣時の聴診に比べればはるかに情報量が多いです(小児内科 2017 vol49 p1277-1280)。
最初は服の上から聴診し、その後子どもに余裕を感じれば服を脱がせるという順番がおすすめです。
場合によっては背中だけ
人見知りな子どもは医師に背を向けていることも多いです。
お母さんにしがみついているケースもあるでしょう。
子どもの正面を医師の方向に向けたら、まず泣いてしまいます。
肺は背中にかけて広がっている臓器です。
とりあえず背中だけでも聴診できれば十分です。
無理に胸側の聴診をしようとして泣いてしまっては意味がありません。
耳を診たり喉を診たりするのは最後
多くの子どもは、喉を診られたら泣いてしまいます。
喉を見る前に、聴診器で呼吸の音を聞きましょう。
診察が終わったら褒める
「よく頑張ったね!」と子どもを褒めましょう。
次回はもっといい診察ができるようになるはずです。
それでも泣いてしまったら?
体の調子が悪いから病院に来ているわけで、調子が悪いときはたいてい不機嫌です。
どれだけ配慮しても、泣いてしまう子どもはいます。
こういうときは、啼泣時の特性を利用した聴診をします。
泣き声は呼気の前半に強く、呼気終末にかけて弱くなります。
そのため、呼気終末に出現するwheezesは啼泣時でも聴取できます。
また、泣いている子どもであっても、息を吸っているときには声が出ません。
吸気時のcracklesは聴診することが可能です。
呼気の終末から吸気にかけて、意識を集中させます。
そして呼気終末のwheezesと吸気時のcracklesに的を絞ります。
なお、wheezesやcracklesなど聴診所見についてはこちらの記事に書きました。
間違えやすい聴診所見:rattlesとsnoring
子どもの聴診は非常に繊細で技術を必要とします。
場合によっては十分な所見を取れないことも多いです。
この場合、ときどき誤解してしまう所見があります。
それがrattles(ラットルと読みます)とsnoring(いびき音ともいいます)です。
rattlesは咽頭に貯留した分泌物がゴロゴロとなる音です。
snoringは睡眠中に聞こえるいびきです。
これらは音の最強点が喉にあって、胸にはただ響いてくるだけ音です。
ですが泣いていて聴診に余裕がないときは、間違えてしまいます。
rattlesもsnoringも、胸部聴診所見としては不適切です。
間違えないように気を付けましょう。
まとめ
子どもの聴診は基本的な診察手技でありつつ、テクニックを要します。
ぜひ小児科研修中にマスターしてほしいです。