子どもの吸入。喘息治療管理料2とスペーサーを用いた吸入指導。

2017年12月16日、17日と横浜の総合アレルギー講習会に行ってきました。
喘息の子どもに対して、どのような吸入指導をすればいいかを学びました。

初めて知ったのは、喘息治療管理料2でスペーサーを保護者にお渡しできるという点です。

今回は、スペーサーを用いた吸入と喘息治療管理料2について書きます。

スペーサーを用いた吸入

喘息のお子さんに吸入させるとき、主に4通りの吸入方法があります。

  1. 吸入液を電動ネブライザーで霧状にして吸う方法。
  2. 粉タイプの薬剤を吸いこむ方法。
  3. スプレー式の薬をタイミング良く吸いこむ方法。
  4. スプレー式の薬をスペーサーという吸入補助具を使って吸う方法。

今回書きたいのは、4番目の「スプレー式の薬をスペーサーという吸入補助具を使って吸う方法」についてです。

スプレー式の薬というと、メプチンエアー、インタールエアロゾル、フルタイドエアー、キュバール、オルベスコ、アドエアエアゾールなどです。
こうして書いてみると、結構たくさん種類がありますね。

1番目と2番目の薬(ネブライザーで吸う薬と、粉タイプの薬)についても知りたいという方は、こちらの記事にまとめていますので、参考にしてください。

小児の気管支喘息に対する吸入デバイスの長所と短所まとめ。

2017年12月25日

スペーサーとは?

スペーサーとはスプレー式の吸入薬を上手く吸えるように補助する道具です。

この2つは両方ともマスク型ですが、口にくわえるタイプ(マウスピース型)のもあります。
これ以外にも様々なタイプのスペーサーがあります。

スペーサーは必要?

ここで、こういう疑問が浮かぶかもしれません。

「スプレー式の薬をタイミング良く吸いこめば、スペーサーはなくてもいいんじゃないですか?」

確かに、スペーサーはなくても吸入することはできます。

上の写真のオレンジ色のキャップを外して、口にくわえて、スプレーと同時に深くゆっくり吸いこめばいいのです。
先ほどのスペーサー付きの写真と比べて分かる通り、スペーサーがなければコンパクトで、持ち運びに便利です。

しかし、スプレーと同時に深くゆっくり吸いこむのは、とても難しいことです。
スペーサーがあれば、スプレーのタイミングと、呼吸のタイミングとが、ずれていても問題ありません。

小さな子どもにも確実に吸入ができるというのが、スペーサーの大きな利点です。

その他のスペーサーの利点

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017に記載されているスペーサーの利点を書きます。

  • スプレーされたミストの中の、大きな薬剤粒子がスペーサーにトラップされるため、ステロイド吸入による口腔内カンジダのリスクが減る

副作用低減のため、ある程度成長した子どもであっても、ステロイド吸入の場合はスペーサーの使用が推奨されています。(オルベスコに関してはプロドラッグであるため、スペーサーがなくても口腔内カンジダの可能性が低いという考え方もあります)

スペーサーの費用

これだけ便利なスペーサーなのですが、一般的には「購入」という形で保護者に買って頂くことになります。

値段は2000円-3000円くらいで、電動ネブライザーが1万円以上することを考えればお手頃ではあるのですが、それでも保険が効かずに実費になるというのは経済的に負担になります。

このスペーサーの費用を保険で償還できるようになったのが、喘息治療管理料2です。
これは平成28年4月から始まりました。

喘息治療管理料2とは?

診療報酬点数について、医事科のスタッフに相談してみました。
あの点数表を使いこなせるのは医事科だけだと思います。

喘息治療管理料2 280点

(中略)

別に厚生労働大臣が定める基準を満たす保険医療機関において、入院中の患者以外の喘息の患者(6歳未満又は65歳以上のものに限る)であって、吸入ステロイド薬を服用する際に吸入補助器具を必要とするものに 対して、吸入補助器具を用いた服薬指導等を行った場合に、初回に限り算定する。

(中略)

(2) 喘息治療管理料2は、6歳未満又は65歳以上の喘息の患者であって、吸入ステロイド 薬を服用する際に吸入補助器具を必要とするものに対して、吸入補助器具を患者に提供 し、服薬指導等を行った場合に、初回に限り算定する。指導に当たっては、吸入補助器 具の使用方法等について文書を用いた上で患者等に説明し、指導内容の要点を診療録に 記載する。なお、この場合において、吸入補助器具に係る費用は所定点数に含まれる。

(3) 喘息治療管理料を算定する場合、保険医療機関は、次の機械及び器具を備えていなければならない。ただし、これらの機械及び器具を備えた別の保険医療機関と常時連携体制をとっている場合には、その旨を患者に対して文書により説明する場合は、備えるべき機械及び器具はカ及びキで足りるものとする。

ア 酸素吸入設備
イ 気管内挿管又は気管切開の器具
ウ レスピレーター
エ 気道内分泌物吸引装置
オ 動脈血ガス分析装置(常時実施できる状態にあるもの)
カ スパイロメトリー用装置(常時実施できる状態にあるもの)
キ 胸部エックス線撮影装置(常時実施できる状態にあるもの)

要するに、「喘息の子どもに、保険診療として病院からスペーサーを渡すことができるよ。だけど条件がいくつかあるよ」ということです。

条件というのは、以下になります。

  • 6歳未満にしかできませんよ。
  • 指導内容をカルテに書いてね。
  • 人工呼吸管理ができる?できないんだったら、人工呼吸管理ができる施設としっかり提携してね。
  • スパイロメトリーとレントゲンくらいはできるよね。
  • 病院内は禁煙ですね?

「え、病院内禁煙なんて、どこにあるんですか?」

実はあるんです。
別に厚生労働大臣が定める基準を満たす保険医療機関、というところです。
「特定疾患治療管理料に規定する施設基準等」のページにこうあります。

喘息治療管理料に規定する基準

当該保険医療機関の屋内において喫煙が禁止されていること。

ここまで条件を満たして、喘息治療管理料2を取ることができます。
スパイロメトリーとレントゲンを設置さえしていれば、診療所でも基準を満たせそうです。
280点ですから、2800円までのスペーサーなら、病院負担とならずに患者さんにお渡しできます。

まとめ

吸入におけるスペーサーの利点と、それを保険でお渡しするための喘息治療管理料2について書きました。

私が勤めている兵庫県立柏原病院は、喘息治療管理料2の条件を満たしています。
ただ、適切なスペーサーを院内に備蓄していませんので、患者さんにスペーサーをお渡しすることができません。

お子さんの年齢によって、特に1歳から6歳くらいまでのお子さんにとっては、スペーサーの需要は高いと私は認識しています。
よりよい治療選択肢を提供できるようにしたいです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。