アナフィラキシーは、小児科医がよく遭遇する救急疾患です。
熱性けいれんと並んで、とてもありふれています。
私は食物経口負荷試験を多く行っているので、アナフィラキシーは(残念なことに)よく診ます。
食物経口負荷試験とは、アレルギーかもしれない食べ物をわざと食べさせることで、本当にアレルギーなのかどうかや、アレルギーだとしたらどれくらいの量なら食べられるのかを評価する試験です。
安全には十分配慮しますが、それでも全身にアレルギー症状を起きることはあります。
アナフィラキシーの対応が多いため、必然的にアナフィラキシーについて詳しくなります。
今回はアナフィラキシーの中でも重篤な「アナフィラキシーショック」についてと、その治療薬であるエピペンについて書きます。
このページの目次です。
アナフィラキシーの診断基準
アナフィラキシーとは、「全身にアレルギー症状が出ること」です。
じんましんが出ただけ、というのはアレルギー症状ではありますが、全身性ではないのでアナフィラキシーとは言いません。
「全身にじんましんが出た場合はアナフィラキシーと言いますか?」
少しややこしいですが、全身にじんましんが出ても、症状が皮膚だけであれば、それは「皮膚に限局した症状」と判断され、全身性とは言いません。
皮膚症状に加え、息が苦しくなるような呼吸器症状や、お腹が痛くなったり吐いたりするような消化器症状、意識を失ったりするような循環器症状など、複数の臓器の異常があって「全身性」と評価されます。
アナフィラキシーの診断基準については、日本アレルギー学会が公開している「アナフィラキシーガイドライン」が分かりやすいです。
全28ページで、図が多く、どなたでも読めるようにしてあります。
ガイドラインによると、アナフィラキシーの診断基準は3つあります。
- 皮膚・粘膜症状に加え、呼吸器症状または循環器症状がある。
- 一般的にアレルゲンとなりうるものに暴露したあと、皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状、循環器症状のうち2つ以上認める。
- すでにアレルギーと分かっているものに触れて、循環器症状を認める。
皮膚・粘膜症状とは、じんましんや口の中が腫れることです。
呼吸器症状とは、呼吸困難や激しい咳です。
循環器症状とは、意識を失うことです。
消化器症状とは、嘔吐や腹痛です。
私がよく実施している経口負荷試験というのは、アレルゲンとなりうるものを子どもに食べさせる試験です。
上記の②の「一般的にアレルゲンとなりうるものに暴露したあと」という条件は、必ず満たしています。
したがって、私がよく診断するアナフィラキシーは②です。
経口負荷試験の最中でなくても、アナフィラキシーで救急受診した子どものほとんどが、何かアレルゲンとなりうるものに暴露していることが多いです。
3つの診断基準全てを覚えると混乱してしまうのであれば、「②一般的にアレルゲンとなりうるものに暴露したあと、皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状、循環器症状のうち2つ以上認める」という基準だけ覚えておけば大抵なんとかなります。
なお、②の基準にある皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状、循環器症状のうち、どの組み合わせが最も多いでしょうか。
私がもっとも経験するのは、「じんましん+激しい咳と喘鳴」の組み合わせです。
アナフィラキシーガイドラインにも「皮膚・粘膜症状はアナフィラキシー患者の80-90%、呼吸器症状は70%、消化器症状は45%、循環器症状は45%」と書いてあります。
アナフィラキシーの多くが「じんましん+激しい咳と喘鳴」であるという私の経験は、ガイドライン的にも正しいようです。
アナフィラキシーショックの診断基準
アナフィラキシーショックというのは何でしょうか。
「アナフィラキシーにショックが合併したってことですよね」
単純ですが、まさにその通りです。
アナフィラキシーショックとは、上記のアナフィラキシーに加え、血圧低下や意識障害をきたすことを指します。
アナフィラキシーの診断基準の③は循環器症状が必須であるので、同時にアナフィラキシーショックの診断基準を満たします。
①や②で診断した場合も、循環器症状がある場合はアナフィラキシーショックです。
ちなみに、ショックについてはPALSという子どもの二次救命処置でも学びます。
全身性のアレルギー反応の結果、血管が拡張してしまい、脳に血流が届かなくなります。
脳は血流不足の結果、酸素不足になります。
これがショックです。
PALSに従った対応をすると、ショックでは代償性か低血圧性かを考えることになります。
それを判断するためには、CRT(毛細血管再充満時間)が大切です。
ですが、アナフィラキシーショックは後負荷が減少しているためCRTは保たれていることが(私の経験上は)多いです。
「CRTが」とか「代償性ショックが」とか言っているうちに、低血圧性ショックになっています。
ですので、アナフィラキシーガイドラインにあるように、意識障害や血圧で判断するのがアナフィラキシーの場合は実践的だと考えます。
アナフィラキシーの頻度
ガイドラインによると、小学生の0.6%、中学生の0.4%、高校生の0.3%がアナフィラキシーの既往があるとのことです。
「アナフィラキシーの既往」は死亡しない限り累積していくので、年齢が上がるほど確率も増えそうなものですが、減っていくのは不思議なデータです。
もちろんアナフィラキシーによる死亡者は0ではありません。
毎年60人前後の人がアナフィラキシーで亡くなっています。
そのうちの約4割が医薬品によるアナフィラキシー、約3割がハチによるアナフィラキシーです。
ハチのアレルギーはこちらに書きました。
食物アレルギーによる死亡は年間2-5人程度です。
ハチに比べて少ないものの、食物アレルギーで死んでしまう人はいるという認識は持っておくべきだと私は思います。
ですので、アナフィラキシー症状が出たら、すぐに対策をとらなければなりません。
アナフィラキシーの治療
アナフィラキシーを起こしたらすぐに病院を受診します。
症状が急激に進行する場合は、救急車を呼ぶべきでしょう。
救急隊が到着するまでにできることは、それほど多くはありません。
- 仰向けに寝かせて、足を30cmほど高くする。
- エピペンを注射する。
エピペンはすべての子どもが持っているわけではありません。
エピペンを携帯する指標は、以下のようなものがあります。
- 微量のアレルゲンでアナフィラキシーを誘発する。
- ショックを誘発させやすい食品がアレルゲンである。(ピーナッツ、ナッツ、魚介、牛乳、ソバ、卵、小麦)
- アナフィラキシーを繰り返す。
- 喘息を合併している。
- ハチ毒に対するIgE抗体がある。
- 受診できる医療機関が遠い。
卵アレルギーだというだけで「エピペンを持っておくべきです」とはなりません。
上記の指標を複合的に考えて、主治医と保護者と本人が相談した上でエピペンを持つべきかが決まります。
エピペンのタイミング
以下の症状のうち一つがあれば、エピペンを注射してください。
- 繰り返し吐き続ける。
- 持続する強い腹痛。
- のどや胸が締め付けられる。
- 声がかすれる。
- 犬が吠えるような咳。
- 持続する強い咳き込み。
- ぜーぜーする呼吸。
- 息がしにくい。
- 唇や爪が青白い。
- 脈を触れにくい・不規則。
- 意識がもうろうとしている。
- ぐったりしている。
- 尿や便を漏らす。
なお、学校の先生や救急救命士がエピペンを使用しても、医師法には違反しません。
ですが、いざエピペンを打つというのは勇気がいります。
特に学校の先生は、注射を打つという経験をしたことがないでしょうから、余計に勇気が必要でしょう。
それでも、上記の症状を認めたときは、勇気を持ってエピペンを使ってください。
食物アレルギーの子どもは、症状が出たときの頓服として抗ヒスタミン薬やステロイド薬を持っていることがあります。
ですが、抗ヒスタミン薬はじんましんには効きますが呼吸器症状には無効です。
ステロイドも効くのに数時間かかります。
エピペンを持っている子どもが上記の症状を認めた場合、とにかくまずはエピペンを使いましょう。
これは、救急外来でアナフィラキシーの対応をする小児科医にも言えることです。
喘鳴に対してアドレナリン吸入は有効かもしれませんが、抗ヒスタミン薬やステロイドが呼吸困難を取り除くことはないでしょう。
アナフィラキシーのグレード3であるなら、ポララミンの点滴に躍起になる前に、アドレナリン筋注をしましょう。
エピペンを注射する部位
太ももの前外側です。
これは「外側広筋」という筋肉を狙っています。
この筋肉の中心に注射しましょう。
図が必要であればwikipediaを参照してください。
太ももの前面にあるのは「大腿直筋」という筋肉で、その外側にあるのが「外側広筋」です。
この筋肉は、エピペンやアドレナリン注射以外にも、シナジス注射にも使いますし、今後日本でも予防接種は筋肉注射が主体になる可能性がありますので、「外側広筋」はしっかり覚えておきましょう。
まとめ
日本アレルギー学会のガイドラインに準じて、アナフィラキシー、アナフィラキシーショックの診断基準を書きました。
また、併せてエピペンの使い方も書きました。
エピペンのことを書きながら、アレルギー疾患は学校や保育園との連携がとても大切だとあらためて感じました。
ちなみに余談ですが、この記事の冒頭の写真について。
これはエピペンを使っているところです。
エピペンはズボンの上から使っても大丈夫です。
ですが、使う前に上部の青いキャップを外さなければなりません。
ですから、上記の写真は「エピペン失敗あるある」の一つです。
注意してください。
エピペンを使う機会はめったにありませんが、めったに使わないからこそ普段からの練習が大切です。
エピペンには練習用キットがついていますので、必ず練習しておきましょう。