今回の投稿で100記事になります。
記念すべき100記事は、小児救急の基本である「ショック」について考えてみます。
ショックとは何か
ショックとは何でしょう。
- でんきショック
ピカチュウやメリープといえば、でんきショックです。
ポケモンの序盤でお世話になる技です。
電気的な衝撃で、麻痺させることもあります。 - ショックガン
ドラえもんのひみつ道具です。
殺傷力はないものの、衝撃で気絶させる効果はあるようです。 - クイズ・タイムショック
回答者が結果によってぐるぐる回る演出は、衝撃的です。 - 「ガーン」という擬態語
精神的な衝撃です。
これもショックでしょう。
日常的に使われるショックとは「衝撃」という意味です。
医学的にも「衝撃」という意味でショックは使われます。
電気的除細動によるショックです。
除細動ショックは、まさに心臓に「衝撃」を与える処置です。
心停止において、心室細動や無脈性の心室頻拍で非同期でのショックが適応になります。
(PALSという小児救急のガイドラインによると、小児の心停止の27%が経過中にショックの適応となるようです)
なお、脈拍のある場合でも治療抵抗性の上室性頻拍や、循環不良の伴う心室性頻拍でも同期化の電気ショックがなされます。
ここまで紹介したショックはすべて「衝撃」でした。
ですが、「衝撃」とは違う意味合いで使われるショックが救急用語にあります。
たとえば、アナフィラキシーショックという言葉を聞いたことがありませんか?
他にも出血性ショック、敗血症性ショックなど、様々なショックがあります。
これらのショックは、「衝撃」という意味合いを持ち合わせていません。
ショックとは何でしょうか。
ショックの定義
PALSガイドラインには以下の記載があります。
ショックとは、組織の代謝需要と比較して酸素と栄養の供給が不十分なことから生じる危機的な状態である。多くの場合、末梢および終末臓器の循環不良が特徴だが、常に認められるとは限らない。ショックそのものの定義は、血圧測定値とは無関係である。収縮期血圧が正常でも、上昇していても、低下していても、ショックの可能性がある。
PALSプロバイダーマニュアル
これがショックです。
もう少しかみ砕いて、説明します。
「組織」という言葉が出てきますが、救急において一番守るべき組織は「脳」です。
また「酸素と栄養の供給」とありますが、救急においてまずは大事なのは「酸素」です。
したがって、「ショックとは脳に必要な酸素が届かない状態である」と一言で言いかえてしまっても支障がありません。
ショックの原因
脳に必要な酸素が届かない状態とは、どういうときに起きるでしょうか。
PALSガイドラインでは3つの因子に左右されるとあります。
- 血液中の酸素含量が十分であること。
- 心拍出量が十分であること。
- 組織への血流分布が適切であること。
1つずつ細かく見ていきます。
血液中の酸素含量
血液中の酸素含量はヘモグロビンの酸素飽和度とヘモグロビン濃度で決まります。
ヘモグロビンは酸素を運搬します。
肺炎や細気管支炎、喘息発作などは適切な呼吸ができなくなります。
こうなると、ヘモグロビンにくっついている酸素の量が減ります。
また、呼吸は適切でも、貧血が強くて、血液中のヘモグロビンが少ないと、運ばれる酸素量も少なくなります。
うまく呼吸ができなかったり、呼吸はできていてもヘモグロビンが少なかったりすると、脳が低酸素になってしまいます。
これはすなわちショックです。
心拍出量
心拍出量とは、前負荷と心筋収縮力と後負荷で決まります。
前負荷は水道の蛇口、心筋収縮力は蛇口につながれたポンプ、後負荷はポンプにつながれたホースというイメージを持つといいかもしれません。
前負荷とは心臓に帰ってくる血液量です。
前負荷は蛇口のイメージです。
立派なポンプがあっても、蛇口が少ししか開かれなければ、水を勢いよく出すことはできません。
強い脱水や、出血があると、血管の中がカラカラになって、心臓に血液が帰ってきません。
また、血液量が多くても敗血症やアナフィラキシー、交通外傷による神経原性ショックになると、血管が拡張してしまい、血液が静脈の中で止まってしまいます。
この場合も心臓に血液が帰ってきません。
心筋収縮力とは心臓のポンプとしての力です。
心筋炎や不整脈で心臓のポンプ機能が失われることがあります。
ポンプの力が弱くなれば、いくら蛇口が開かれても、ポンプの中に水がたまるだけで、勢いよく水が出せません。
最後に後負荷です。
後負荷とは、心室が収縮したときに受ける抵抗です。
抵抗なんてないほうがいいと思われるかもしれませんが、抵抗はあったほうがいいこともあります。
ホースで水を撒くときに、ホースの口を絞めて細くすると、勢いよく水が出ます。
抵抗を強めることで、水は勢いを増します。
ですが、あまりにホースを絞め過ぎたら、ポンプに圧力がかかって、ポンプが壊れてしまうかもしれません。
適切な高負荷はショックに対する代償として機能しますが、強すぎる後負荷は、ポンプ能を低下させ、いわゆる心原性ショックに至る可能性があります。
その他
体の酸素需要が大きく増えると、酸素がどんどん消費され、脳に必要な酸素が届かなくなります。
たとえばけいれんです。
けいれん中は体に大きく力が入り、酸素が消費されます。
また呼吸努力酸素を消費する原因です。
けいれんを止めてあげること、必要であれば人工呼吸をすることも、ショックの治療になります。
ショックの判定
血圧が下がっていれば、まずショックです。
これを「低血圧性ショック」といいます。
ですが、血圧が正常なショックもあります。
前負荷や心収縮能は低下しているのに、後負荷を高めることでなんとか代償している状態があります。
後負荷を上昇させることでなんとか血圧を維持できている状態を「代償性ショック」といいますが、この状態で数時間も経過すれば「低血圧性ショック」に至ります。
代償性ショックと判定するのに有効なのは毛細血管再充満時間です。
指先の爪をぎゅっと押さえて、ぱっと離します。
爪の色が何秒で元に戻るかを見ます。
2秒以上かかるなら、後負荷が高いことを示します。
つまり血圧が正常でも、毛細血管再充満時間が2秒以上なら、ショックです。
ただし、敗血症性ショックやアナフィラキシーショック、神経原性ショックなどは後負荷が減少するため、毛細血管再充満時間が正常のこともあります。
結果として、低血圧を認めるまでショックに気づかないこともあります。
ショックの治療
脳にしっかり酸素を届けてあげることがショックの治療です。
したがって、酸素投与はショックの治療の基本です。
加えて、小児のショックの多くが脱水やアナフィラキシーなどによる前負荷不足が原因です。
しっかり点滴し、循環血漿量を増やすこともショックの治療となります。
足を挙げる姿勢は、脳の血流を増やしますので、ショックにおいて有効です。
いっぽうで、心収縮能力が心原性ショックでは、いくら輸液しても効果は限局的です。
心臓のポンプ能を回復させなければなりません。
不整脈が原因である場合、PALSガイドラインには以下のアルゴリズムがあります。
- 脈拍はあるが循環不良な徐脈アルゴリズム
- 脈拍はあるが循環不良な頻拍アルゴリズム
アトロピンやアドレナリン、アデノシン、場合によっては同期電気ショックが必要になります。
心筋炎によるショックは非常に管理が難しく、一概には言えません。
PALSガイドラインにも詳細は書かれていません。
ミルリノンで血管拡張させ、後負荷を減らすと、心臓は楽になるかもしれません。
ドブタミンは血圧上昇に役立つかもしれません。
酸素需要を減らすために人工呼吸で呼吸努力を減らすのも有効でしょう。
閉塞性ショックと呼ばれる緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症、動脈管依存性などは疾患特異的治療が必要です。
まとめ
ショックについて書きました。
ロタウイルス腸炎によるショックは私も何度か経験しています。
ショック状態は迅速に判定し、速やかに介入しなければ、心停止に至ります。
小児が心停止に至った場合の転帰は不良です。
兵庫県立柏原病院には救急科がありますが、子どもの救急に関しては小児科が担当します。
近隣に大きな三次病院がないことを考えると、心停止に至った場合の転帰は言うまでもありません。
ショック状態での迅速な治療が、さらに望まれる地域だと言えるでしょう。
PALSのインストラクターも取りたいと柏原にきてから強く思うようになりました。
ちなみに、北斗の拳の「YouはShock」は、「鼓動早くなる」など循環不良を示唆させる表現が歌詞にみられます。
もしかしたら、「YouはShock」は救急用語のショックなのかもしれません。