松野莉奈さんが18歳の若さで突然死しました。
小児科医は「命が生まれる瞬間」にはよく立ち会います。
ですが「命が消える瞬間」は比較的遭遇しにくいです。
子どもは生命力が強く、高齢者を多く診る内科医、外科医に比べて「死」に触れる機会が少ないのです。
それでも、乳幼児突然死症候群や溺水、心室細動をはじめとした、元気な子どもが突然命を失うという経験をしないわけではありません。
突然死に直面したときに小児科医がどのような行動をとるかは、こちらの記事に書きました。
この記事は、小児科診療2016年11月号の「学校における事故・災害の実態と防止対策」のテキストを参考にしています。
突然死の定義
世界保健機構(WHO)では、発症から24時間以内の予期せぬ内因性(疾病による)死亡と定義しています。
通常は発症から24時間以内に死亡したものとしますが、意識不明のまま発症から回復なく期間を経て死亡に至ったものも含みます。
交通事故や溺水、熱中症、窒息などは外因性ですので、突然死には含みません。
突然死する時間帯
突然死は学校で起きるケースと、学校の外で起きるケースがあります。
ここでいう学校とは、小学校・中学校・高校を指します。
松野莉奈さんは、学校の外で起きたケースです。
学校管理外の突然死
子どもの突然死の80%が学校管理外と推測されます。
(AED普及前のデータですので、実際はもっと多いかもしれません)
少し古い情報ですが、田崎先生が1992年に小児内科で「非学校管理下での突然死は、学校管理下の突然死の約4倍である」と報告しています。
平日であっても、学校で過ごす時間は1日の1/3程度であることや、多くの児童が土日は学校に行かないことを考えますと、18歳以下が学校の外で過ごす時間は、学校で過ごす時間の約4倍でしょう。
田崎先生の報告と照らし合わせて考えれば、突然死は学校でも学校の外でも等しく起きえると考えるべきでしょう。
学校の外での突然死については十分なデータがありません。
学校の外では、目撃者のいない死亡があるため、データの収集が難しいためです。
学校管理外の時間帯における突然死については、日本救急医学会と消防庁が中心となって、ウツタイン様式と呼ばれる国際的なフォーマットに沿って情報収集されています。
今後、子どもの突然死の実態解明に繋がると期待されます。
学校管理下の突然死
子どもの突然死の20%は学校で起きています。
(AED普及前のデータですので、実際はもっと少ないかもしれません)
学校管理下の突然死については、日本スポーツ振興センター(Japan Sports Council)学校保安部が管轄する学校災害事故災害共済給付制度への報告をもとにした分析があります。
これは、日本の全児童の99%が登録されているため、ほぼ全部の突然死を状況調査できています。
学校では子どもが一人でいるということはありません。
クラスメートや教師など、常に誰かがそばにいると考えられます。
したがって、その突然死には目撃者がいます。
目撃者がいることも、正確な情報となります。
突然死のほぼ全てを網羅し、情報も正確であるため、突然死の病態解明は、現時点は「学校管理下」の情報が主導しています。
したがって、以降の情報は「学校管理下」の情報となります。
学校の外で起きた突然死にはそのまま適応できないかもしれませんが、十分参考にはなるはずです。
突然死の発生数
1980年代の学校での死亡は年間約250人で、そのうち突然死(事故ではなく、病気であるもの)は年間約120人でした。
2005年以降は死亡が年間約75人、そのうち突然死は約40人と減少しています。
2010年以降は、1980年代に比べ、心臓系突然死は1/4になっています。
突然死が減っている原因は、AEDの普及と、学校の先生が蘇生のトレーニングをしっかり積んでくれている結果でしょう。
少子化の影響も多少はありますが、学校の突然死が減ってきているのはとても喜ばしいことです。
突然死の原因
1983年から2006年までは、心臓系突然死は突然死全体の約80%を占めています。
2005年に学校の先生でもAEDが使えるようになって、心臓系突然死の頻度は下がりました。
それでも、2007年から2013年において、心臓系突然死は突然死全体の約60%を占めています。
小学生、中学生、高校生の突然死の原因は、現在も心臓疾患によるものがメインです。
学校でAEDが使用された心臓疾患のうち、原因が究明できたものの内訳は、次の通りです。
- 心室細動(42%)
- 心筋症(19%)
- 先天奇形(8%)
- 冠動脈異常(7%)
- QT延長症候群(5%)
- 心臓震盪(4%)
- 心筋炎(4%)
- 大動脈解離(4%)
- その他の不整脈(3%)
- WPW症候群(1%)
- 心筋梗塞(1%)
心臓震盪は外傷が原因でしょうから、厳密には突然死の定義に入りません。
ですが、ここではAEDが使われたデータとして、ここの挙げます。
上記の中で、致死性不整脈と呼ばれるのは心室細動、QT延長症候群と、WPW症候群と、その他の不整脈でしょう。
その割合はAEDが使われた全ケースの51%です。
この不整脈による命の危機は、AEDに比較的反応します。
68%のケース(107人中73人)が、AEDが成功し、蘇生されています。
ですが、夜間の目撃者がいない状況であれば、AEDがすぐに使用できません。
発見が遅れ、死亡してしまう可能性が高くなります。
心臓疾患以外の突然死の原因としては、以下があります。
- 脳内出血
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- てんかん発作
このうち多くが脳内出血とくも膜下出血です。
まとめ
- 学校管理下での突然死はデータが集積されている一方で、学校の外での突然死は十分なデータがありません。
- 学校での突然死は、AEDが普及した現在でも60%が心臓疾患です。
- 学校でAEDが使用されたケースの半分以上が致死性不整脈です。
- 致死性不整脈はAEDで68%が蘇生されます。
以上のデータから、学校の外で、目撃者がいない状況で突然死したというケースであれば、致死性不整脈がもっとも頻度が高いと推測できます。
致死性不整脈の中で、もっとも重要といっても過言でないのはQT延長症候群です。
AEDが施行されたのは上記で5%と書きましたが、実際はQT延長から心室細動に至って、心室細動と診断されたケースもあるはずです。
QT延長症候群による突然死は多いと考えます。
QT延長症候群については、こちらの記事を参考にしてください。
現在、小学1年、中学1年、高校1年で心臓健診が実施されています。
健診による危険予測と、発症時の救命措置の両方向から、児童生徒の突然死をなくしていかなければなりません。