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所見の賞味期限
瞬間的に表れて、すぐに消えてしまうという所見があります。
たとえば肺炎で入院している子どもがいます。
朝に皮下気腫を起こしていて、肩からのどにかけて「握雪感」という押すとぎゅっぎゅっと音がする所見がありました。
子どもの回復力は高く、夕方には皮下気腫が治っていて握雪感がなくなっていることを多々経験します。
子どもの所見は目まぐるしく変化し、所見は表れてはすぐ消えます。
来院している短い時間でしか診察ができない外来患者さんは言うまでもありませんが、1日中病室にいる入院患者であっても所見はすぐに消えてしまって捉えられないことがよくあるものです。
病棟の看護師から「肩に握雪感があります」と報告があっても、救急対応中などですぐに病棟に行けない時があります。
ついつい後回しにして、ようやく病棟にたどり着いたときには所見が消えているのです。
所見はすぐに賞味期限が切れてしまう生ものと考えるべきです。
報告があったときはすぐに診察しないと、重要な所見を見逃してしまいます。
所見は足で集める
永大産業の創業者、深尾茂氏は「頭を使って知恵を出せ!知恵の出せない者は汗を出せ!知恵も汗も出せない者は静かに去れ!」と言ったそうです。
それに対して松下幸之助は「まずは汗を出せ!汗の中から知恵を出せ!それが出来ぬ者は去れ!」と言ったようです。
知恵を出すのが先か、汗をかくのが先か、なかなか難しいです。
必死にひねり出す知恵もあれば、天啓のごとく頭にひらめく知恵もあるからです。
ですが、やはり医者の世界も汗をかくのが先だと私は思います。
一般外来に、救急外来に、病棟に、手術室に、とにかく走り回る。
汗をかいて、いろんな経験をして、そしてそれが知識と結びついて一人前の医者になるんだと思います。
私が医者になりたての頃、指導医から「研修医は足で稼げ」と言われました。
確かに大学研修医の仕事は検体運びや薬剤運びなどいわゆる「運び屋」の仕事もあり、足で稼げというのはこういうことなのかと思ったものでした。
ですが、「足で稼げ」の本当の意味は「入院患者の元に足しげく通って、所見を見逃さないように」ということなのでしょう。
まとめ
- 所見には賞味期限があります。すぐ見つけないと消えてしまいます。
- 所見は足で集めましょう。走って、汗をかいて、そして知るのです。
医者が医療の頭脳であるべきなのは間違いないと思います。
ですが、頭でっかちになってしまって、椅子から一歩も動かずにただ電子カルテに向かっているだけでは、私は名医になれないと思います。
本当の名医は、いろいろな現場に居合わせる先生です。
偶然居合わせるのではなく、フットワークを使って、汗をかいて、その場に居合わせるのが、名医です。