医者は本当に多忙なのか?勤務医の一日を徹底解剖。

外来担当表の疑問

病院のホームページをみると、外来の診察担当表というのがたいてい書いてあります。
月曜日の午前の1診は○○先生で、2診は□□先生で……という具合です。
たとえば小児科医が5人いる病院ですと、外来をしている医師は午前2人、午後2人ということが多いです。

この診察担当表を見ていると、「午前中に2人の先生は外来をしているけれど、残りの3人の先生は一体何をしているんだろう」とか、「午前・午後で4人の先生が外来しているけれど、残りの1人はこの日いったい何の仕事をしているんだろう」と思うことはありませんか?

外来以外の仕事

医師には、外来以外の仕事がたくさんあります。

「手術とかでしょ? でも小児科は手術してないじゃないですか」

と思われたなら、まさにその通りで、外科の先生の大変さと比べたらずいぶん楽なのですが、それでも小児科医にもいろいろ仕事があります。

  • 病棟に入院している子どもの処置。
  • 産科で生まれた赤ちゃんの対応。
  • 救急車の対応。
  • 近隣の産科で生まれた赤ちゃんの対応。

それぞれを詳しくみていきます。

病棟に入院している子どもの処置

入院患者さんの状態を判断し、検査したり、治療方針を変更したりします。
外来をしていない医師は、主に入院患者さんを診ています。

子どもは症状が変化しやすいです。
細菌性肺炎の子どもに対し、朝に抗生剤を投与したら、夕方には元気になっているということもよく経験されます。
重症な喘息に対して、朝はぜーぜーとした喘鳴が強かったのに、ステロイドによく反応して夕方は元気そうということもあります。

症状が変化しやすいというのは、治療によく反応するという意味であり、その点ではとてもやりがいを感じます。
一方で、症状が変化しやすいというのは、急変しやすいという意味でもあるということを肝に銘じて、必要なときはベッドサイドに繰り返し訪れて、子どもの状態をチェックしなければなりません。

病棟の小児科医は、入院している子どもの状態変化をしっかり見極めるという仕事をしています。

また、外来をしている先生から「今外来で診ている人、しんどそうだから入院にします。続きを診察してくれますか?」と新入院患者を割り当てられることもあります。
そのときは、検査や治療のスケジュールを組み立てなければなりません。

産科で生まれた赤ちゃんの対応

病院に産科がある場合、生まれる赤ちゃんが元気な場合はそのまま産科がみますが、少ししんどそうな場合は小児科が診ます。
しんどうそうな赤ちゃんというのは、呼吸がしんどそう、ミルクが24時間たっても飲めない、たくさん吐いてしまうまたは吐いたものの中に血や胆汁が混じっている、元気がない、奇形がある、心雑音があるなどです。

元気であっても、お母さんが何か病気があって、赤ちゃんに影響をおよぼす可能性があうときは、小児科医が赤ちゃんをチェックします。

お腹の中の赤ちゃんがしんどそうで、緊急帝王切開になった場合、小児科医も立ち会います。
生まれた子どもをすぐに助けてあげるのが、小児科医の役目です。

とてもしんどそうな場合は、NICUという新生児の集中治療室に入院させます。NICUがない病院であれば、NICUがある病院まで赤ちゃんを搬送するという仕事もあります。
(NICUがある病院が迎えに来てくれることも多いです)

救急車の対応

熱性けいれんや重症な喘息、アナフィラキシーショックなどで救急車がやってきます。
救急対応をするのも、外来をしていない医師の仕事です。

近隣の産科で生まれた赤ちゃんの対応

NICUがある病院であれば、近隣の産科で生まれた赤ちゃんがしんどい場合、赤ちゃんを往診に出かけます。
やはりしんどい場合は、赤ちゃんを連れて帰ってNICUに入院させます。

研究と学会発表

入院患者さんも落ち着いていて、救急車が来ず、産科の赤ちゃんも元気というときもあります。
そういうとき、医師は何をしているのでしょうか。

  • 退院サマリーを書く。
  • 患者さんが提出する書類の医師意見書を書く。
  • 研究する。
  • 学会発表用のスライドを作る。
  • 教科書を読む。
  • 論文を読む。
  • 論文を書く。
  • コーヒーを飲みながら英気を養う。

退院サマリーは患者さんが退院したら2週間以内に書かなければなりません。
あまり時間があいても記憶は薄れますので、1週間以内には書きたいところです。
サマリーを書くことで、自分が行った医療を振り返り、正しかったのか、もっといい方法がなかったのかを考えます。
もちろん、サマリーはその患者さんがまた入院したときに前回の経過を表す重要な情報となるわけですが、自分が成長するためにも、退院サマリーを書くことは大切です。

医師意見書を書かなければならない書類は多いです。
患者さんが保険に入っている場合には書類が必要になることがありますし、登校許可証など小児科特有の書類もあります。

研究とは、マウスを使って実験して……ということは、一部の大学病院を除いてありません。
過去に入院した患者さんのデータを集めて、新しい発見がないかを吟味することが基本的な研究デザイン(これを後ろ向きの研究といいます)です。

研究は希望の光です。
研究なくして医療の発展はありません。
医療を発展させることも、医師の仕事の一つです。

研究により面白い結果が出たとき、学会発表したり論文にしたりします。
その過程で、教科書を読んだり他の論文を読んだりします。
勉強したことは、実際の子どもを診るうえでも役に立ちますので、研究をすることで医師の臨床能力が上がることもあります。

医師は本当に多忙なのか

私は医師以外の仕事をしたことがないので、比較ができませんが、以上の勤務内容だけだとそれほど多忙ではないと考えられるでしょう。

医者が多忙とされる理由は、おそらく当直があるからです。
当直があると「よく働いたなあ」と実感します。

当直がある日のスケジュール

午前8時

病棟の子どもを回診し、夜間に何かなかったかを確認します。

午前8時30分

カンファレンスで、入院患者さんの治療方針を決めます。

午前9時

治療方針にしたがって、入院患者さんの検査をしたり、オーダーを変更したりします。

午後0時

外来から入院患者さんを割り当てられます。
治療計画を立てます。

午後2時

午後の外来が始まります。

午後5時

病棟の回診をし、カルテを書きます。
この時間以降、当直勤務となります。

午後5時~翌午前8時

近隣の開業医から重症な子どもの紹介を受けます。
生まれる赤ちゃんがしんどそうだと呼ばれます。
NICUに入院させることもあります。
病棟の子どもに急変があれば呼ばれます。
救急車を受けます。

翌午前8時

当直勤務が終わり、通常業務が始まります。
病棟の患者さんを回診し、カンファレンスに備えます。
以降、1日目と同じ一日を繰り返します。

翌午後5時

勤務終了です。
カルテを書いて、明日の外来の準備が終われば帰れます。
なお、翌日はお休みではありません。

こういう当直を月に6回ほどしています。
多忙かどうかは、夜にどれだけ眠れるかによります。
忙しくて一睡もできないと、当直明けの朝日がとてもまぶしく見えて、「生きてる」ということを実感させられます。

まとめ

外来をしていない医師にも仕事はいろいろあります。
医師の当直は確かに忙しいかもしれません。
ですがメリハリもあって、やりがいもあるので、苦痛ではありません。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。