唐突にやってくる救急疾患
飛行機内で「お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか?」というアナウンスが流れる状況は、ドラマの中だけだろうと私は思っていました。
しかし、私の同僚にはこういうシチュエーションに遭遇したものが何人かいます。
私も、百貨店で買い物している女性が目の前で突然倒れたという状況をつい最近遭遇しました。
唐突にやってくる救急疾患。
そしてその場に偶然居合わせた自分。
これこそ、医者としてのプロフェッショナリズムを試される瞬間です。
小児科医がおとなを診てもいいのか
ここでさっと手を挙げ「私は小児科医です」と言うのは、とても勇気がいります。
倒れているのが子どもであれば、すべての小児科医が手を挙げるでしょうが、おとなの場合は手を挙げにくいものです。
おとなは専門外なので鑑別すべき疾患もすぐに出てこないし、万が一にでも処置しようとして責任でも取らされたら……というネガティブな考えが脳裏をよぎります。
こういうのは、病棟でも唐突に起きえます。
「コードブルー、7階病棟」
こんなアナウンスが、時々病棟に流れます。
コードブルーとは、「緊急事態発生、ただちに医療スタッフは全員集合!」という意味です。
でも、「7階病棟って確か外科病棟だったな……。小児科の自分が行っても、役に立たないんじゃないかな」という気持ちが先だって、階段を駆け上がる速度が鈍りそうになります。
医者のプロフェッショナリズム
それでも、真っ先に駆けつけるのが医者のプロフェッショナリズムです。
飛行機で「お客様の中にお医者様は……」とアナウンスされたのなら、真っ先に手を挙げるのがプロの医者です。
たとえ専門外であろうと、自動車免許を取るときに少しだけAEDの使い方を学んだ一般の人より、小児科医のほうが絶対に役立ちます。
脈をとり、呼吸を確認し、意識があれば回復体位を取らせるだけでもいいです。
または明らかな意識がなければ、とりあえず胸骨圧迫してみてもよいでしょう。
小児科医は小児二次救命処置法(通称PALS)という子どもに特化した救急対応能力を持っていますが、PALSと同じ要領でおとなを診たとしても大きく外れた対応にはなりません。
私は、誇りを持って「私は小児科医です」と叫びます。