タミフルが1歳未満で使用可能に!臨床現場で何が変わる?

インフルエンザの薬にはタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタがあります。
タミフルは飲み薬、リレンザとイナビルは吸入薬、ラピアクタは点滴薬です。
それぞれに特徴があることは以前の記事に書きました。

インフルエンザに効く5つの治療薬とその特徴。

2017年1月6日

1歳未満のインフルエンザの問題点

1歳未満のインフルエンザに対しては、ラピアクタしか使えないという状況が長く続いていました。
ラピアクタは点滴薬であり、水分も取れないくらいに全身状態が悪いインフルエンザ患者さんにはとても有用な薬です。
ですが、点滴でなければ投与できないので、投与したければ血管を確保しなければいけません。
処置に時間がかかるため、忙しい診療所での投与が難しいという状況でした。
結果、1歳未満のインフルエンザに対しては「何もできない」という状況に陥ることがありました。

タミフル適応拡大の要望

1歳未満に対するタミフルの適応追加を求め、2013年に厚生労働省「第3回 医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の要望募集」に日本感染症学会、日本小児感染症学会、日本未熟児新生児学会の3学会から要望を提出しました。

 本邦で小児における適応を有するインフルエンザウイルス感染症の治療薬として、タミフルドライシロップ3%(以下、「本剤」)のほかに吸入剤及び注射剤が承認されているが、1 歳未満の小児に吸入剤を適切に使用することは困難である。また、注射剤は経口剤が投与できない重症小児には有用と考えられるものの、軽症である場合、感染症が重篤化しないよう発症初期に経口剤が投与される場合があることも想定されるため、経口剤である本剤は医療現場において必要性があると考えられる。
本邦では 、本剤はインフルエンザ感染症の治療に対して、1歳以上の小児における用法・用量が承認されている(用法・用量は、オセルタミビルとして1回2mg/kgを1日2回、 5日間投与)。1歳未満については、本邦での承認はないが、2012年12月に米国で承認(オセルタミビルとして1回3mg/kgを1日2回、5日間)されており、米国疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のガイドラインでは1歳未満 を含む小児への使用が推奨されている。インフルエザウス感染症の治療において、国内外医療環境に大きな違いはないと考えられること、本剤の薬物動態に ついても、1歳未満の小児及び新生児 における国内臨床試験成績はないものの、1歳以上の小児では明らかな民族差は認められないことから、1歳未満の小児に対しても本剤の有効性が期待できると考えられる。

医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議
公知申請への該当性に係る報告書

オセルタミビルというのはタミフルのことです。

その要望書の中で、タミフルを1歳未満でも使用できるように求めました。
具体的には、1歳未満においてはタミフルドライシロップ3%を3mg/kg(ドライシロップ剤として100mg/kg)を1日2回、5日間投与できるように求めました。

1歳以上の小児には1回2mg/kg、1日2回、5日間ですので、新生児や乳児に対する処方のほうが体重あたりの量が多いです。
これには設定根拠があります。

 成人及び1歳小児において、オセルタミビルの薬物動態について、民族差は認められていないこと、海外で1歳未満の小児で1歳以上の小児と同程度曝露量が得られることが示唆されていること、国内使用実態調査で情報は限られているられているものの、3mg/kg BID投与の有効性及び安全を否定する情報は得られていないこと等から、1歳以上児の本邦における承認用量は2 mg/kg BIDであるものの、欧米で承認されている用法・用量であるオセルタミビル3 mg/kg BIDを、本邦における1歳未満の小児における用法・用量として設定することは可能と判断した。
なお、海外臨床試験において、2週齢未満の小児又は1歳未満の早産児に対する本剤の有効性及び安全性に関する情報が得られていない旨を医療現場に情報提供する必要があると考える 。

医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議
公知申請への該当性に係る報告書

BIDというのは1日2回という意味です。
(私はBIDやSIDという言葉を使わないのですが、異なる地域や職種では使われるのでしょうか)

平成 28 年 11 月 24日開催の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、上記が認められ、1歳未満でのタミフルの使用が可能となりました。

タミフルの適応拡大で何が変わったか

1歳未満にタミフルを処方できるようになって、医療現場にどのような変化があったでしょうか。

生後10か月、生後11か月のインフルエンザは比較的います。
今までだと、1歳未満のインフルエンザには3つの選択肢がありました。

  • ラピアクタを投与する。
  • 何もしない。
  • 麻黄湯を飲ませる。

ラピアクタを投与するためには点滴が必要になります。
点滴の針は痛いです。
生後10か月の子どもは肉付きが良く、血管は細く、点滴を入れるのが難しいことがあります。
何度も針を刺すことになるかもしれません。

インフルエンザに対して何もしないというのは、親の気持ちからすれば抵抗があります。
多くのインフルエンザは何もしなくても治るという事実がありますが、やはり一部で肺炎や脳炎という合併症があります。
何か治療をしてあげたいという気持ちは少なからず持つはずです。

麻黄湯に関しては十分なエビデンスがあるとはいえません。

「この3つのうちのどれかを選んでください」とお父さん・お母さんに迫るのは、なかなか難しい問いかけです。
私自身の子どもが1歳未満でインフルエンザになったとしても、なかなか答えにくいです。

こういうとき、タミフルが処方できるというのは、とても嬉しい選択肢です。
日本感染症学会の報告では1歳未満での使用は82%が有効で、有害事象はなかったとしています。
(もちろん、インフルエンザは自然に治る病気ですので、本当にタミフルが有効であったかどうかは分かりません)

もちろん異常行動との関連は明らかではないことを説明する必要はあります。
特に早産児の場合はラピアクタを検討すべきでしょう。
タミフルの有効性もコクランレビューによると「限定的」とされており、絶対にタミフルを使わなければならないというわけではありません。
(タミフルの有効性については説明すると長くなるので別の記事にします)

まとめ

1歳未満のインフルエンザに対してタミフルが使えるようになりました。
注意点は、1歳未満においてはタミフルドライシロップ3%を3mg/kg(ドライシロップ剤として100mg/kg)を1日2回、5日間投与であり、用量が異なります。
また、1歳未満の予防投与については変更がありませんでしたので、1歳未満の予防投与はできないと考えるべきです。

1歳未満のインフルエンザに対する選択肢が増えたのは喜ばしいことです。
子どものインフルエンザにどのように向き合うかは、小児科医とお父さん・お母さんが相談して決めましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。