子どもの内分泌疾患はそれほど多くはありません。
それでも外来で遭遇しやすい内分泌疾患があります。
私が遭遇したことのある内分泌疾患を、その頻度順に列挙してみます。
- アセトン血性嘔吐症(自家中毒)
- 低身長
- クレチン症
- 乳房腫大
- 1型糖尿病
- 肥満
- 先天性副腎過形成
アセトン血性嘔吐症、別名自家中毒はとにかく多いです。
小児科の宿命だと思います。
低身長も、私は低身長外来をしているのでよく相談を受けます。
クレチン症も症状が出ないタイプ(サブクリニカル)を含めると、結構います。
そして、その次くらいによく相談に来るのが乳房腫大です。
いわゆる「おっぱいが大きくなること」なのですが、意外とこれを主訴に来られる方がいます。
今回は、この乳房腫大について、私が知っていることを書きます。
具体的な症例提示も書いていますので、併せてお読みください。
正常な二次性徴
1993年に松尾先生が検討した二次性徴の平均年齢では、女性の乳房腫大は平均10歳、陰毛が11.7歳、初経が12.3歳となっています。(Skeletal and sexual maturation in Japanese children. Clin Pediatr Endocrinol 2: 1-4, 1993)
これをもとに、7歳6か月までに乳房腫大があったり、8歳までに陰毛が生えたり、10歳6か月までに初経がある場合は、思春期早発の可能性があります。
一過性乳房腫大と早発乳房と思春期早発
7歳6か月までに乳房が大きくなったとしても、すべてが思春期早発というわけではありません。
一過性乳房腫大や早発乳房は予後良好で、何もする必要がありません。
乳房腫大は、まず思春期早発なのかどうかを見極めることが大切です。
年齢によって、鑑別の仕方が変わってきます。
新生児の乳房腫大
生まれたときから胸が大きく、時にミルクが出ることすらあります。
男の子でも女の子でもあります。
これは、お母さんのエストロゲンというホルモンが赤ちゃんに移行しているためです。
男の子なら生後数週間で、女の子でも生後数か月で胸の大きさは普通になります。
思春期早発の可能性はありません。
ちなみに、赤ちゃんから出るミルクを「魔乳」といって、魔女の薬に使うという伝説があります。
特にしぼる必要はありませんので、放っておきましょう。
生後6か月から3歳の乳房腫大
ここからは思春期早発の可能性があります。
早発乳房から思春期早発かは、すぐには分かりません。
数か月から数年、経過観察する必要があります。
経過中に観察すべき項目は、次の5項目です。
- 乳房のTanner分類
- 恥毛のTanner分類
- 腋毛の有無
- 初潮の有無
- 成長曲線
- カフェオレ斑の有無(McCune-Albright症候群)
経過観察している中で、乳房が小さくなってしまうなら、まず早発乳房です。
異常ではありません。
経過観察を終了してもよいでしょう。
(機能性卵巣嚢腫であれば、また乳房が大きくなったときに、腹部エコーすればよいでしょう)
乳房がとても大きくなって、Tanner3度となったとしても、それだけでは何とも言えません。
乳房腫大が片方だけでも、両方ともでも、何とも言えません。
引き続き経過観察が必要です。
いっぽうで、乳輪の色素沈着は思春期早発の可能性が上がります。
恥毛や腋毛や初潮が見られた場合も思春期早発を極めて疑います。
成長曲線で身長がぐっと伸び始めるときも要注意です。
こういうときは、精査を行います。
- 採血(E2、LH、FSH、TSH、fT4)
- 効き腕とは逆の手のレントゲン(骨年齢)
- E2↑、LH↑、FSH↑の場合:頭部MRI(視床下部過誤腫の有無)
- E2↑、LH↓、FSH↓の場合:腹部エコー(機能性卵巣嚢腫の有無)
精査して、思春期早発と確定されるときは内分泌専門医にあとは託したほうがよいでしょう。
(この年齢での思春期早発は、私はフォローできる自信がありません)
診断については「中枢性思春期早発症の診断の手引き」というものがありますので、それを参考にしましょう。
検査に異常がなくても、引き続き経過観察が必要です。
3から6か月おきに、成長曲線をつけていきましょう。
6歳から8歳の乳房腫大
7歳6か月までの乳房腫大が思春期早発の可能性があるのですが、「中枢性思春期早発症の診断の手引き」によると、+1歳でも検査以上などがあれば疑われるとありますので、8歳6か月までは思春期早発の疑いとなる可能性があります。
この時期の乳房腫大も、基本的には3歳までの乳房腫大とすることは変わりません。
ですが、視床下部過誤腫の可能性が低く、頭部MRIが絶対に必要とは言えません。
他の所見(笑い発作があるか)と併せて、MRIを撮るか考えてもいいでしょう。
乳房が大きいだけであれば特に心配ありません。
乳房の大きくなり方がゆっくりであるときは、あまり慌てなくてもよいようです。
正常の思春期が少し早まったもの、という解釈もできます。
成長曲線をつけつつ、3から6か月おきにフォローでよいと思います。
月経が来て、検査によって思春期早発と診断されたときは、治療が可能です。
また月経が来てなくても、成長速度が急上昇した場合は、治療が可能です。
(もちろん、GnRH依存性、すなわちLHとFSHが上昇するタイプの思春期早発に対してです)
治療するメリットは次の2点です。
- 身長を少し伸ばしてあげられるかもしれない。
- 月経にショックを受けている場合、適切な時期まで月経を延期できる。
治療であるLHRHアナログの身長に対する効果は、この時期には限定的です。
必ずしも推奨はされていません。
いっぽうで、子どもの中には、月経が受け入れられないこともあります。
精神的に成熟するまで、治療によって月経を遅らせてあげることもできます。
お母さんと子どもの両方の以降を聞いて、治療をするかどうか決めましょう。
思春期男子の乳房腫大
13歳から14歳の男の子の乳房が大きくなることがあります。
思春期男子の30%という報告や、65%という報告もあります。
片側だけのこともあれば、両方の乳房が大きくなることもあります。
鑑別疾患が実はたくさんあります。
全部調べるのは無理です。
乳房腫大以外に体の不調がなく、乳房腫大が4cm以内で、2から3年で小さくなるのであれば、私は精査をしません。(場合よっては、採血で甲状腺機能亢進や肝機能障害の否定くらいはします)
高身長、痩せ型、精巣が小さいなどであれば、Klinefelter症候群の否定をします。
家族歴がある(父も乳房腫大がある)場合は、アロマターゼ過剰症かもしれませんが、診断のつけ方が私には分からないので、内分泌専門医に相談します。
まとめ
見逃さずに診断をきっちりつけてあげたいのは、生後6か月から3歳までの女の子の乳房腫大です。
思春期早発であることもありますが、正常な早発乳房であることもあります。
それ以外の時期の乳房腫大は、あまり焦らなくてよいことが多いです。