溶連菌性咽頭炎に対してアモキシシリン1日1回投与は有効。

A群溶連菌による咽頭・扁桃炎の内服治療
第1選択 アモキシシリン 30-50mg/kg/日 分2-3 最大用量1000mg/日 10日間

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017 p6

上記が日本のガイドラインにおける溶連菌性咽頭炎の治療です。

いっぽうで、アメリカでの治療は異なります。

A群溶連菌による咽頭・扁桃炎の内服治療
ペニシリンV 小児では500-750mg/日 分2-3 10日間
アモキシシリン 50mg/kg/日 分1-2 最大用量1000mg/日 10日間

Executive Summary: Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Group A Streptococcal Pharyngitis: 2012 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clinical Infectious Diseases, Volume 55, Issue 10, 15 November 2012, Pages 1279–1282

ペニシリンVは1957年に誕生した歴史ある抗菌薬ですが、日本では使えないので知らなくていいと思います。
大事な点は、アメリカでは溶連菌性咽頭炎に対するアモキシシリンは1日1回で良いのです。

今回は、溶連菌に対してアモキシシリンを処方するとき、1日何回にすべきかについて考えます。

30年前のアメリカの溶連菌性咽頭炎治療

治療の歴史を知るためには、古い論文を読まなければなりません。
というわけで、1993年の論文を紹介します。

Treatment of streptococcal pharyngitis with amoxycillin once a day. BMJ. 1993; 306: 1170-1172. 

この論文のイントロダクションが面白いので、ざっと訳します。

溶連菌性咽頭炎に罹患する人はとても多いです。
この40年間(筆者注:論文が書かれたのが1993年ですから、1950年初頭からという意味です)、溶連菌に対してペニシリン治療が選択されてきました。
最近では、新しい抗菌薬、たとえばセフェム系の薬が誕生し、ペニシリン系と比較されています。
セフェム系の抗菌薬は、1日1回でも治療失敗率が低く、便利です。

1日に複数回内服しなければならないというのは、特に子どもにとって大変です。
ペニシリンVを1日1回で投与しても良いか調査した論文が2つありますが、その結果は対立しています。

今回我々は、アモキシシリン1日1回投与で溶連菌性咽頭炎を治療できるか調べてみます。
アモキシシリンはペニシリンVよりも半減期が長く、セフェム系よりも安価です。
もしアモキシシリン1日1回で治療できるなら、十分なメリットがあるでしょう。

本当にざっと訳しました。
本文ではPhenoxymethylpenicillinと書かれていますが、私はこれをpenicillin Vと訳しています。

半減期が長いとありますが、添付文書上のアモキシリンの半減期は0.97時間で、ペニシリンVの半減期は約0.5時間です(https://www.drugbank.ca/drugs/DB00417)
ほんの少し長いかな、という程度です。

研究のイントロダクションを読んで分かったことがあります。
溶連菌治療においてセフェム系抗菌薬が台頭してきた時代に、なんとかペニシリン系抗菌薬を復権させようと頑張った人たちが、1日1回でも大丈夫というスタディを組んだのでしょう。

それでは、論文を読み進めます。
主に5歳から20歳を対象とし、ペニシリンV 750-1000mg/日 分3-4と、アモキシシリン 50mg/kg 分1とを比較しました。
どちらも10日間治療し、その結果、治療成功率はアモキシシリンのほうが有意に高いことが判明しました。

20年前のアメリカの溶連菌性咽頭炎治療

この結果を受けて、2002年のアメリカのガイドラインは、次のような記載になりました。

引用:Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Group A Streptococcal Pharyngitis. Clinical Infectious Diseases, Volume 35, Issue 2, 15 July 2002, Pages 113–125

経口抗菌薬はペニシリンVが書かれていますが、注釈が興味深いので訳します。

若年小児ではペニシリンV内服の代わりにアモキシシリン内服がしばしば用いられる。
効果は同等のようである。
この選択は主に、アモキシリンの懸濁液の味が子どもに受け入れられやすいということに関連している。

確かにアモキシシリンは、量の割に比較的内服しやすいと私は認識しています。
1000mg(10%製剤だったので10g)分3を娘に処方したことがありますが、そのボリュームは圧倒的ではあったものの、薬嫌いの娘でも飲めていました。
ただこの問題は「ペニシリンVがどれくらいまずいのか」を知らないと議論できず、日本では手に入らないペニシリンVを私が味見する機会はなさそうです。

溶連菌治療の歴史まとめ

現在のアメリカのガイドラインでは、「ペニシリンV 小児では500-750mg/日 分2-3 10日間」と「アモキシシリン 50mg/kg/日 分1-2 最大用量1000mg/日 10日間」が並列して記載されています。

アメリカの歴史をまとめてみましょう。

  • かつて、溶連菌性咽頭炎の治療の主役はペニシリンVだった。ペニシリンVは1日複数回内服する薬だった。
  • セフェム系抗菌薬が1日1回投与で治療効果が高いことが分かったが、ペニシリンVは1日1回だと効果を上げられなかった。
  • ペニシリンVよりも半減期が長いアモキシシリンに白羽の矢が立った。
  • 研究の結果、アモキシシリンも1日1回で溶連菌に対して効果があることが分かり、味も良いし、セフェムよりも安価なので、次第に治療の主役となった。

ここまで読んで、「あれ?」と思いませんか?
そうです、アモキシシリン1日1回投与の優位性は、ペニシリンVとの比較なのです。
アモキシシリン1日1回投与と1日複数回投与とを比較した報告はありません。

1日1回投与のメリットとデメリット

1日1回でもいいというのは、非常に嬉しい情報です。
溶連菌は抗菌薬治療で解熱すれば登園できる感染症である側面と、10日間抗菌薬を飲み続ける必要があるという側面とを持ちます。
この2つの側面から、登園しつつ抗菌薬を頑張って飲まなければならないという状況に陥ります。
幼児の朝は意外と忙しく、昼は保育園で内服させてもらえず、飲めるのは夜だけということは現実的にありえます。
1日1回というのは、保護者にとっても非常に嬉しいでしょう。

いっぽうで、日本でのアモキシシリンの使い方は、1日複数回投与が基本です。
添付文書上、3-4回に分けるように書かれていますし、日本のガイドラインでも2-3回に分けるように書かれています。

この理由はおそらく、ペニシリン系抗菌薬のパラメータが時間依存性であることに起因するのでしょう。
アモキシシリンは有効血中濃度以上をどれだけ長い時間保てるかが重要である薬です。
半減期が1時間程度の薬の血中濃度を高く保とうとすれば、1日に複数回内服するほうが効率的です。
逆に1日1回投与では飲んだ直後の最大血中濃度は極めて高くなりますが、1時間ごとにその濃度は半減し、数時間後には有効血中濃度以下となるでしょう。

薬物動態や薬力を意識することをPK/PD理論といいますが、これは私よりも薬剤師さんのほうが詳しく知っておられます。
少なくても私には、アメリカのアモキシシリン1日1回投与はPK/PD理論を無視しているように感じられます。

アメリカでは1日1回投与で十分効果があると報告されていますが、日本の1日複数回投与に比べれば効果が劣る可能性が否定できません。
飲みやすさ、続けやすさは大事ですが、効果が落ちてしまっては心配です。
どうすればいいのでしょうか。

Amoxicillin effect on bacterial load in group A streptococcal pharyngitis: comparison of single and multiple daily dosage regimens

ようやく本題です。
Amoxicillin effect on bacterial load in group A streptococcal pharyngitis: comparison of single and multiple daily dosage regimens. BMC Pediatrics201919:205

順天堂大学からの論文です。
出版されたのは2019年6月21日ですので、最新のニュースです。
しかも全文無料で読めます。
とても読みやすい論文ですので、ぜひ抄読会に使ってください。

特にディスカッション部分が面白かったので、そこを中心にまとめます。

  • アモキシシリン1日1回投与は、複数回投与と同等に効果的であった。
  • 1日1回にも関わらず効果が十分であったのは、溶連菌がペニシリンに対して非常に低いMICを持つためだと考えられる。すなわち、1日1回投与でも、血中濃度がMICを超えていた時間は十分にあったのだろう。
  • 今回の研究は1日1回投与を推奨するものではない。1日1回投与は、その1回量が増える。これを考慮した上で、好ましい投与回数を決めるべきだ。

この論文は当院研修医も抄読会で読みました。
いろいろ面白い考察がありましたので、ここにまとめました。

同じ論文を読んでも、読み手が変わると解釈や考察が少し変わる。

2019年8月6日

実際には何回投与がいいか?

私の愛読書である小児感染症のトリセツでは、溶連菌性咽頭炎に対し「50mg/kg/日 分1 最大用量1000mg 10日間投与」が記載されています。

いっぽう、私は小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017の記載と、添付文書の記載との整合性をとり、溶連菌性咽頭炎には「40mg/kg/日 分3 最大用量1000mg 10日間投与」をしています。
これは小児科ファーストタッチにも記載しています。

どちらが正しいのか、という問いに対しては、今回紹介した論文をもって「どちらも正しい」と言えるでしょう。

10日間しっかり薬を飲むというのはなかなか大変で、1日3回なら合計30回も内服しなければなりません。
1日1回投与なら、合計10回の投与で大丈夫です。
保育園で先生に飲ませてもらわなくても大丈夫です。
1日1回の利便性は確かに高いです。

いっぽうで、20kgの子どもに1回に1000mgのアモキシシリンというのは、非常識なくらい多い量です。
10%製剤なら1回10gの処方です。
上記のトリセツでは20%製剤をお薦めしていますが、その気持ちはよく分かります。
ただ、20%製剤にしても1回5g内服しなければなりません。
1日3回にすれば、1回量は1/3になりますので、1回1回の内服成功率は上がるかもしれません。

また、「50mg/kg/日 1日1回投与」は、添付文書に記載された用量とは異なる処方であるため、薬剤師さんから「疑義照会」を受けるかもしれません。
この疑義照会は必要な疑義照会ですので、受けた医師はアメリカのガイドラインに従っていることを丁寧に説明し、薬剤師に納得してもらうよう努めなければなりません。

ちなみに、共通のリソースを参照することでチーム医療は成立します。
添付文書は医師も薬剤師も参照するリソースの一つですから、特別強い理由がないのであれば、添付文書通り処方するのも良い選択です。
少なくても、「1日複数回投与よりも、1日1回投与のほうが良く効くんだ」というエビデンスは存在しません。

まとめます。

  • 溶連菌性咽頭炎に対しては、1日1回投与でも1日複数回投与でも効果は同じです。
  • 1日1回投与のメリットは内服回数が減る点です。
  • 1日3回投与のメリットは1回量が減る点と、チーム医療が成立しやすい点です。
  • どちらのほうがメリットが高いかは、児の生活環境によります。

最後に注意点です。
今回の研究はあくまで溶連菌性咽頭炎に対してです。
肺炎や中耳炎や副鼻腔炎に対しても「アモキシシリン1日1回でいいんだよね」と思わないでください。
(そんなことを考える医者はいないと思いますが。念のため)

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。