私の食物アレルギー診療の実際その1「心構え」。

これは、私の食物アレルギー診療の原動力ともいえるニュース記事です。

負荷試験での死亡事故

2017年7月30日、アラバマ小児病院での経口負荷試験で、3歳の男の子が牛乳摂取後に死亡しました。

お母さんは「息子は宿敵に対して、不断な聖戦を挑み、そして死んでしまった」と言葉にしました。

ここでのネメシス、宿敵とは、もちろんアレルギーという意味です。
そしてアレルギーに立ち向かった負荷試験を、このお母さんはクルセード、つまり聖戦と表現しました。

このニュースに関する私の想いはここに書きました。

食物経口負荷試験による死亡事故で感じたこと。

2017年8月30日

「アレルギーは宿敵であり、負荷試験は聖戦である」
私はいつもこの言葉をかみしめながら、食物アレルギー外来を行っています。

食物アレルギー外来における最初の説明

食物アレルギー外来はどのような言葉で始まるでしょうか?

初診といっても、いろいろなケースがあります。
私のアレルギー外来初診では、「アトピー性皮膚炎があるので卵を開始するのが心配」という乳児のケースがもっとも多いです。
この場合、私は「食物アレルギーを宿敵と例えるなら、食物アレルギー診療は戦いです」と切り出します。
続けて「予防法はこの5年間でパラダイムシフトしました」と説明します。
つまり「危険だから食べないという抗原回避から、危険かもしれないけれど食べるという早期摂取にシフトしてきているんです」と説明します。

ここで「この5年で」とつけるのが大事だと私は感じます。
そうすることで「上のお兄ちゃんのときは1歳まで卵を食べないようにと言われた」と言われても、「この5年で新しいことが分かってきたんです」と答えられます。
また「シフトしてきている」という表現も大事です。
「別の先生は違うことを言っている」と言われても、その先生が言っていることが決して間違っているわけではなく、「今まさにシフトしてきているところなんです」と答えられます。

ちなみに私の中でのパラダイムシフトは、やはり2015年のLEAPスタディだと思っています。
(LEAPスタディ:乳児期からピーナッツを摂取することでピーナッツアレルギーが予防される可能性がある)

予防・診断・治療のすべてで「果敢に食べる」ことが必要

予防は食物アレルギー診療の大事な要素ですが、他にも診断の要素、治療の要素も大切です。

予防・診断・治療、このすべての要素に共通するのが「果敢に食べる」という行為です。
予防における早期摂取というのは気になるアレルギー物質を果敢に食べるということです。
診断における負荷試験とは、疑わしいアレルゲンを果敢に食べることです。
そして治療においても必要最小限の除去として果敢に食べ続けます。

この「果敢に食べる」という要素が、予防、診断、治療いずれにも入ってくるのが、食物アレルギー診療の興味深い点です。

アレルギーなのに食べる怖さ

食物アレルギーは強敵です。
強敵を前に「オラ、ワクワクしてきたぞ」と言える孫悟空のようなお母さんは極めて珍しいです。
やはり、食物アレルギーという敵を前にして「それでも食べるんです」という指導は普通怖いわけです。

この怖さを克服するのが、正しい戦略と説明の分かりやすさです。
これによってアレルギーなのに食べるという怖さは軽減され、最終的に寛解に向かっていきます。
逆に根拠のない戦略や、そもそも戦略がない行き当たりばったりな指導を受けたり、または何言ってるのか分からないような説明を受けたりすると、なかなか「果敢に食べる」勇気が湧いてこないという結果になります。

「果敢に食べる」ための方法

「果敢に食べる」には勇気がいります。

エビデンスに基づいた正しい戦略と説明の分かりやすさは、勇気につながります。
「キミはできる!根拠はないけど」と言われても、できる気がしませんよね。
ですが、「キミはできる!その根拠は3つある!」と言われたらどうですか?
できる気がしてきませんか?

説明の分かりやすさは、負荷試験のステップ表を外来に貼るのも一例です。
また、円滑なコミュニケーションも説明の理解を深めます。
負荷試験では「よく頑張りましたね」、必要最小限の除去やスキンケアも「よく頑張っていますね」とお母さんを褒めることで、和やかな外来にすると、お母さんもいろいろ質問しやすくなって、分かりやすさがアップします。

まとめ

ここまでが、私のアレルギー外来の心構えです。

食物アレルギー診療は予防、診断、治療の3つの要素があります。
そして、その3要素すべてで「果敢に食べる」ことが必要になります。
「エビデンスのある戦略」と「分かりやすさ」が、実行する勇気をもたらします。

次回の記事では、予防に関する「エビデンスのある戦略」と「分かりやすさ」を説明します。

私の食物アレルギー診療の実際その2「予防」。

2019年5月31日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。