共有意思決定は抗菌薬を減らし、患者の不安を軽くするかもしれない。

「どうしたら抗菌薬処方を減らせるのだろう」

という薬剤師さんたちの願いで、始めた「抗菌薬の使い方」シリーズ。
今回が3回目です。

  • 抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?
  • 抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?
  • 抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?

第1回「抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?」はこちらに書きました。

鼻水が黄色や緑色のときは抗菌薬が効きますか?

2019.03.19

第2回「抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?」はこちらです。

抗菌薬は肺炎や中耳炎の予防に有効ですか?

2019.03.21

今回はシリーズ第3回です。
「抗菌薬を減らすための具体的な方法は?」について書きます。
これは書いていてすごく長くなってしまったので、4回に分けます。

  • 共有意思決定編
  • 血液検査・CRP編
  • 遅延抗菌薬投与編
  • 電子的ガイド編

つまり、この抗菌薬シリーズは全6回になります。
それでは、「抗菌薬を減らすために:共有意思決定編」について書きます。

共有意思決定とは

患者と医師が相談しながら治療方針を決めることを「共有意思決定」といいます。
詳しくはこちらに書きました。

小児科における意思決定の特殊性。Shared Decision-makingの問題点。

2018.03.28

共有意思決定が抗菌薬を減らす

Interventions to facilitate shared decision making to address antibiotic use for acute respiratory infections in primary care.(Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 12; CD010907)

コクランレビューです。
さっそく読んでいきましょう。

背景

共有意思決定は、患者中心ケアの重要な要素です。
患者の期待を引き出し、誤解をはっきりさせ、そして治療のメリットとデメリットについて議論する一連のコミュニケーションスキルです。

急性呼吸器感染症(いわゆるかぜ)は、プライマリーケアで抗菌剤が処方される最も一般的な病気です。
しかし、抗菌剤はかぜにほとんど利益をもたらさず、それらの過剰使用は抗菌剤耐性菌に影響します。

共有意思決定によって抗菌剤のメリットとデメリットをトレードオフすることで、プライマリーケアにおいて抗菌剤が減るかもしれません。

目的

共有意思決定が、かぜ治療において抗菌薬処方を増加または減少させるかどうかを評価することです。
二次評価として、再受診率、耐性菌の変化、肺炎になる率、入院率も調査しました。

結果

9件のランダム化比較試験が該当し、1100人を超えるプライマリーケア医と約492000人の患者が対象となりました。
6件の研究では、プライマリーケア医に対して共有意思決定の手法を教育されました。
3件の研究では、プライマリーケア医に対する共有意思決定の教育に加え、患者に「かぜ診療に対する抗菌薬のメリットとデメリット」を記載した文書を渡しました。

共有意思決定によって、かぜ症状の発症から6週間以内の抗菌薬の使用率は47%から29%に減りました(リスク比0.61、95%信頼区間0.55〜0.68、10172人の検討)。
12か月以上の抗菌薬使用率は、リスク比0.74、95%信頼区間0.49〜1.11、p=0.14で有意差はありませんでした。

抗菌薬の減少によって、患者の再受診率は増加せず(リスク比0.87、95%信頼区間0.74〜1.03)、患者満足度も減少しませんでした(オッズ比0.86、95%信頼区間0.57〜1.30)。

耐性菌の増減については吟味されていません。

肺炎や入院率の増加もありませんでした。

結論

共有意思決定は、短期的にプライマリーケアでの抗菌薬処方を減らします。
長期処方率への影響は不確実であり、抗菌薬処方の減少が将来の入院、肺炎、および死亡にどのような影響を与えるかを決定するには、さらなる研究が必要です。

私の感想

今回の研究は、医師が「抗菌薬を出しません!」と患者さんに強く伝えて抗菌薬を減らそう、という研究ではありません。
患者さんと「抗菌薬が必要かどうか一緒に考えませんか?」という姿勢が抗菌薬を減らしたという研究です。

多くの保護者が「かぜに対して抗菌薬は一定の効果がある」と考えています。
これについては、この記事に書きました。

風邪に抗菌薬が効くと考えている親はどれくらいいるか?

2018.03.27

この研究の興味深いところは、共有意思決定によって抗菌薬が減った上に再受診率が低下し、患者満足度が上がっている点です。
もちろん有意差はついていないのですが、患者さんが治療方針に納得した結果、患者さんの不安が軽減され、適切なホームケアに繋がった可能性があります。

患者さんや保護者と意思決定するためには、適切な知識が共有されていることが前提となります。
これには啓発用のポスターが重要です。
啓発用ポスターはここでダウンロードできます。
私は特に、知ろう まもろう 抗菌薬「かぜと抗菌薬」のポスターと、知ろう まもろう 抗菌薬「薬剤耐性」のポスター、効かない薬が増えている!! 薬剤耐性を知っていますか?のポスターの3つが良いと思います。

文書によって抗菌薬の使用が約半分に減ったというコクランレビューもあります。
Written information for patients (or parents of child patients) to reduce the use of antibiotics for acute upper respiratory tract infections in primary care.(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Nov 25;11:CD011360.)
抗菌薬のことをポスターで知ってもらって、かつ共有意思決定をすると相乗効果が見込めます。

忙しい外来の最中にじっくり説明することは大変ですが、啓発用ポスターを上手く使って、共有意思決定する。
共有意思決定は抗菌薬使用が減らし、患者さんの不安も軽くする可能性があります。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、アメリカ心臓協会PEARSインストラクター。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。