小児科医がアルピニー坐剤を実際に切ってみた。

子どもが熱を出して、小児科に連れて行ったという経験がある親は多いと思います。
小児科医の立場からしても、理由が「発熱」である受診はとても多いです。

発熱に対して、解熱薬を使うことがあります。
その解熱薬は、おとなだったら基本的に錠剤でしょうが、子どもには錠剤ではなく細粒や坐剤が好まれます。

特に坐剤は、薬嫌いでなかなか粉薬が飲めないような子どもにも投与しやすいです。

さて、その坐剤。
「1個だとちょっと量が多いので、2/3個に切って使ってくださいね」
こんな指示を医師にされたことはありませんか?

私は基本的には坐剤は切らなくてもいいように処方するのですが、そうはいっても11~13kgの子どもには100mg坐剤では少ないですし、200mg坐剤では大きいです。
11~13kgの子ども限定で「2/3個に切って使ってくださいね」と指導しています。

では、実際にどうやって2/3個に切るのか。
今回は、私自身が実際にアルピニー坐剤を切ってみましたので、その様子を紹介します。

アルピニーを取り出してみた

「アルピニー」というのはアセトアミノフェンという解熱薬の一種です。
「アンヒバ」と名付けているメーカーもありますが、成分は同じアセトアミノフェンです。

さっそく、アルピニーを取り出してみましょう。

青い方(写真の左)からコンテナ(包装紙)を剥がしていきます。
左側が坐剤の先端です。
こうしてみると、坐剤の末端側(写真の右)には隙間が結構あることに気づきます。

重さを量ってみました。
1.2gです。

実は、患者向け医薬品ガイドにも「重量1200mg」とあります。
私がジョーシンで買ってきた量りが正確だと分かりました。

アルピニーを切ってみた

取り出したアルピニーを切ってみましょう。

「あれ、滑る……」

坐剤はお尻に入れやすくするため、非常になめらかで滑りやすいんです。
しっかり持ってると、指の熱で溶け、さらに滑りやすくなります。

切れないことはありませんが、慌てていたらアルピニーが滑って飛んでいきそうです。

というわけで、コンテナ(包装紙)ごと切るようにしましょう。

コンテナごと切るときは、坐剤の末端側に空気の隙間があることに注意です。
坐剤は大きく見えて、意外と小さいのです。

アルピニー坐剤の「坐」の字の真ん中を通るラインの坐剤上の中心を斜めにカットします。

こんな感じに切れました。

ハサミだと、どうしても一部砕けてしまいますね。
まな板の上で包丁やカッターナイフで切ると、砕けにくくて良いです。

重さは0.8g。
もともと1.2gでしたから、ちょうど2/3です。

切る位置の目安

私の検討では、アルピニー坐剤の場合「坐」の中心を、アンヒバ坐剤の場合「バ」の中心を、アセトアミノフェン坐剤「JG」の場合「フ」の中心を通るラインの坐剤上の中心点を斜めに切るとちょうど2/3となりました。

ただ、コンテナはときどき変更されることがあります。
これは2019年2月時点の情報です。

1/2や3/4に切るときはどうする?

私は2/3に切る以外の指導をしません。
なぜなら、アセトアミノフェンの投与量は10~15mg/kgと幅があるからです。

7~10kgの子どもには100mg坐剤1個がちょうどいいです。
11~13kgの子どもには200mg坐剤
2/3個(133mg)にします。
14~20kgの子どもには200mg坐剤1個がちょうどいいです。

2/3にカットする方法をマスターすれば、あらゆる体重に対応できます。

斜めに切るのはどうして?

「斜めに切ると坐剤が折れにくい」と私は習いました。

他にも「斜め切りだと、薬剤濃度が不均一であっても、その影響を受けにくいから」という説もあります1)
ただ、アセトアミノフェン坐剤は薬剤濃度が均一であり2)3)、斜め切りしなくてもいいという意見もあります4)

私も今回、水平切りを試してみたのですが、折れやすいとは感じませんでした。
そして水平切りのほうが指導しやすいです。
水平切りでもいいんだろうな、と思っています。

それでも本記事が斜め切りを紹介したのは、患者向け医薬品ガイドに斜め切りのイラストが載っているためです。


参照:患者向け医薬品ガイド

これは患者さんが目にする資料です。
その資料と、私の説明とが異なれば、患者さんは混乱するかもしれません。

斜め切り説と水平切り説、今後統一できるといいなと思いました。

まとめ

  • 坐薬カットは2/3だけ覚えれば大丈夫。
  • コンテナごと切ると滑らないので切りやすい。
  • アルピニー坐剤の場合「坐」の中心を、アンヒバ坐剤の場合「バ」の中心を、アセトアミノフェン坐剤「JG」の場合「フ」の中心を目安にすると2/3になる。
  • 斜め切りか水平切りかは結論出ず。

1) 横田俊平:小児の薬の選び方・使い方. 南山堂, 2003
2) 田山剛崇:坐剤分割法における分割方向とその主薬分布に関する研究. 医療薬学, 32: 1100-1104, 2006
3) Yamamoto Y, et al:Studies on uniformity of the active ingredients in acetaminophen suppositories re-solidified after melting under high temperature conditions. Chem Pharm Bull, 63: 263-272, 2015
4) 田山剛崇:坐剤の1/2、2/3本投与とは?どう分割する?. 薬事, 58: 3313-3316, 2016

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。