「タイムアウト」というと、どういう状況を想起しますか?
私はバレーボールをしていたので、タイムアウトといえば「テクニカル・タイムアウト」を想起します。
8点と16点を先取した場合、自動的に30秒間、試合が一時中断されます。
その間に、作戦を練ったり、水分を補給したりすることができます。
これとは別に、監督が請求することで各セット2回まで「タイムアウト」し、試合を一時中断させることができます。
医療の場でのタイムアウトは、手術のときに行われます。
手術を開始する前に「タイムアウト」と号令します。
このとき、外科医も麻酔科医も看護師も作業を一時中断します。
そして患者さんの確認、手術部位の確認をします。
このように「タイムアウト」というのは「ものごとを一時中断し、冷静に状況を確認すること」という意味合いで使われます。
「ちょっとタンマ!」と言ったことがあるかもしれませんが、このタンマはタイムアウトを流ちょうに発音したもので、「ものごとを一時中断し、冷静に状況を確認すること」を意味します(諸説あり)。
このタイムアウト、ネルソン小児科に記載されているのを知っていますか?
実は、「憤怒けいれん」の治療をネルソン小児科学で調べると「タイムアウト」という言葉が出てきます。
「憤怒けいれんとタイムアウト……?」
私は最初、この2つをすぐに結びつけて考えることができませんでした。
今回は、憤怒けいれんの話と、タイムアウトというしつけの話の両方を併せて行います。
このページの目次です。
憤怒けいれん
憤怒けいれんは、別名「泣き入りひきつけ」とも言います。
英語ではbreath-holding spells(一時的な息止め)と言います。
乳幼児が強く泣いたあと、息を止めてしまい、場合によっては意識を失うことがあります。
これが憤怒けいれんです。
憤怒けいれんの頻度
乳幼児の数パーセント(1-4%程度)と言われています。
軽症例を含めれば、比較的多い疾患です。
憤怒けいれんの好発時期
憤怒けいれんは生後6か月から2-3歳ごろに見られます。
全体の半数が、生後6-12か月で発症します。
新生児の発症も報告されていますが、頻度は多くありません。
憤怒けいれんの原因
憤怒けいれんには2つの原因があるとされます。
- 強く泣くことで胸腔内圧が上昇し、心臓が圧迫されてうまくポンプの機能を果たせなくなり、脳血流が落ちる。
- 痛み刺激や怒りが原因で迷走神経反射が起こり、心拍が停止し、脳血流が落ちる。
どちらの原因であっても、心機能が低下して脳血流が落ちるという過程は同じです。
憤怒けいれんの症状
「憤怒けいれん」とは言いますが、けいれんをするようなものはとても重症な場合に限られます。
一般的には一時的に呼吸を止めるだけですので、英語名であるbreath-holding spells(一時的な息止め)のほうがしっくりくるように感じます。
憤怒けいれんは、痛みや不安などで強く泣いたとき、わーっと泣いて、泣き切ったあとに呼吸が停止します。
このとき、「チアノーゼ」という顔色が悪くなる症状がみられます。
軽い症状であれば、短時間でまた泣きだします。
比較的強い症状であれば、意識を失ってしまうことがあります。
ですが、すぐに意識は回復します。
重症例であれば、強く泣いて、呼吸がとまったあと、けいれんすることもあります。
いずれにせよ、一般的にこれらの発作は1分以内におさまります。
(重症例では1分以上続く場合もあります)
憤怒けいれんの予後
先ほどの「原因」の項目をみると、憤怒けいれんのメカニズムはなんだか怖そうに思います。
ですが、予後は一般的に良好です。
3歳までに約半分が治るとされています。
7歳を過ぎても発作が残るのは3%とされます。
憤怒けいれんの検査
強く泣いた後であり、1分以内でまた泣きだすようであれば、憤怒けいれんと診断可能です。
ですが、持続時間が長い場合や、好発年齢から外れている場合、繰り返す場合、けいれんを伴う場合などは、てんかんや脳幹部病変(キアリ奇形や脳腫瘍)、不整脈や肺高血圧などを含めた心疾患を鑑別しなければなりません。
脳波、頭部MRI、心電図、心エコー、胸部レントゲンが必要となることもあるでしょう。
貧血と憤怒けいれんに関連があることも知られています。
採血検査で貧血のチェックがされることもあります。
憤怒けいれんの治療
息を止めてしまった場合は、特に何もしなくても呼吸は再開します。
ネルソン小児科学には「親に対しては、小児が憤怒けいれんを起こしても無視するようにアドバイスする」とまで書いてあります。
さすがに無視することは心情的にできないと思いますので、優しく背中をさすってあげることはしていいと思います。
憤怒けいれんを起こさせないためには、次の3つの方法があります。
- 鉄剤投与
- ペースメーカー
- 強く泣く前になだめる
鉄欠乏性貧血を伴う憤怒けいれんに鉄剤投与は有効だったというエビデンスがあります。
いっぽうで、貧血がない症例でも鉄剤は有効だったという報告もあります。
したがって、憤怒けいれんを繰り返して困っている場合には、鉄剤を試してみるべきでしょう。
鉄剤が無効で、20秒以上心静止を伴うような重症例ではペースメーカーも考慮されるようです。
強く泣く前に子どもをなだめるというのも大切です。
タイムアウト
ようやく本題に入れます。
タイムアウトについてです。
ネルソン小児科学に次のような記載があります。
カンシャクや憤怒痙攣への対処の解決への第一歩は、小児がカンシャクや憤怒痙攣で非常に苦しむ前に、小児をなだめる立場の親を援助することである。小児の挑戦的な態度は2-3分のタイムアウトで静かになると、小児科医は親にアドバイスすべきである。
ネルソン小児科学第19版
タイムアウトとは冒頭で述べた通り「ものごとを一時中断し、冷静に状況を確認すること」です。
そして、ここでは欧米特有のしつけの方法を指します。
しつけの一種ですので、いろいろなアレンジがあり、特定の方法はないのですが、共通して言えるのは次の3点です。
- 静かな場所に子どもを移動させる。
- 子どもを一人にする。
- 親の目は届くようにする。
興奮している子どもを落ち着かせることが、このタイムアウトの目的です。
同時に、親の気持ちを落ち着かせる効果もあります。
注意点
憤怒けいれんは強く泣くことで誘発されます。
そのため小児科医は親に対して「泣かせないようにしてください」と説明するかもしれません。
ですが、子どもを泣かせないように親に強いることは、親に大きな不安を与えることになるでしょう。
泣かせないようにするあまり、過保護になってしまうかもしれません。
うまくしつけができずに、育児への自信を失ってしまうかもしれません。
子どもが悪いことをしたら、叱るのがしつけです。
憤怒けいれんを恐れるあまりに、しつけを放棄させるようなアドバイスを小児科医はすべきではありません。
タイムアウトは子どもを泣かせることなく、しつけをする方法の一つとなるでしょう。
もちろん一人にされて強く泣く子どももいます。
ですが、「どなる」や「叩く」に比べて、泣かない場合も多いです。
まとめ
憤怒けいれんの治療として、タイムアウトというしつけがあることを紹介しました。
しつけの方法は「これがベスト」というのはありません。
うまく行く場合もあれば、うまく行かない場合もあります。
ただ、いくつか方法を知っておくと、心にゆとりが生まれます。
もしお子さんが憤怒けいれんをよく起こし、育児に不安を持つのであれば、タイムアウトという方法でのしつけもあるのだということを知っておくとよいでしょう。