小児科は何歳まで?プロフェッショナルな小児科専門医の共通点。

2017年3月12日更新:小児科は何歳までかについて追記。
2018年4月3日更新:小児科医の共通点(子どもと保護者を同時に診られる)を書きました。

このブログを立ち上げた理由はいくつかあります。
その中の一つが「いろいろな人に小児科のことを知ってもらいたい」という理由です。

なお、今回の記事は、以前に書いた当ブログの紹介記事の続きにあたります。
まだ未読の方は、こちらも併せてお読みください。

小児科のことを分かりやすく説明するというのは、やってみるととても難しいことでした。
小児科では何歳まで診るか、小児科ではどんな疾患を診るか、その答えが小児科医ごとに違うからです。

いっぽうで、小児科医ごとに何もかもが違うわけではありません。
小児科医には、共通したプロフェッショナリズムがあります。

小児科は何歳までで、どんな疾患を診てくれるのでしょうか。
今回は、そんな素朴な疑問から始まって、「小児科医とは何か」というテーマについて言及し、最後には小児科医の共通点についても書きます。

小児科の定義

たとえば「小児科というのは、子どもを診察する内科です」と端的な説明してみたとします。
これは実にあいまいです。
子どもの定義と、内科の定義がしっかりしていないからです。

小児科は何歳まで?

子どもというのは何歳までですか?
12歳?
15歳?
第二次性徴が始まるまで?
子どもが「小児科なんて恥ずかしくて行きたくない!」という言うときまで?

小児科が何歳まで診てくれるのか、ほとんどの人が知りません。
知らなくて当然です。
小児科医が何歳まで診てもいいかなんて、医師法でも医療法でも決まっていません。

その小児科医が自信をもって診療できる年齢まで、診てもいいのです。
自信があるのであれば、20歳でも30歳でも小児科で診てかまいません。

私が卒業した奈良県立医科大学は血友病について専門的な小児科でしたので、50歳でも60歳でも血友病患者さんは小児科で診ていました。
(私が学生の時の話です)

小児科では何を診てくれる?

小児科は子どもの内科疾患を診ます。

では、内科というのはなんでしょう?

小児科医に手術をお願いするようなお父さん・お母さんはいないと思います。
手術は外科の領域です。

ですが、たとえば子どもがちょっとした怪我をしたくらいだったらどうでしょう。
小児科の先生なら、子どもの怪我くらいは診てくれるでしょうか?
やけどはどうでしょうか?
中耳炎は耳鼻科と小児科どっちがいいでしょうか?
アトピー性皮膚炎は皮膚科と小児科どっちがいいでしょうか?

実は、小児科がどこまで診てくれるのかは決まっていません。
どこまで診てくれるかは、その小児科医によって違うのです。

アレルギーに詳しい小児科医であれば、アトピー性皮膚炎は自分で診るでしょう。
いっぽうで、アレルギーが苦手な小児科医は、きっと皮膚科を紹介するでしょう。

小児科医とは何なのか?

「小児科というのは、子どもを診察する内科です」と最初に定義しました。

しかし、個々の小児科によって何歳まで診るかは異なり、何を診てくれるのかも違います。

つまり「小児科というのは、何歳まで見てくれるか分からない上に、何を見てくれるかも分からないところです」という残念な説明に置き換えられてしまいます。

個々の小児科医について

ちなみに、私が勤務してきた神戸大学も姫路赤十字病院も明石医療センターも「15歳まで小児科で診療する病院」でした。

私が思春期の中学生を診察するときは、時には産婦人科の先生や、時には消化器内科の先生にアドバイスを受けながら勉強してきましたので、15歳までなら自信をもって診られます。
アレルギーを専門的に勉強していますので、喘息や鼻炎などであれば、16歳以上でも診られます。
また形成外科の先生からやけど治療の極意をしっかり教わったので、キズパワーパッドのジャンボサイズで覆えるくらいのII度熱傷なら診られます。

いっぽうで、私は症状の伴う不整脈や、発作を繰り返すてんかんをフォローをすることはできません。
教育を受けてきた環境はすべての小児科医によって異なるので、できることはその小児科医によって変わります。

この小児科では12歳まで、ここは15歳まで、ここは高校生まで、ここでは皮膚疾患はみてくれない、ここは耳鏡で耳を診てくれない、ここは心臓エコーをしてくれる、ここは脳波検査をしてくれる……。
小児科を説明するには小児科医の数だけページが必要になってしまいます。

小児科医は日本だけで約15000人いるようです。
小児科医一人を紹介するのに1ページ費やすとしたら、小児科医のバイブル「ネルソン小児科学」をはるかに超えるボリュームの大辞典のできあがりです。
(ネルソンが約3000ページですので、日本の小児科医図鑑はその5倍の分厚さになってしまいます)

そんな大作が書店に置いてあっても誰も買ってくれません。
重さだけで10kgは超えるでしょう。
なんとか自宅まで運び込んだとしても、本棚が壊れてしまいそうです。
という冗談はさておいて、そういう詳細な情報は無意味とまではいいませんが、小児科を知る、という本質ではないように思います。

いろいろな人間がいて、いろいろな人生があるように、小児科医もいろいろいます。
最新の検査が好きな小児科医もいれば、古典的な診察を重視する小児科医もいます。
東洋医学を好む小児科医もいれば、漢方薬をまったく処方しない小児科医もいます。
特殊な事例をすべて説明していくのは大変ですし、覚えられません。

普遍的な小児科医のプロフェッショナリズム

それよりも、どんな小児科医にも普遍的に当てはまる一般論のほうが有益な情報だと思います。
相対性理論で例えるならば。観測者が等速直線運動する場合にしか適用できない特殊相対性理論よりも、観測者が加速度運動していたとしても適用できる一般相対性理論のほうが優れている……余計分かりにくいですね。

ともあれ、普遍的な小児科医のプロフェッショナリズムを伝えることが、小児科医のことを知りたい人たちにとって、もっとも有益であると考えます。

 

小児科医とは何か、小児科には何歳まで受診していいかについて、小児科医のプロフェッショナリズムに沿って答えてみます。

  • 小児科医とは、子どもとそのお父さん・お母さんを同時に診る能力に長けた医者である。
  • お父さん・お母さんが診療に関わるべき時期というのは、小児科医によって考え方が異なる。

子どもの気持ちと、お父さん・お母さんの気持ちの両方に寄り添うことができるのが、小児科医のプロフェッショナリズムだと私は考えています。
内科の先生に比べて、小児科医は保護者の気持ちを汲み取ることが上手です。

したがって、何歳まで小児科が診るかという質問は、何歳までお父さん・お母さんが診療に関わるべきなのかという質問と同じだと考えます。
何歳までお父さん・お母さんが診療に関わるべきなのかは、その子どもによって違うでしょう。

つまり、何歳まで小児科が診るかという質問に対する答えは、小児科医だけが決める問題ではなく、子ども自身の成長による影響も受けます。

または、疾患によってお父さん・お母さんが診療に関わるべきかどうかは変わります。
起立性調節障害は親の理解も必要な病気です。
高校生になっても(親と一緒に生活している限りは)、小児科で診るのが望ましいと私は考えています。

まとめ

小児科医は何歳まで?という素朴な疑問から始まって、小児科医とは何かというテーマについて考えてみました。

いろいろな小児科医がいます。
12歳までしか診られない小児科医もいれば、疾患によっては60歳まで診られる小児科医もいます。
得意とする年齢の範囲は、その小児科医の受けてきた教育によって異なります。

すべてバラバラに見える小児科医ですが、共通したプロフェッショナリズムを持っています。
それが「子どもとそのお父さん・お母さんを同時に診る能力に長けたている」という点です。

実際のところ、「小児科は何歳まで?」とか「小児科は何を診てくれる?」とかそういう疑問は、大きな問題ではないと私は考えています。
なぜなら、小児科医は何でも診ます。
その小児科医が診られない年齢であったり、診られない疾患であったなら、その小児科医が責任をもって、どこの病院に行くべきかを教えてくれます。

「小児科医は何でも診ます」というのもプロフェッショナリズムの一つです。

とにかく、自分の子どもが困っていたら、小児科に連れてきてください。
もし、小児科から内科へ移行する一つの目安があるとすれば、子どもが一人で病院に行くようになれば、小児科は卒業だと私は思っています。
(ただし、内科・小児科両方が併設されている病院では、残念なことに年齢で区別するルールがあるのが一般的です。少なくても私は、このルールを望んでいません)

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。