オンライン診療について、これだけは知っていて欲しいこと。

COVID-19によって、新しい生活を余儀なくされた人は多いと思います。
新しい生活の中で、病院への受診の在り方もまた、考え直さなければなりません。

ステイホーム、不要不急の外出を控える、という考え方から、オンライン診療の価値は2020年に大きく高まりました。
オンライン診療は、病院に行くことなく医師の診察を受けられ、薬の処方さえしてもらえます。
オンライン診療に関心がある方は少なからずいるでしょう。
新型コロナウイルスの流行が長引くにせよ、早期に収束するにせよ、オンライン診療のニーズは今後高まっていくことは間違いないと思います。

というわけで、私は厚労省のオンライン診療研修を受講しました。
研修の中で学んだことはたくさんありましたし、実際にオンライン診療をしてみて気づいたこともいろいろありました。

というか、オンライン診療ってすごく難しいんです。

「え、ZOOMとかSkypeとかを使って外来をするのがオンライン診療なんじゃないの?」

違います。
オンライン診療指針にも、ZOOMやSkypeのような汎用ソフトを避けるべきだとあります。
また、オンライン診療で保険診療できる疾患にも制限があります。

今回は、オンライン診療研修について難解な部分を説明しようというつもりはありません。
私自身、オンライン診療の細かな点が理解できているわけではありません。

それでも、オンライン診療について、医師と患者との間にある程度共通した理解があったほうがよいと思うのです。
そういうことを今回は書いていこうと思います。

オンライン診療は第4の診療形態である

オンライン診療を「外来診療の劣化版」という認識でいると、どうしても理解が進まないと思います。

では、どう認識すればいいのか。
オンライン診療指針では、第4の診療形態と捉えることを提案しています。

  1. 外来診療
  2. 入院診療
  3. 在宅診療
  4. オンライン診療

4つの診療形態をうまく組み合わせることが大切です。
それぞれには利点と限界があります。

オンライン診療だからこそできること、そしてオンライン診療ではできないことがあります。
外来診療が上位にあって、その下位としてオンライン診療があるという認識は間違っています。

診療形態の新しい選択肢として捉えると、オンライン診療の理解が進みやすいと思います。

オンライン診療の基本と特例的対応

オンライン診療にはいくつか基本があります。

  • 医師は厚生省のオンライン診療研修を受けていなければならない。
  • 初診は対面での診察が基本である。
  • 日頃より直接の対面診療を重ねており、医師と患者に信頼関係が既に存在する場合に限ってオンライン診療は利用されることが基本である。
  • 初診時には、オンライン診療計画書を提示する。計画書にはオンライン診療の限界や、対面での診療が必要になるときのことを記載する。
  • 医師は、オンライン診療による診療が適切でない場合には、速やかにオンライン診療を中断し、対面による診療に切り替えなければならない。
  • 新たな症状、疾患が出現したときは、対面が基本である。
  • オンライン診療料が算定できる疾患は限定的。小児科で対象となりそうなのは、6歳未満の極低出生体重児。15歳未満の脳性麻痺、先天性心疾患、ネフローゼ症候群、ダウン症等の染色体異常、川崎病で冠動脈瘤のあるもの、脂質代謝障害、腎炎、溶血性貧血、再生不良性貧血、血友病、血小板減少性紫斑病、先天性股関節脱臼、内反足、二分脊椎、骨系統疾患、先天性四肢欠損、分娩麻痺、先天性多発関節拘縮症、小児慢性特定疾病の児。てんかん、糖尿病、一次性頭痛の児。
  • オンライン診療料を算定するには、3か月に1回の対面診療が必要。

初診の定義は、なかなか難しいです。
新たな疾患が生じたときや、一度寛解していた病気が再燃したときは、初診として対面診療ならびにオンライン診療計画書が必要になります。

保険診療としては、喘息や食物アレルギーの子どもをオンライン診療でみていくことはできません。
自由診療となります。

自由診療だとしても、それまでコントロール良好だった喘息児が明け方や夜間の咳が強くなり、コントロール薬のステップアップをするようなときは対面診療が必要です。

以上が、オンライン診療の基本です。
ですが、2020年4月10日に「時限的・特例的対応」が厚労省から発表されています。

  • 初診が解禁されました。
  • 保険診療上の疾患制限もなくなりました。
  • オンライン診療計画書も不要です。
  • 電話のみで対応するなら、オンライン診療システムも不要です。
  • 医師はオンライン診療研修を受けていなくてもいいのです。

今のオンライン診療は、あくまで「時限的・特例的」

初診解禁、疾患制限なし。
これはCOVID-19によって、新しい生活を余儀なくされた人にとって朗報でしょう。

医療者側の視点としても、病院に来る患者さんの数を減らせ、感染拡大リスクを抑えることができます。

ですが、現在のオンライン診療は、かなり規制緩和された状態であることを肝に銘じなければなりません。
電話のみの診察は、問診のみが頼りです。
触診はもちろんのこと、視診すらできません。

医師法 第20条

医師は自ら診察しないで治療をしてはいけない。

オンライン診療は、医師法 第20条とどう折り合いをつけるか、何十年も議論されてきました。
1997年に遠隔診療は医師法20条には抵触しないと定められましたが、2016年に文字・写真だけでの診療では医師法20条に抵触すると定められました。

現在のオンライン診療は、オンライン診療研修を受けていない医師でも行えます。
このあたりの法整備の過程を理解できていない医師も多いと思います。
オンライン診療の限界を把握できていない医師も多いと思います。
オンライン診療が「外来診療の劣化版」となり下がる危険性があります。

無制限な「オンライン診療」と称する「無診察診療」が蔓延しないよう、医師は積極的にオンライン診療を学ばなければなりません。

また、オンライン診療を利用する患者側としても「病院いかなくていいの? ラッキー!」ではなく、その医師と本当に信頼関係が結べているのか考えてください。
あなたが受けている診療が「外来診療の劣化版」となっていると感じたときは、やはり対面での診療を受けるべきではないかと私は思います。
(対面診療の提案は、本来医師側がすべきだとは思いますが。現在オンライン診療をしている医師は、オンライン診療の限界を把握できていない可能性があるのです)

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。