私の食物アレルギー診療の実際その2「予防」。

私のアレルギー診療の実際を予防・診断・治療に分けて紹介します。

今回の記事は、「予防」についてです。
これは2008年にLACK先生が提唱した二重抗原仮説:感作は皮膚、寛容は腸管という理論がメインとなります。
これをエビデンスと分かりやすさという2つの視点で保護者に説明しています。

アレルギー診療で、どうしてエビデンスと分かりやすさを重視するのかについては、前回の「心構え」で書きました。

私の食物アレルギー診療の実際その1「心構え」。

2019年5月30日

経皮感作の分かりやすいエビデンス

まず経皮感作説についてのエビデンスを紹介します。

  • 2003年に、湿疹にピーナッツオイル塗布するとピーナッツアレルギーリスクが6.8倍になるという論文が出ました1)
  • 2009年には茶のしずく石けんという加水分解小麦で洗顔していて、約2000人が小麦アレルギーになりました。
  • 2016年にはシステマティックレビューで、アトピー性皮膚炎は食物抗原に対する感作率を6.18倍になることが分かりました2)

これらはどれも「アレルギーが皮膚から始まるのではないか」という貴重な報告です。
さて、どれが分かりやすいですか?
私はシステマティックレビューとか感作とかよりも、「湿疹にピーナッツオイルを塗ったらピーナッツアレルギーになった」とか、「顔に小麦を塗ってたら小麦アレルギーになった」とかのほうが分かりやすいように思って、こちらの論文を説明によく使います。

1) Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med. 2003; 348: 977-85.
2) Does atopic dermatitis cause food allergy? A systematic review. J Allergy Clin Immunol. 2016; 137: 1071-1078.

腸管寛容の分かりやすいエビデンス

次に、腸管寛容のエビデンスを紹介します。

  • 2008年に米国が「3歳までピーナッツ除去という推奨」を撤回しました。
  • 同時期に、「離乳食としてピーナッツバターを食べているイスラエル人のピーナッツアレルギー率はイギリス人の1/10」という論文が出ました3)
  • 2015年には「生後11か月までにピーナッツを食べ始めた群のピーナッツアレルギー率は5歳まで除去した群の1/7」という研究結果が出ました4)

これらは、「早期に食べることでアレルギーは予防できるのではないか」という報告です。
どれが分かりやすいですか?

私は、場所や年代の説明があると分かりやすい気がするのでこう説明しています。

岡本
2000年にアメリカは「ピーナッツは危ないから3歳までやめておきましょう」というお触れを出しました。
ところが8年後、ピーナッツアレルギーが2倍に増えるという事態になり、アメリカは「ピーナッツは3歳までやめて」というお触れを撤回します。
その後研究が重ねられ、ピーナッツは早く食べたほうが予防できると分かりました。
これはピーナッツに限った話ではなく、日本でも2016年に成育医療センターという東京の大きな病院で研究され、卵を早く食べたほうが予防できると分かったんです5)

と、最後はプチスタディの結果も付け加えています。

3) Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2008; 122: 984-91.
4) Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015 26; 372: 803-13.
5) Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017; 389: 276-286.

グラフは視覚的で分かりやすい

ちなみにLEAPスタディにはこのようなグラフが載ってます。
もちろん、このLEAPスタディに参加したのは通常のお子さんではありません。
重症の湿疹があるか、卵アレルギーがあるか、そのどちらかまたは両方がある子どもだけが参加しています。
いわゆる「アレルギーハイリスク」の子どもを対象とした研究です。

それでも、このグラフは「アレルギーを予防する方法はある!」視覚的に強く訴えかけてきます。

これは成育医療センターのプチスタディのグラフです。
つまり、アトピー性皮膚炎の子どもに対して、生後6か月から少量卵白を開始したという研究です。
これも、すごいインパクトで「アレルギーを予防する方法はある!」
やはり口頭だけでなく視覚情報も与えたほうが分かりやすいと私は思います。

鶏卵アレルギー発症予防に関する提言

卵アレルギーの予防といえば、小児アレルギー学会の提言も重要です。
これについては、以前記事を書きました。

鶏卵アレルギー発症予防に関する提言。大切な2ステップ。

2017年6月17日

当院の方法はPETITスタディのプロトコールに近いです。
つまり生後6か月までに皮膚の改善させ、生後6か月から卵黄1個を目指します。
生後9か月から卵黄1個つなぎにアップします。
毎日が理想ですが、実際には週2-3回あたりが現実的です。
そして1歳になったら薄焼き卵1個を食べます。
無事食べることができれば、予防完了です。

卵黄つなぎ食の作り方を外来の壁に貼っておくことで、視覚情報を与えています。
これはカボチャと混ぜてますが、他にもホットケーキミックスと混ぜて焼く、ひき肉と混ぜてハンバーグにする、そのまま入り卵にする、溶いてスープに入れるなども許容しています。

まとめ

食物アレルギー診療の「予防」について、エビデンスと分かりやすさの2つの視点で説明しました。
二重抗原仮説「感作は皮膚、寛容は腸管」を根拠を持って、分かりやすく説明できると、早期摂取すなわち「果敢に食べる」という行動に結びつくと思います。

もちろん、安全性をいかに担保するのかもアレルギー科医の腕の見せ所です。
明確なアレルギーエピソードがあり、感作もあれば、それはもうアレルギーとして診断されるべきと私は思います。
それを「予防」として家で果敢に食べさせると、危険です。
この場合は食物経口負荷試験をして、安全な閾値を求めなければなりません。

予防はあくまでアレルギーを発症していない児に対してです。
なんでもかんでも「食べて予防しましょう」とならないよう自分自身に言い聞かせながら、食物アレルギー外来をしています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。