青少年のタトゥー(入れ墨)に対する小児科医のアドバイス。

タトゥーについて、アメリカ小児科学会が興味深い声明を出しています。
今回は、アメリカ小児科学会のタトゥーに対する認識を書きます。

タトゥーの頻度

Adolescent and Young Adult Tattooing, Piercing, and Scarification(Pediatrics September 2017)

かなり長い英語なのですが、がんばって読んでみます。
まず、アメリカではどれくらいの人がタトゥーをしているでしょうか。

  • 2016年のアメリカでは、成人の30%が少なくても一つのタトゥーを持っている。
  • 2012年では20%だったので、増加傾向。
  • 男女に差はない。

タトゥーに対してどう感じているか

  • 86%の人が、タトゥーを入れたことを後悔していない。
  • タトゥーを入れた人の30%が、よりセクシーになったと感じている。
  • タトゥーを入れた人の25%が、自分が反抗的であると感じている。

このデータに対する感じ方は人それぞれだと思います。
私個人は、もっと後悔している人がいると思っていたので、意外なデータでした。

  • アメリカの高校生の10%が、タトゥーを持っている。
  • アメリカの高校生の55%が、タトゥーに興味を持っている。

高校生のタトゥーに対する関心は高く、タトゥーについて小児科医はもっと知るべきだとあらためて感じました。

タトゥーの感染症に対するリスク意識

  • タトゥーを持っているイタリアの大学生の多くが、感染症の危険性を理解していない。
  • HIVのリスクを知っている学生は60%だったが、C型肝炎については38%、B型肝炎は34%、破傷風は34%しか理解していなかった。

リスクの認識については、リスクが実際に発生する頻度が分かっていないために、明確にリスクを伝えられないという医療者側の問題もあるように思います。

タトゥーと反社会的行動の関連

  • 2007年から2008年の調査では、タトゥーには暴力性や自殺との関連性が指摘されていた。
  • 現在ではタトゥーと暴力性や自殺との関連が薄まっているが、小児科医はタトゥーを入れた青少年の精神的エピソードに注意をしなければならない。
  • タトゥーは自傷行為ではない。
  • 自傷行為は自殺と関連する精神疾患であるが、タトゥーは自傷行為ではなく、社会的に受け入れられる。

子どもがタトゥーを入れたいと言っても、それが反社会行動につながるとは言えません。

タトゥーと就職

  • 2008年のアメリカでは29%の人が「タトゥーを入れている人は非常識だ」と答えた。
  • 2012年では24%となり、若干減っている。
  • 別の論文では、40%の人がタトゥーに対して悪い印象を持ち、45%の人が印象が変わらず、7%の人が印象が良くなると回答した。
  • 年長者ほど、タトゥーに対して悪い印象を持っていた。
  • 76%の人が「タトゥーによって就職のチャンスが減った」と答えている。
  • 人事評価において37%の管理者が「タトゥーによって人事評価が下がっている」と答えている。(ちなみにこれは3番目の原因である。人事評価を下げる原因の1位は耳以外の場所のピアス、2位は口臭である)
  • したがって、タトゥーは服で見えなくなる場所に入れるべきである。

アメリカ人でタトゥーを入れている人は30%いますが、その印象は良くないようです。
タトゥーの文化がアメリカ以上に浸透していない日本においては、さらに就職の問題が強まるでしょう。

タトゥーの合併症

  • タトゥーの多くが、アマチュアによってなされ、その過程は危険である。
  • タトゥーの合併症でもっとも多いのは感染症である。
  • HIV、B型肝炎、C型肝炎、細菌感染症はタトゥーから4-22日後に発症する。
  • ヘルペス感染は3日後に発症する。
  • 汚染されたインク、器具による非結核性マイコバクテリウム感染症の報告はたくさんある。
  • 稀ではあるが、タトゥーから10-14日後に急性皮膚血管炎を発症する。
  • 一次的なタトゥーである赤ヘナは比較的安全である。
  • ただし、G6PD欠損症の児が赤ヘナを行うと溶血の危険がある。
  • 黒ヘナは2.5%でアレルギー反応が起きる。その症状は重篤で入院を要し、鎮静化には数週間かかる。黒ヘナによるタトゥーは避けるべきである。

前述した通り、合併症の多くでその頻度が不明であるため、正しいリスク説明をすることができません。
ただ、黒ヘナについては2.5%という頻度が分かっており、これは決して無視できない確率ですので、小児科医としては避けるようアドバイスすべきでしょう。

タトゥーの除去費用

  • タトゥーを消すのは高額である。6.45平方cmあたりにレーザー1照射につき49-300ドルの費用がかかる。
  • 仮に100平方cm(つまり10cm×10cm)のタトゥーに49ドルのレーザー照射を8回行った場合、433万円かかる。
  • レーザー照射をしても、部分的にしか消えないことがある。

この費用は、タトゥーを入れる前にアドバイスされるべきでしょう。

まとめ

  • 小児科医はタトゥーに対して相談されたとき、衛生と感染症についてアドバイスすべきである。
  • G6PD欠損症患者には赤ヘナは危険である。
  • 黒ヘナはアレルギーの確率が高く、症状も重篤で、避けるべきである。
  • 就職に与える影響をアドバイスすべきである。露出部のタトゥーは避けるようアドバイスすべきである。
  • 除去は高額で、しかも部分的にしかなされないことがあることを事前に説明すべきである。

感想

アメリカ小児科学会がタトゥーに対して「社会的に受け入れられる」という表現を用いたことは意外でした。
いっぽうで、就職へのマイナス影響は強く、除去は高額です。
アメリカ小児科学会はタトゥーに対して否定的ではありませんが、もしタトゥーを入れるなら正しい情報を持ってその決断をしてほしいという意図が見えます。

この提言を現在の日本にそのまま適応できるわけではありませんが、日本でも近い将来同じような状況になることは想定されます。
日本においても、感染や就職の問題はこれから活発に議論されるでしょう。
そして、日本独自の文化として銭湯の問題もあるでしょう。

国際化に伴って、さまざまな文化(菜食主義や宗教など)が流入し、さまざまな問題が起きるでしょう。
とりあえず私にできる準備は「英語を話せる小児科医になること」だと思って、英会話の練習を続けます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。