インフルエンザA型とインフルエンザB型に違いはありますか?

現在のインフルエンザ診断キットは、A型/B型を別々に判定してくれるということは皆さんご存知だと思います。
ですが、インフルエンザA型とインフルエンザB型に区別することに、どれだけの意味があるのでしょうか。

「Aのほうが熱が高くてしんどいんですよね?」

「Aは1月に流行して、Bは3月に流行するんですよね?」

「Aは新型インフルエンザかもしれないんですよね?」

「Aは脳症に注意ですよね?」

「Bのほうが腹痛や下痢などお腹の症状が出やすいんですよね?」

「Bは抗インフルエンザ薬が効きにくいんですよね?

いろいろなウワサを聞きます。
このウワサは一部が正しく、一部は正しくありません。

今回は私がインフルエンザAとBの違いに感じていることを書きます。

A型インフルエンザとB型インフルエンザを区別する意味は?

結論を先に書きます。
私はインフルエンザAとBに大きな違いがあると思っていません。

もちろん小さな違いはあります。
ですが、その差はインフルエンザ診療の根本とは関係しません。
インフルエンザがAであってもBであっても、私が指導する説明は同じであり、治療も同じです。

Aだから特に気をつけるべきことというのはありません。
AもBも等しく要注意です。
その理由を以下に書きます。

AはBに比べて熱が高くてしんどい?

確かに、BはAよりも発症時体温や最高体温が有意に低いという報告はあります。*1
ですが、どちらのほうがしんどいかという検討はなされていません。
さらに、インフルエンザBでも高熱になる人はたくさんいます
Bなら安心という根拠にはなりません。

Aは1月に流行して、Bは3月に流行する?

2016年/2017年はAは1月に、Bは3月にピークがありました。*2
2017-2018年度にはその傾向が見られません。
インフルエンザが流行する時期は毎年少しずつ違います。

Aだと新型インフルエンザかもしれない?

確かに新型インフルエンザはAに相当します。
ですが、Aだからといって新型インフルエンザだとはいえません。
新型インフルエンザ対策は、AかBかで判定するよりも別の対策が必要です。

少なくても2017/2018年のシーズンでは新型インフルエンザは報告されておらず、「インフルエンザAだから新型かも?」と不安になる必要はありません。

Aは脳症に注意?

2009年のインフルエンザ脳症はAが25例、Bが9例でした。*3
AもBも脳症に注意です。

Bのほうが腹痛や嘔吐などお腹の症状が出やすい?

インフルエンザの消化器症状を調べた研究はあります。*4
Aでは腹痛2.2%、嘔吐0.9%に対し、Bでは腹痛5.8%、嘔吐2.9%でした。

これらは有意差がありましたが、絶対リスクでは2-3%の差でしかありません。
Bだから腹痛・嘔吐に要注意というのは言いすぎです。

Bは抗インフルエンザ薬が効きにくい?

昔、タミフルやリレンザがなかった時代の話です。
シンメトレル(アマンタジン)という薬が唯一の抗インフルエンザ薬だったときがありました。
このシンメトレルは当時インフルエンザBには効かない薬でした。
ですので、当時はAとBを区別することに意味がありました。

今はシンメトレルはAにもBにも効きません。
そして、現在のタミフルやリレンザはAにもBにも効きます

一つの調査では、タミフル投与開始から下熱までの日数は平均で1.7日で、A型とB型インフルエンザ患者の間で有意差はなく、A型のみならず、B型インフルエンザにも同程度に有効であったと報告されています。*5

いっぽうで、Aのほうが抗インフルエンザ薬が有効だったという報告もあります。
抗インフルエンザ薬の治療成績では、Aは抗インフルエンザ薬の投与開始後の解熱時間は平均26~29時間程度であるのに対し、Bでは解熱時間の平均は37.5~40.2時間とA型よりもやや有効性が劣り、A型との差は半日程度だったという報告があります。*6
これだけだとAのほうが抗インフルエンザ薬が効きやすく見えるかもしれません。

ですが、インフルエンザAといっても、H1N1pdm09とH3N2では抗インフルエンザ薬への効果に差があります。
H1N1pdm09の治療から解熱まで期間は3.5日であったのに対し、H3N2では1.8日でした。*7
Aのほうが効きやすいのではなく、Aの中のH3N2というタイプで抗インフルエンザ薬が効きやすいのです。
迅速診断キットでは、H1N1pdm09なのかH3N2なのかまで把握できません。

まとめ

インフルエンザAといっても、H1N1pdm09やH3N2などがあります。
Bにも Yamagata系統やVictoria系統があります。
これらは遺伝子系統樹解析でさらに細かいクレードに分けられます。
インフルエンザには無数の種類が存在するのです。

これをAとBの2つだけに分類することに、臨床的な意味はほとんどないと私は感じています。
Aだから、Bだから、という情報に臨床的に助けられた経験は私にはありません。
シンプルにインフルエンザと向かい合うことが、インフルエンザ患者の不安軽減につながることを切望します。

*1 日本医事新報 4252号 Page21-27(2005.10) 2004/2005年冬におけるインフルエンザの解析
*2 国立感染症研究所 https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/iasr/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
*3 インフルエンザ脳症NEUROINFECTION 21巻1号 Page115-120(2016.04) 2009-2010シーズン以降の小児のインフルエンザ脳症の実態
*4 外来小児科 18巻1号 Page88-91(2015.03)  インフルエンザA型とB型の患児での下痢症状の差 ブリストルスケールを用いた下痢症状の評価
*5 感染症学雑誌 (0387-5911)76巻11号 Page946-952(2002.11) 小児のA型及びB型インフルエンザに対するoseltamivirの効果
*6 インフルエンザ (1345-8345)17巻3号 Page159-165(2016.10) 2014/2015シーズンの流行状況と抗インフルエンザ薬の治療成績
*7 小児科臨床 (0021-518X)70巻7号 Page1083-1089(2017.07) 2015/2016シーズンインフルエンザ peramivir治療患者の検討

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。