小児科は何歳まで?プロフェッショナルな小児科専門医の共通点。

2017年3月12日更新。
(小児科は何歳までかについて追記しました)

このブログを立ち上げた理由はいくつかあります。
その中の一つが「いろいろな人に小児科のことを知ってもらいたい」という理由です。

なお、今回の記事は、以前に書いた当ブログの紹介記事の続きにあたります。
まだ未読の方は、こちらも併せてお読みください。

小児科のことを分かりやすく説明するというのは、やってみるととても難しいことでした。
小児科では何歳まで診るか、小児科ではどんな疾患を診るか、その答えが小児科ごとに違うからです。

いっぽうで、小児科医ごとに何もかもが違うわけではありません。
小児科医には、共通したプロフェッショナリズムがあります。

小児科は何歳までで、どんな疾患を診てくれるのでしょうか。
そんな素朴な疑問から始まって、「小児科医とは何か」というテーマについて言及し、最後には小児科医の共通点についても書きます。

小児科の定義

たとえば「小児科というのは、子どもを診察する内科です」と端的な説明してみたとします。
これは実にあいまいです。
子どもの定義と、内科の定義がしっかりしていないからです。

小児科は何歳まで?

子どもというのは何歳までですか?
12歳?
15歳?
第二次性徴が始まるまで?
子どもが「小児科なんて恥ずかしくて行きたくない!」という言うときまで?

小児科が何歳まで診てくれるのか、ほとんどの人が知りません。
知らなくて当然です。
小児科医は何歳まで診てもいいかなんて、医師法でも医療法でも決まっていません。

その小児科医が自信をもって診療できる年齢まで、診てもいいのです。
自信があるのであれば、20歳でも30歳でも小児科で診てかまいません。

私が卒業した奈良県立医科大学は血友病について専門的な小児科でしたので、50歳でも60歳でも血友病患者さんは小児科で診ていました。
(私が学生の時の話です)

小児科では何を診てくれる?

小児科は子どもの内科疾患を診ます。

では、内科というのはなんでしょう?
子どもがちょっとした怪我をしたら、小児科は診てくれない?
やけどは?
中耳炎は耳鼻科と小児科どっちがいいの?
アトピー性皮膚炎は皮膚科と小児科どっちがいいの?

これも知らなくて当然です。
どこまで診てくれるかは、その小児科医によって違うからです。

アレルギーに詳しい小児科医であれば、アトピー性皮膚炎は自分で診るでしょう。
いっぽうで、アレルギーが苦手な小児科医は、きっと皮膚科を紹介するでしょう。

小児科医とは何なのか?

「小児科というのは、子どもを診察する内科です」と最初に定義しました。

しかし、個々の小児科によって何歳まで診るかは異なり、何を診てくれるのかも違います。

つまり「小児科というのは、何歳まで見てくれるか分からない上に、何を見てくれるかも分からないところです」という残念な説明に置き換えられてしまいます。

個々の小児科医について

ちなみに、私が勤務してきた神戸大学も姫路赤十字病院も明石医療センターも「15歳まで小児科で診療する病院」でした。
思春期の中学生を診察するときは、時には産婦人科の先生や、時には消化器内科の先生にアドバイスを受けながら勉強してきましたので、一応15歳までなら自信をもって診られます。
また形成外科の先生からやけど治療の極意をしっかり教わったので、キズパワーパッドのジャンボサイズで覆えるくらいのII度熱傷なら診られます。

ただ、すべての小児科医がそうではありません。
教育を受けてきた環境はすべての小児科医によって異なるので、できることはその小児科によって変わります。

この小児科では12歳まで、ここは15歳まで、ここは高校生まで、ここでは皮膚疾患はみてくれない、ここは耳鏡で耳を診てくれない、ここは心臓エコーをしてくれる、ここは脳波検査をしてくれる……。
小児科を説明するには小児科医の数だけページが必要になってしまいます。

小児科医は日本だけで約15000人いるようです。
小児科医一人を紹介するのに1ページ費やすとしたら、小児科医のバイブル「ネルソン小児科学」をはるかに超えるボリュームの大辞典のできあがりです。
(ネルソンが約3000ページですので、日本の小児科医図鑑はその5倍の分厚さになってしまいます)

そんな大作が書店に置いてあっても誰も買ってくれません。
重さだけで10kgは超えるでしょう。
なんとか自宅まで運び込んだとしても、本棚が壊れてしまいそうです。
という冗談はさておいて、そういう詳細な情報は無意味ではないとは思いますが、小児科を知る、という本質ではないように思います。

いろいろな人間がいて、いろいろな人生があるように、小児科医もいろいろいます。
最新の検査が好きな小児科医もいれば、古典的な診察を重視する小児科医もいます。
東洋医学を好む小児科医もいれば、漢方薬をまったく処方しない小児科医もいます。
特殊な事例をすべて説明していくのは大変ですし、覚えられません。

普遍的な小児科医のプロフェッショナリズム

それよりも、どんな小児科医にも普遍的に当てはまる一般論のほうが有益な情報だと思います。
相対性理論で例えるならば。観測者が等速直線運動する場合にしか適用できない特殊相対性理論よりも、観測者が加速度運動していたとしても適用できる一般相対性理論のほうが優れている……余計分かりにくいですね。

ともあれ、普遍的な小児科医の「核」というものがあれば、それがもっとも有益な情報だと考えます。

私が伝えたいのは、小児科医の「核」となる部分。
できるだけコンパクトで、そしてすべての小児科医に共通する「核」です。
その「核」さえ知っていれば、世界中どこの小児科を受診しても、その小児科のことが分かってしまいます。

「でも、小児科医はそれぞれバラバラじゃないですか。何歳まで診るかも違うし、何を診るかも違うし、そんな小児科医に共通した核があるんですか?」

実はあるんです。
すべてバラバラに見える小児科医にも、プロフェッショナルでさえあれば、必ず共通する価値観・倫理観があります。

その共通した価値感・倫理観こそ「核」です。

「核」にしてしまえば、文字数だって少なくなります。
読むのも簡単だし、覚えやすいです。
こっちのほうがお得だと思いませんか?

プロフェッショナリズムをパールで伝える

実は伝えたいことを「核」にして伝えるというのは、医学の教育現場ですでにされていることです。
指導医から研修医へと語り繋がれてきた知恵は、そのエッセンスが凝縮され、分かりやすく覚えやすく、そして誰もが納得できる「核」となっています。
そこでは「核」ではなくて、「パール」という言葉を使っています。
パールというのはもちろん真珠のことです。
貝の中に「核」となるものと貝殻を作る組織が入りこむと、「核」のまわりをゆっくりとミネラル質がコーティングされていって、真珠になります。
ダイレクトに「核」と言わずに「パール」とちょっとオブラートに包みつつも幻想的な宝石にたとえる辺りが、医者の奥ゆかしさとロマンチックさを感じさせますね(これは自戒を込めた皮肉です)。

単刀直入な臨床上のアドバイスのことを「クリニカル・パール」といいます。

小児科医に限らずすべての医者が知っているパールとして、「後医は名医」というのがあります。
たとえば3歳の男の子が39度の熱を出して小児科の開業医を受診しました。
開業医の先生は丁寧に聴診し、のどを手早く見て、首を触り、耳鏡で鼓膜を観察したうえで「喉が赤いですが、それ以外の所見はありません。おそらく風邪でしょう。風邪薬を出しますね」と言いました。
しかし4日たっても熱が下がりません。
「お医者さんの言う通り、風邪薬はしっかり飲ませているのに。熱は下がらないし、首は腫れてきているし、からだ中にはブツブツができてきて、目も唇も真っ赤になってしまった。きっと誤診されたんだ。あの医者はヤブだ。もっと大きい病院で診てもらわないとわが子の命が危ない」と考えた親は、大病院に連れていきました。
待合室で2時間待って、ようやく診察室に入れたと思ったら、小児科医に「ああ、川崎病ですね。入院しましょう」と言われました。
「さすがは大病院の先生、一目見るだけで診断できてしまうなんて! やはり大病院の先生は名医だなあ」と親は思いました。

……どうでしょうか、これが「後医は名医」です。
発熱初日で川崎病を診断することは絶対にできません。
そして発熱5日目にこれだけの症状がそろった川崎病を見逃す医者もいません。
この大病院の医者は名医でもなんでもなくて、普通の小児科医です。
むしろ丁寧に全身を診察した最初の小児科医のほうが名医のような気がします。
時間が経てばいろいろな所見が目立ってくるので、後から診察する医者のほうが簡単に診断できるのです。
だから名医に錯覚してしまいます。

というように、これだけ長いメッセージが「後医は名医」というたった5文字に凝縮されています。
5文字のほうが覚えやすいし、分かりやすいでしょう。
ことわざや慣用句にも似ているかもしれませんね。
先人から先人へと脈々と受け継がれてきた簡潔な教訓です。

他にも「女性を見たら妊娠を疑え」というパールもすべての医者が知っています。
妊娠しているかどうかは検査がとても簡単であるうえに、妊娠していれば使えない薬、してはいけない検査があるので、妊娠は真っ先に除外しなければいけないのです。
こういうのが面白いと思うのでしたら、カリフォルニア大サンフランシスコ校内科学教授で、診断の達人と呼ばれるローレンス・ティアニーがたくさんのクリニカル・パールを教えてくれます。「ティアニー先生のベスト・パール」という本がベスト・セラーのようです。

小児科医の価値観・倫理観・目線・診断技術など、そういうことをすべてひっくるめた「小児科医の考え方」をできるだけ分かりやすく知っていただくために、それぞれをパールにしてお伝えしようと思います。

小児科医ならなんとなく分かるであろうパールは次のようなものです。

  • 子どもは小さな大人ではない。
  • 子どもに悪い子はいない。
  • ヤブ医者の病人選び。
  • 所見は生もの。
  • 沈黙は金。
  • 「お風呂に入っていいですよ」は魔法の言葉。
  • 「何かあったら来てください」では、いつ来たらいいのか分からない。
  • 笑顔が戻れば、退院は近い。
  • 誰でも分かるカルテを。
  • 治らないのは親のせいではない。
  • かぜ薬はかぜを治す薬ではない。
  • かぜに抗生剤は無効。
  • 熱も咳も鼻水も生体防御反応。
  • 薬の味を知れ。
  • 薬はお土産ではない。
  • 小児科医こそ仁術。
  • 研究は希望である。
  • 教うるは学ぶのなかば。
  • 真っ先に手を挙げろ。
  • 同じ川崎病患者はいない。
  • 地図もコンパスも必要。
  • 親こそ最大の小児科医である。
  • ヒポクラテスの誓いを思い出せ。

このパールの詳しい意味は、いくつかは記事にしましたし、まだのものはこれから記事にしていきます。

まとめ

小児科医は何歳まで?という素朴な疑問から始まって、小児科医とは何かというテーマについて考えてみました。

いろいろな小児科医がいます。
12歳までしか診られない小児科医もいれば、疾患によっては60歳まで診られる小児科医もいます。

すべてバラバラに見える小児科医ですが、共通したプロフェッショナリズムをを持っています。

そのプロフェッショナリズムの一部をパールとして表現してみました。
そしてこのブログでは、こういったパールを紹介し続けます。

このパールさえ伝わっていれば、「小児科は何歳まで?」とか「小児科は何を診てくれる?」とかそういう疑問は、ささいなことになるはずです。

とにかく、自分の子どもが困っていたら、小児科に連れてきてください。
その小児科医が診られない年齢であったり、診られない疾患であったなら、その小児科医が責任をもって、どこの病院に行くべきかを教えてくれます。

「小児科医は何でも診ます」というのもパールの一つです。
パールのうちの一つがあなたの心に響いて、小児科医のことが少しでも理解できて、安心して子どもを小児科に連れていくことができるようになれば幸いです。

また、これから子育てを考える人、もしくはもう終えた人、そして小児科医を目指そうと考える学生にもぜひ読んで頂けると嬉しいです。

このブログを読んでいろいろな人が小児科に興味を持ってくださって、小児科医を理解してくれるようになって、理解の結果私たち小児科医がもっと働きやすい環境になって、小児科志望者も増えて、小児科医不足も解消して、お父さん・お母さんが子育てしやすい環境になって……という好循環のきっかけになることを切に望みます。