子どもの突然死と対峙するために。小児救急医療の実際。

命を救うことを目標として診療にあたっていますが、どうしても救えない命にも遭遇します。

長い闘病生活の末に亡くなるというケースもありますが、突然死のように誰も予期しえなかった死というケースもあります。
2017年2月8日に、松野莉奈さんが18歳にして亡くなられましたが、これはまさに後者のケースでしょう。

そのような突然死に対峙したとき、小児科医がどのような対応をしているのかを今回書きます。
なお、この記事は小児科診療2013年5月号の”救急室で遭遇する「死」に対峙するために”のテキストを参考にしました。

突然死との遭遇

突然死について、世界保健機構(WHO)は、発症から24時間以内の予期せぬ内因性(疾病による)死亡と定義しています。
ですが、ここでは便宜的に、交通事故やプールでの溺死を含めた、予期できなかった死亡のことを突然死と定義します。

小児科医が突然死と遭遇するとき、救急隊から「心肺停止の子どもを受け入れて欲しい」という連絡から始まります。

心肺停止という状況は様々です。
目撃者がいて、速やかに胸骨圧迫が始まって、すぐに救急要請がされ、倒れてから10分以内に病院に運び込まれるケースもあります。
一方で、目撃者が誰もおらず、朝に冷たくなった状態で発見され、救急車を呼ばれるケースもあるでしょう。

前者のケースであれば、懸命な蘇生に反応しなかった場合、死亡します。
後者のケースで、もう死後硬直が始まっているのであれば、積極的な蘇生はされず、救急外来では死亡確認だけをされるかもしれません。
どちらのケースであったとしても、死亡確認される場所は、多くが病院の救急外来でとなります。

救急外来の特徴

救急室は、プライバシーが必ずしも保たれる場所ではありません。
救急室は蘇生処置がしやすく、観察がしやすい環境にしてありますから、隣のベッドで処置している別の患者さんからも見えてしまう可能性があります。

また、心肺停止となった子どもの親と小児科医は初対面というケースも多いです。
信頼関係がまったく出来上がっていない状況で、子どもの死という最悪な事態と直面することになります。

救急外来というのは、子どもの死を受け入れるにはとても過酷な環境です。
家族に対してどのような倫理的配慮が必要かは、こちらの記事を参照ください。

子どもの突然死において小児科医が配慮する5つの倫理的問題。

2017.02.14

突然死の対応

全力の蘇生にも反応せず、不幸にも救急外来で子どもが死亡したあと、小児科医がしなければならないことを挙げます。

現場・現物の保存

死亡原因がはっきりしていない場合、虐待による死亡が疑われる場合、医療過誤の有無が問われる場合、挿入した留置針を1本も抜いてはいけないと「内科医・小児科研修医のための小児救急治療ガイドライン(2011)」に書いてあります。

上記のケースはいわゆる「異状死」です。
異状に関する重要な証拠となりえますので、小児科医は現場を保存しなければなりません。

異状死において保存すべきものは以下です。

  • 使用した注射器、投与中の点滴、投与薬剤の残り、アンプルの残りなど
  • 点滴チューブ、カテーテル、気管挿管チューブなど
  • 血液、尿、胃内容物など患者から採取したもの
  • モニター記録、レントゲン写真、心電図などの検査記録
  • その他、関連文書のコピーなど

警察への届け出

医師法21条には、「医師は、死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とあります。

「異状」の定義は、実はあいまいです。
法律でも明確に決まっていないようです。

日本法医学会の異状死ガイドラインでは、「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外のすべての死体」とされます。

救急外来に心肺停止で運び込まれ、そのまま死亡してしまった子どもに「確実に診断された内因性疾患」があるはずがありません。
したがって、私たち小児科医が遭遇する突然死は、すべて「異状死」と考えるべきです。

松野莉奈さんが病院で死亡を確認されたケースも「異状死」ですから、速やかに警察に届けられます。

非犯罪死体か犯罪死体に分類する

異状死体は、死因を究明にするために、検死されなければなりません。
どのような検死受けるかは、その死体が犯罪に関わるかどうかで決まります。

犯罪が関わっているかどう分からないときは、一時的に「変死体」と分類されます。
変死体は「行政検死」と呼ばれる警察官による検死が行われ、非犯罪死体なのか犯罪死体なのか決定されます。

解剖による死因の究明

非犯罪死体は、行政解剖か承諾解剖がなされます。
犯罪死体については、司法解剖がなされます。

行政解剖

行政解剖は、監察医制度がある5都市(東京23区、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市)で行われます。
解剖は監察医によって実施されます。
行政解剖には遺族の承諾は不要ではありますが、丁寧な説明が必要です。
解剖の必要性については後述します。

承諾解剖

監察医制度がない一般的な地域では、承諾解剖が行われる可能性があります。
これは文字通り遺族の承諾が必要です。
具体的なデータは持ち合わせていませんが、承諾解剖が行われるケースは(残念なことに)多くないようです。

司法解剖

犯罪の疑いがある場合に実施されます。
検察官・司法警察官の依頼によって、嘱託を受けた専門家によって実施されます。
遺族の承諾は不要です。

画像検査による死因の究明

私が経験したケースでは、警察から頭のCTを依頼されたことがあります。
これは「死後画像(autopsy imaging、略してAi)」といいます。

日本医師会の「医療・医学におけるAi活用に関する検討委員会」では、小児死亡例全例にAiは実施されるべきということです。
ですが、Aiは死亡の影響を受けるため、読影が非常に困難です。
また、現在の保険医療は「生きている人」を対象としていますので、死亡した人のCTにかかる費用を負担できる人がいないという問題もあります。

帰宅

解剖が実施された、または承諾解剖で承諾が得られなかった場合は、ようやく遺体が遺族の元に戻されます。
遺族は遺体を引き取って、帰宅します。

死体検案書の発行

死亡診断書は診療継続中の子どもが、それと原因した疾患で死亡した場合に発行されます。
医師法20条には「死亡前24時間以内に診察があり、かつ死因が明らかに診察中のものである場合は死亡診断書が作成される」とあります。
白血病で長期入院中の子どもが病棟で亡くなった場合は死亡診断書になります。

上記以外のケースは、すべて「死体検案書」になります。
突然死は必ず「死体検案書」になるでしょう。
松野莉奈さんの場合も、死体検案書になります。

死体検案書は不備がないように注意して書きます。
もし不備があれば、死亡届が市役所に受理されず、遺族はまた病院にこなければならなくなります。
子どもを失って、精神的に苦しい両親を、また病院に来てもらって、また市役所に行ってもらって、というのはあまりにも酷です。
死体検案書は細心の注意を払って書きます。

死因は安易な推測をしてはいけません。
子どもの突然死は致死性不整脈であることが多いです。
突然死の原因として多い致死性不整脈については、こちらの記事を参照ください。

致死性不整脈。18歳以下の心臓系突然死の原因と小児科医の見解。

2017.02.11
ですが、証拠がなければ、それを死因としてはいけません。
分からない時は「不詳」とすべきです。

交通事故や溺死でない突然死は、解剖がなされなければ「不詳死」となるでしょう。
(ちなみに、解剖されても原因が必ずしも解き明かされるとは限りません)

解剖に関する承諾

子どもを解剖するにあたって、親の承諾を得る必要があります。
子どもを失ったばかりの親に、この承諾を得るのは非常に酷なことです。
また、剖検をすれば必ず死因が分かるわけではありません。
死んだわが子にメスを入れられ、そして死因が分からないということも十分にあります。

死因が分かっても子どもが生き返ることはありません。
それでも、死因を究明することを放棄してはいけないと思います。
死因は、残された家族が精神的に立ち直るのを手助けします。
また、将来子どもの死亡を予防するための貴重なデータが得られるかもしれません。

まとめ

子どもは親よりも長生きするのが当然だと考えます。
ですが、不幸なことに親よりも先に子どもが死んでしまう場合があります。

稀ではありますが、とてつもなく大きな重みを持った死に直面するのが小児科医です。
そして、子どもの死という最悪の悲しみを抱えた親に寄り添えるのも小児科医です。

何が正解というわけではありません。
こうすれば親は立ち直る、という方法などありません。
それでも、死は医療の終わりではなく、まだ続くという気持ちをもって、小児科医は誠心誠意遺族と向き合わなければいけません。

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