前回、亜鉛が風邪に効くのかについて書きました。
牡蠣30個を口の中でずっとモグモグしておくことは無理だと書きました。
今回は、亜鉛が下痢に有効かについて書きます。
このページの目次です。
亜鉛は下痢に有効か
今回紹介する論文はこれです。
面白そうなところを中心に、訳してみます。
背景
2018年、約50万人の子どもたちが下痢で死亡しました。
世界保健機関(WHO)と国連児童基金(ユニセフ)が推奨するケア(経口補水療法や亜鉛補給)を用いれば、これらの死亡の大半は回避できたでしょう。
WHOとユニセフは現在、小児の急性下痢の管理には、経口補水療法に加えて、1日20mgの亜鉛を10~14日間補給することを推奨しています。
亜鉛を補給することで下痢の期間が短くなる可能性があるためです。
亜鉛は金属味があって飲みにくく、胃を刺激して嘔吐を引き起こす可能性があります。
亜鉛の投与量が多いほど、嘔吐のリスクは高まります。
11の急性下痢症試験(n=4438)のメタアナリシスでは、亜鉛の補充投与を受けた被験者は、プラセボ投与よりも嘔吐する可能性が有意に高かったです(12.7%対7.6%;RR:1.55;95%CI:1.30~1.84)。
別のレビューでも、生後6ヵ月以上の小児で亜鉛の補充で嘔吐のリスクが有意に高くなりました(リスク比1.57、95%CI 1.32~1.86;小児2605人、6試験)。
亜鉛の低用量投与は、下痢に有用で、かつ嘔吐の副作用が少ないかもしれません。
そこで我々は、低・中所得国において、低用量の亜鉛と現在の推奨用量を比較するランダム化二重盲検対照試験を実施しました。
方法
インドとタンザニアにおいて、生後6ヶ月から59ヶ月までの小児で、72時間未満の急性下痢または血便がある児を対象に、3種類の亜鉛の補給量(5mg、10mg、20mgをそれぞれ1日1回、14日間)を個別に無作為化した並行群間二重盲検対照試験です。
4~6時間以内に改善できない重度の脱水症がある児や、水分摂取ができない児は除外されています。
- 下痢の持続期間が5日以上の小児の割合
- 亜鉛投与後の下痢便の回数
下痢とは、1日に3回以上の緩い便または水様便の発生と定義しました。
主要な副作用は、14日間の治療中における亜鉛投与後30分以内の嘔吐の発生としました。
結果
2017年1月から2019年2月にかけて、下痢症の子ども4500人が登録され、3つの群に無作為に割り付けられました。
5日以上の下痢を発症した子供の割合は、標準的な20mg群では6.5%、10mg群では7.7%、5mg群では7.2%で、差はありませんでした。
下痢便の平均回数は、亜鉛5mg群で10.8回、10mg群で10.9回、標準20mg群で10.7回で、差はありませんでした。
副作用(亜鉛内服後30分以内の嘔吐)については、20mg投与群では19.3%でしたが、亜鉛5mg投与群では、13.7%で嘔吐リスクが29%低かいという結果でした(RR 0.71、97.5%CI 0.59~0.86)。
亜鉛投与後30分以上の嘔吐についても同様の効果が認められました。
結論
亜鉛5mg投与は、20mg投与と同様に下痢に有効ですが、副作用の嘔吐は少ないようです。
感想
1日1回5mgの亜鉛投与で有効であるなら、「とりあえずやってみようか」と思える治療ではあります。
少なくても風邪のときのように「1日6回の亜鉛トローチを口の中でゆっくり溶かして飲む」よりは気軽でしょう。
ただ、20mg投与に比べてリスクが少ないとはいえ、胃腸炎で脱水が懸念される状況での「嘔吐」という副作用はかなり厄介です。
そもそも胃腸炎で心配なのは、下痢よりもむしろ嘔吐であると思います。
きれいな水が簡単に手に入る日本では、下痢をしていても、しっかり水分を飲ませればよい話です。
ですが、嘔吐していると水分を与えるのが難しくなります。
下痢が早く治っても、嘔吐のリスクが高まる亜鉛投与に、私は魅力を感じません。
今回の研究は「WHOが有効としている亜鉛20mg投与」と比較しています。
このデザインは良いと思うのですが、個人的にはやはりプラセボと比較して欲しかったです。
本当に亜鉛5mg投与でも下痢は短縮できているのか、また5mg投与はどれほど嘔吐リスクと関連しているのかを知りたかったです。
あと、今回の研究は、インドとタンザニアのものです。
過去の研究も発展途上国を対象としており、もともとの栄養状態がよい日本でも亜鉛が下痢に有効とはいえないでしょう。
- 亜鉛で下痢は早く治るのかもしれないが、嘔吐リスクが高まっては本末転倒
- 本当に亜鉛5mg投与で下痢が早く治るのか
- 日本での有効性も不明
以上から、現時点では下痢に対して私が亜鉛を推奨することはありません。