10歳、40㎏の児童へのタミフルの投与量は?

このような質問を頂きました。

「10歳で体重40㎏を超えている児童への、タミフルの投与量に悩みます。経験がある先生の考えを教えてください」

タミフル、一般名オセルタミビルは1日4mg/kg投与する薬です。
たとえば1歳、10kgの子どもには1日40mgを朝晩に分けて投与します。

40kgなら、1日160mgでしょうか?
ですがタミフルを大人に投与するときは、1日150mgです。
子どものほうが、大人よりもたくさん投与するのは変な感じです。

今回は、小児における投与量の上限について考えてみます。

成人・小児の定義

まず、成人と小児の定義を考えてみましょう。

20歳からお酒が飲めるとか、国民年金に加入するとか、18歳から選挙で投票できるとか、そういうのは社会的な成人です。
生物学的な成人、すなわち肝機能や腎機能が成熟する時期というのは、個々のケースで異なります。
そのため、「ここからが成人です」とは明確には決まっていないと思います。
これは、小児科は何歳まで、内科は何歳からというのが決まっていないのと似ています。

それでも、決めておかないといろいろ困りますので、一応定義があります。
たとえば、米国心臓協会では、小児とは思春期までとしています。

小児二次救命処置AHAガイドライン2015準拠にもこうあります。

「小児」とは1歳から思春期までを指す。思春期の徴候としては、男子の場合は胸毛または腋毛、女子の場合は乳房発育を挙げることができる。

小児二次救命処置AHAガイドライン2015準拠 p15


日本蘇生協議会でも、小児とは思春期まで、おおむね中学生までとあります。

一般的な薬を処方するのに、思春期の徴候を確認するのは、医学的な必要性よりも、プライバシー配慮というデメリットのほうが大きいと私は考えます。
おおむね中学生まで、すなわち15歳までという定義のほうが簡便です。

また、薬局で買えるOTC医薬品にも、たいてい大人(15歳以上)と書いてあります。

したがって、私は基本的に15歳以上は成人量で処方します。
そして、15歳未満には小児量で処方します。

基本的には添付文書の最高用量を守る

処方の基本は添付文書です。

「偉い先生がこう言ってたから」とか、「アメリカではこの量なんです」とか、大いに結構です。
ですが、薬事承認されているのは添付文書上の効能・効果、用法・用量であり、薬事承認と保険適用はほぼ同一です。

もちろん例外はあります。
医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議で妥当とされたものは、薬事承認された効能・効果、用法・用量でなくても、保険を適用することができます。
また、審査情報提供事例に認められた場合も、保険適用できます。
詳しくはこちらに書きました。

社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例。

2017年6月10日

そういう一部の例外を除けば、添付文書を守るというのは大切です。
共通のルールが存在することで、薬剤師の先生からの確認、アドバイスも受けられるようになります。
「偉い先生がこう言ってたから」とか、「アメリカではこの量なんです」とかでは、処方した医師にアドバイスできる人は誰もなくなってしまいます。
もし計算ミスや入力間違いで10倍量になっていても、誰もアドバイスできないという状況はハイリスクです。
PALSっぽく言うと「建設的介入ができず、チームダイナミクスが崩壊した状況」です。

ちなみに、タミフルは1日4mg/kgの薬です。
では40kgであれば1日160mgと思われるかもしれませんが、添付文書に「1日最高用量は150mg」と書いてあります。
ですので、これに従うのが基本です。

添付文書に最高用量が書いてない場合

タミフルのように、添付文書に上限量が書いてあれば、迷わなくてすみます。
ですが、書いていない薬もあります。

たとえば、去痰薬としてよく処方されるカルボシステインは、成人では1日1500mg、小児では1日30mg/kgです。
添付文書上は、小児の上限量は記載されていません。

極端な話ですが、13歳で体重70kgという小児に対し、1日2100mg処方するのでしょうか。

小児における薬物代謝速度や腎排泄速度が個体当たりで成人を超えることは通常ありません。
そのため、成人の常用量を超えて小児に投与することは適切ではないと考えます。

上限量を記載されていない薬は、成人量でいいと思います。
したがって、小児科ファーストタッチでは、カルボシステインの1日の最高用量は1500mgとしています。

ちなみにタミフルの成人量は1日150mgです。
これは、最高用量と同じです。

海外の添付文書も参考にしてみる

ちなみに、タミフルはアメリカではどうなっていると思いますか?
アメリカの添付文書を確認するにはDailyMedがおすすめです。

DailyMedというアメリカ国立医学図書館が運営するサイトは、最新かつ正確な医薬品情報を提供します。
DailyMedの情報は、アメリカ食品医薬品局(FDA)から提供されています。

DailyMedでタミフル(オセルタミビル)を検索すると、アメリカでは実は単純な体重計算ではなく、年齢と体重で調整されていることが分かります。
たとえば12歳以下で23.1 kgから40kgまでだと、1日120mgです。
そして40.1kg以上または13歳以上だと1日150mgです。

そのため、今回の質問が「10歳、40kg」であるなら、アメリカ量は1日120mgとなります。
日本より量が減るのは興味深いです。

日本の添付文書に最高用量がなかったり、乳児量がなかったりしたとき、アメリカの添付文書が参考になることがあります。
たとえば、1歳未満に対するタミフルは、アメリカの処方状況を参考に導入されました。
これについては、ここに書きました。

タミフルが1歳未満で使用可能に!臨床現場で何が変わる?

2017年1月19日

余談:アモキシシリンの最高用量

アモキシリリンという抗菌薬。
日本の添付文書ではこうあります。

成人
アモキシシリン水和物として、通常1回250mg(力価)を1日3〜4回経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

小児
アモキシシリン水和物として、通常1日20〜40mg(力価)/kgを3〜4回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量として最大90mg(力価)/kgを超えないこと。

抗菌薬はとにかく最大量投与することを是とする風潮が強くなってきています。
1日90mg/kgというと、たとえば10歳、40kgの子どもでは3600mg使うのでしょうか。
13歳70kgでは、6300mgなのでしょうか。
これは成人量をはるかに超えていますが、成人量を上限とするのでしょうか。
それとも成人量を超えていいのでしょうか。
そして15歳になった瞬間に成人量に減らされるのでしょうか。

ここで、DailyMedでAMOXICILLINについて調べてみましょう。
重症な下気道炎に対して、成人量は1日1500mgになっています。
そのため、たとえば小児に1日1500mgまで投与するのは問題ないと考えます。

いっぽう、クラバモックス(アモキシシリン・クラブラン酸)という薬では、37-39gの子どもに対してアモキシシリン換算で1日3600mg投与します。
小児に1日3600mgまで投与するのも問題ありません。

再びDailyMedに戻って、40kg以上については次の記載があります。

The children’s dosage is intended for individuals whose weight is less than 40 kg.
Children weighing 40 kg or more should be dosed according to the adult recommendations.

これに基づけば、13歳70kgでは、6300mgというのはさすがに多すぎるでしょう。

ここまで書いて、アモキシシリンの最高用量は1日3600mgと言いたいのですが、これはなかなか難しいです。
10歳であれば錠剤やカプセルが飲めるでしょう。
1錠250mgであれば……ここで、問題が発生します。
250mg錠では3600mgをうまく割り切れません。
越えるわけいはいきませんから、1回4錠、1日3回、1日12錠とすれば、1日3000mgです。

粉薬であればこの問題はありません。
しかし、アモキシシリンは10%製剤や20%製剤がありますが、いずれにせよ3600mgという量は非常識と断定していいくらいに多い量です。
クラバモックスはアモキシリリン換算で約60%製剤なので、なんとか飲めます。
ですが、通常のアモキシシリンでは無理です。

1日の最高用量3600mgという仮定があまりよくなかったように思います。
以上から、小児科ファーストタッチではアモキシシリンの最高用量は1日1500mgとしました。
いわゆる成人における重症量を小児の上限としました。
これでも、5歳16kgの子どもに1日1440mg処方すると、なかなかすごいことになりますけど。

今後、最高用量について明確な指針ができ、小児医療が統一されることが、チーム医療という観点から望ましいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。