熱性けいれん予防薬ダイアップの適用について再考してみる。

丹波医療センターには、南アフリカから来た医師(ノエル)がいます。
ノエルは「日本は熱性けいれんがとても多いデスネ」と言います。

日本では、7-11%の子どもが5歳までに1度は経験します。(熱性けいれん診療ガイドライン2015)
世界的には、熱性けいれんの有病率は2-5%です。(Epilepsia. 2006 Sep;47(9):1558-68.)
日本は世界に比べて、3倍くらい熱性けいれんが多いということもできるでしょう。

つまり、ノエルの実感は正しいのです。

彼は続けてこう言います。
「熱性けいれんは予防薬があるのですから、なぜ使ってあげないデスカ?」と。

今回は、熱性けいれん予防薬の適用について書きます。

熱性けいれん予防薬ジアゼパム(ダイアップ®)

熱性けいれんの予防としてジアゼパム坐薬(ダイアップ®)があります。
使い方は少し複雑で、37.5℃以上の発熱があれば投与し、8時間後にも38℃以上の発熱があれば再投与します。

熱性けいれんガイドラインにおけるジアゼパムの立ち位置についてみてみましょう。

熱性けいれんの既往がある小児において、発熱時のジアゼパム投与は必要か?

熱性けいれんの再発予防の有効性は高い。
しかし副反応も存在し、ルーチンに使用する必要はない。

熱性けいれんガイドライン2015 p50

ガイドラインを読み進めると、ジアゼパムの効果を示した論文がいくつか出てきます。
30年以上前のものではありますが、熱性けいれん再発率を39%から12%に減らせたという論文もありました。(J Pediatr. 1985 Mar;106(3):487-90.)

これを読んだノエルは「こんなに効くのでしたら、みんなに使ってあげたらいいじゃないデスカ」と言いいます。

現在、日本では熱性けいれんを起こした人全員にジアゼパムを予防投与するということはありません。
適用基準があります。
たとえば15分以上続くけいれんをしたときは、予防投与の対象となります。
他にも、けいれんの家族歴や、24時間以内に繰り返すといった要素を複数併せもった状態で2回以上けいれんしたときも、予防の対象になります。

つまり日本では、熱性けいれんを繰り返すリスクが高い患者さんにはジアゼパム予防をします。
いっぽうで、リスクの低い患者さんには基本的には予防をしません。(地域の医療事情によっては予防することもあります)

リスクの低い患者さんに対しても予防すべきなのでしょうか。
そんなことを考えていると、ノエルが論文を一つ見つけてきたので紹介します。

熱性けいれんを1回経験した児に予防投与をしてみた

今回紹介する論文はこれです。
Intermittent clobazam prophylaxis in simple febrile convulsions: a randomised controlled trial(Int J Contemp Pediatr. 2019; 6: 732-735)

無料で全文読めるのは嬉しいですが、pubmedには掲載されておらず、若干の怪しさが感じないわけではありません。
ですが、せっかくノエルが見つけてきたことですし、読んでみましょう。

インドの論文です。
熱性けいれんを1回以上起こしたことがある2歳前後の子ども184人が研究に参加しました。
そのうち8人は研究から脱落しました。

クロバザム群は、熱が出たら48時間の間はクロバザムを1日2回内服します。(つまり、熱が出たらクロバザムを4回内服します)
たとえ途中で解熱したとしても、48時間はクロバザムを飲み続けます。
プラセボ群は、プラセボを飲みます。

この研究の手法をプラセボ対照二重盲検比較試験といいます。

どちらの群も、解熱薬は積極的に使ったようです。

クロバザム群87人は1年間でのべ257回発熱しました。
けいれん回数は10回(3.9%)でした。

プラセボ群89人は1年間でのべ270回発熱しました。
けいれん回数は38回(14.1%)でした。

この結果には有意差があります。
クロバザムは熱性けいれんを予防する効果があり、そのNNTは9.7でした。

副作用については、嘔吐や興奮、鎮静、不安、頭痛、腹痛について比較されましたが、クロバザムに明らかな副作用はありませんでした。

この結果をどう解釈するか

熱性けいれんの再発率を39%から12%に減らした論文にしかり(J Pediatr. 1985 Mar;106(3):487-90.)、今回のように14.1%から3.9%に減らした論文にしかり、熱性けいれん予防薬というのは、熱性けいれんの頻度をおおむね1/3にするのでしょう。

リスクを1/3にしてくれるというと、すごく大きな効果に感じます。

もともとの再発率が15%であれば、予防投与によって再発率を5%にできますが、そのときのNNTは10です。
NNTというのは1回のけいれんを予防するのに、何回薬を投与するのか、という数値です。
計算式は100をリスクの差で割ります。
今回で言えば100÷(15-5)です。

つまり、けいれん予防薬を10回投与すれば、1回の熱性けいれんを予防できるということになります。
これを裏返せば、10回中9回は予防薬を投与する必要がなかったともいえます。

再発リスクが高い児であれば、たとえば再発リスクが45%だとすれば、予防によって再発リスクを15%にできるかもしれません。
このとき、NNTは3.3になります。
つまり、3.3回の投与で熱性けいれんを1回予防できます。
子どもが熱を出す頻度はおおむね1年間に3回ですので、NNTが3あれば1年に1回熱性けいれんを予防してくれます。

ちなみに、リスクが高ければ高いほど、NNTは上がります。
つまり、けいれん予防薬に期待される効果が上がります。
これを通称「数字のマジック」と言います。

副作用についてはどうでしょうか。
どうやらクロバザムの副作用は少ないようです。

日本では、熱性けいれん予防目的にクロバザムは使われていません。
その効果はジアゼパムと同等とされています。(Indian J Pediatr. 2011 Jan; 78: 38-40. )
(同論文では、副作用はクロバザムのほうが少ない可能性を指摘しています)

日本におけるジアゼパムにしても、とても危険な薬だという認識は私にはありません。
必要な時には、躊躇なく使うべき薬だと認識しています。
いっぽうで、中枢神経に作用する薬ですから、無用な投与は避けたいという気持ちもあります。

以上を私が主観的にまとめると、「熱性けいれんの予防はNNT10であれば躊躇するけど、NNT3であれば投与する価値はある」と感じました。
NNT3であれば、毎年ジアゼパムの恩恵を受けることができます。
NNT6であれば、2年に1回はジアゼパムの恩恵があるので、考慮するという印象です。
完全に私の主観です。

NNTを3にするためには、予防効果が高い薬の開発という方向性もありますが、再発リスクの高い患者を選んで投与するという方向性が現状可能な選択肢です。(もし予防効果100%の薬が開発されたとしても、そもそもの再発率が15%でしかなければ、NNTは6.6にしかなりません)
これは熱性けいれんガイドラインに記載された「けいれん予防薬はルーチンに投与すべきではなく、リスクが高い子どもに限定されるべきだ」という文言と同じ姿勢になります。

まとめ

ノエルの「熱性けいれんは予防薬があるのですから、なぜ使ってあげないデスカ?」という疑問から始まって、ジアゼパム坐剤の適応について再考してみました。

  • 熱性けいれんの再発予防の有効性は高い。
  • 再発リスクの高い子どもには特に有効性が高い。
  • したがって、再発リスクが高い子どもに対してジアゼパム予防投与をする。

論文によって何かが分かったというより、論文を通じて自分の気持ちをあらためて整理できました。
あらためて整理した結果、ガイドライン通りの内容に落ち着きました。

なお、解熱薬が熱性けいれんを予防するかどうかも興味深い疑問です。
興味がある方は、こちらの記事をどうぞ。

解熱薬は熱性けいれんを予防しますか?

2018年11月25日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。