子どもの咳。ガイドラインと小児科医としての経験。

咳は、発熱に次いで小児科外来の患者さんに多い症状です。

患者さんが病院に来る理由のことを医学用語では「主訴(しゅそ)」といいますが、今日の小児科外来で最も多かった主訴は「発熱、咳嗽(がいそうと読みます。いわゆる咳のことです)、鼻汁」です。
この主訴は季節問わずいつも多いですが、今の季節はこの主訴が多いように思います。

冬がやってきた、ということなのでしょう。

今回は、私が子どもの咳をどのように対応しているのかを書きます。

咳嗽に関するガイドライン第2版( 2016年)

咳にはガイドラインがあります。
発熱のガイドラインや鼻汁のガイドラインはありませんが、咳にはガイドラインがあるんです。

「咳」というのは病名ではなく、症状の一つです。
病気に対してはたくさんのガイドラインがありますが、症状に対してガイドラインがあるというのは珍しいです。
(他にないわけではないんですけどね。血尿ガイドラインとか、熱性けいれんガイドラインとかも症状に対するガイドラインと言えますし)

咳をひき起こす病気はたくさんあり、子どもと大人とでは考え方も異なるのに、それを一つのガイドラインでまとめ上げたは大変な労力であったと推察します。

咳嗽に関するガイドライン第2版( 2016年)は一般公開されています。
このガイドラインには、以下の記載があります。

  • 咳嗽とは、気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生態防御反応である。
  • 中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。
  • 小児急性咳嗽のほとんどの原因は、鼻炎・ 鼻咽頭炎などウイルス性の上気道感染症である。
  • 大多数の小児の急性呼吸器感染症による咳嗽は、1-3週間以内に収まる。
  • (後鼻漏による咳は)治療としては鼻汁に対する局所的な処置(鼻汁吸引など)が奏効することが多い。

これらのガイドライン情報をもう少しかみ砕きつつ、ガイドラインのない情報(私の経験やハチミツに関する論文など)を交えて、説明します。

咳の役割

鼻や口から肺に至るまでの空気の通り道のことを「気道」といいます。
この気道に空気以外の余計なものが入らないように防ぐのが、咳の役割です。

咳が出なければ気道の細菌やウイルスを排出できずに、肺炎になってしまうかもしれません。
また咳で痰を排除できず気道が閉塞してしまい、肺に空気が入らず「無気肺」と呼ばれる状態になる可能性もあります。

咳は正常な呼吸を維持するという重要な役割があります。
咳をすることで気道をクリニーングし、体を守ってくれているのです。

咳の原因

咳には非常にたくさんの原因があります。
子どもに多いのは、やはり「風邪」による咳でしょう。

風邪による咳の一般的な経過は、最初の2、3日「コンコン」とした乾いた咳で、その後「ゴホンゴホン」と“痰が絡んだ咳”が1~2週間続きます。

子どもの咳の性質が変わってくると「悪化したんじゃないのか」と心配されるお母さんも多いと思います。
もちろん気管支炎や肺炎を伴った「湿性咳嗽」であることもあるのですが、多くの場合は風邪の自然な経過であることが多いです。

アレルギー性鼻炎や気管支喘息による咳もよくみられますが、これらは症状として咳だけが前面に出ることは少ないので、他の症状や経過と照らし合わせて診断します。

受診の目安

子どもが咳をしている場合、どのタイミングで病院に行けばいいのでしょうか。

これには一定の基準というものはありません。
ガイドラインにも受診の目安は書かれていません。

私の個人的な意見としては「子どもが咳で苦しくて困っているように感じるなら受診しましょう。逆に、咳をしていても日中は普段通り遊べていて、夜も咳こんで頻繁に起きるというわけでなければ、様子を見ていてよいですよ」というアドバイスをすることが多いです。
咳をしていても、日常生活に大きく差し支えなければ様子見で良いでしょう。

経過も大切です。
数日見て、だんだんと治ってくる場合は様子見でよいでしょう。
ですが、だんだん酷くなってくる場合は医療機関を受診しましょう。

また、咳以外の他の症状も重要です。
発熱を伴っており、2~3日様子をみても熱が下がらない場合は受診を勧めます。

呼吸が苦しそうな場合や、咳き込んで夜が眠れない場合、また咳き込んで水分が摂れず尿量が減ってくる場合も受診したほうがよいでしょう。

咳の治療

私は基本的に、“咳は呼吸を維持するために重要である”という考えを持って治療しています。
ガイドラインでも中枢性の鎮咳薬をできるだけ控えるように示されていますので、私は咳止めを積極的には使いません。

咳止めとして有名であるコデインについては、こちらの記事に書きました。

子供の咳止めとコデイン禁忌。小児科医が市販薬を考える。

2017年6月25日

咳は気道の異物を取り除くために出ていますので、気道の異物がとれると咳は改善するでしょう。
鼻汁が喉に垂れ込むと咳が出る場合もあります。
したがって、去痰薬(きょたんやく)で痰を取り除きやすくしたり、鼻汁を吸引したりします。

ガイドラインにはありませんが、ハチミツが咳を軽くするという論文は複数あります。
Effect of honey on nocturnal cough and sleep quality: a double-blind, randomized, placebo-controlled study.(Pediatrics. 2012; 130: 465-71)も結論としてハチミツが咳の症状を軽くした書かれています。

北海道家庭医療学センターが上記論文の要約を書いてくれていますので、参考になります。
ボツリヌス症の観点から1歳未満には勧められませんが、咳の軽減にハチミツは考慮されます。

まとめ

病院を受診しても、なかなか咳が治まらないと思われるお母さんもいるかもしれません。
特にきょうだいが多い場合や、保育園に通い始めたばかりである場合には、咳はなかなかよくなりません。
治ってきたと思ったら、またすぐに別の風邪をもらって咳き込みだします。

私の子どもも、2人目以降はいつも咳をしているような気がします。
咳を止めてあげたい気持ちは私もよく理解できます。

ですが、必要な咳はしっかりとさせて、子どもが肺炎や呼吸不全から守られることが第一の目標であると考えていますので、外来では繰り返し評価しながら咳を少しずつ軽くしてあげるようにしています。

 

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。